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(ジョバンニ視点①)

──────────

この世界には精霊と言う身勝手な存在がいる。
ジョバンニがそれを知ったのは15の時。通過儀礼として令息達が、三カ国合同の武術大会に参加し、そこで聖剣を手にした時だ。

『勇猛なる騎士よ』
そう言って現れた精霊は間もなく悪しき禍の種が芽吹くとジョバンニに言った。
異形が人々の胸に取り付き様々な禍を呼び起こし世界は混沌とした闇にのまれると。

その禍の種には意思が存在する。己の脅威となる聖なる乙女。癒しの聖女を排除する為動き出している。

─癒しの聖女を救出するのだ。


しかし精霊は力が未だに封じられたまま精霊樹の木に眠っているから後は自分で癒しの聖女を見つけろとぬかした。

「癒しの聖女?教会の?」

癒しの聖女が誰かは自分で判断しろと、そんな漠然とした事を理解など出来る訳もなく俺は間違えてしまった。

その日から俺は演奏会に参加する様になった。数年は熱心に探していたがいくら探しても癒しの聖女など見つからず、精霊の存在すら夢だった可能性を考えたほどだ。

しかし精霊の加護とギフトの特殊スキル【時空の覇者】がある為夢だった可能性が無い事は自分でもわかっている。

王は今年で300歳。そろそろ俺かクリストフを立太子させる為に選定の儀を行うつもりだと聞いている。

王妃パウラは隣国の言わば間者。クリストフは隣国の王の有益な手駒。しかし俺にしてみれば彼女がいくら手を回しても実質この国を支えているのは大臣達と教会なのだ。彼らの支持なく王にはなれない。

そしてそれは、俺にも当てはまる。

有益な後ろ盾が少なすぎる。


夕暮れ時に参加した演奏会でビアンカと言う今代の癒しの聖女、第一候補と目される少女に出会った。

ビアンカは第二王子である我が弟クリストフのお気に入りの令嬢で彼女のピアノの腕前は素晴らしい物だった。

自信に満ち溢れた優美な旋律になるほど確かに彼女が癒しの聖女だとジョバンニも確信するほどの才能を感じた。

やっと見つけた。この事を精霊樹の元へ行き報告せねば。

さて、帰ろうかと人の並に乗って立ち上がったところでなんとピアノの音色が聞こえてきた。先程ビアンカは自分が最後の演奏だと言っていたはずだが。

同時にクスクスと言う笑い声も。

前の席にいたビアンカは「あら、アリアンナの演奏がまだ残っていたわ。わたくしったら最後の演奏だなんて皆様に言ってしまって。でも、下手くそな演奏をする事にあの子悩んでる様だったから。誰もいない方がアリアンナだって緊張せずに済むのだもの。返ってよかったと思うわ。」
そう言ったビアンカは隣りいたクリストフとその友人やビアンカ自身のいとこ達に申し訳なさそうに笑いながら言っている。

あまり仲の良くないいとこなのだろうか。

クリストフは「君を羨みいつも嫌味ばかり言ってくるいとこにまでそんな優しさを与える必要はないよ。」と言って席を立ちビアンカの腰を抱くと俺を振り返り。「兄上も、早く戻らねば側近達が書類に埋もれていますよきっと。」と笑いながら去って行った。

クリストフは女癖の悪いお馬鹿だが、本当に馬鹿な訳では無い。アレの母親は完全な阿呆だが。なんとも厄介な親子だ。

俺はクリストフに手を振り、立ち上がる事無く前を向いた。

悲しい調べが人々の去った会場で奏でられる。悲しげな旋律の中にキラキラと輝く光を感じた。

痩せた女の顔は骨ばっていて美しくは無かった。ビアンカといとこだと聞いていなければとても彼女とは結び付かない。

けれど綺麗な瞳をしていた。

だから、演奏が終わって「君のピアノは美しい音色だね」と声をかけてしまったのだ。

「え?ひゃっ!?第一王子殿下!?」

慌てて立ち上がって彼女は自分のドレスの裾を踏んずけた。

濃いピンクのやたらとフリフリした、更に言えばサイズの合っていないドレスが余計に彼女の貧相な身体を俺に印象付けた。

肩を跳ね上げ窪んだ大きな目が飛び出しそうなほど驚いた少女にジョバンニこそ驚いた。真っ赤な顔をしたアリアンナは厚化粧をしており本来の肌色がわからない。けれどよく見れば整ったパーツをしている…ような、気がした。
少しだけ可愛いと感じたからそう見えたのかも知れない。

その日から俺は彼女を見かけると話をする様になった。
彼女はどうやらビアンカとライバルだと思って居るようだった。
少し神経質で警戒心が強いガリガリの猫の様な少女。少しだけ警戒を解き差し入れた菓子を頬張る姿が可愛らしくて。

その後、演奏会で見かければ俺は彼女に何かを食べさせていた。

ガリガリの猫は少しずつ慣れてそばに寄っても逃げなくなった。
そんなふうに餌付けをしていて気が付いた。
少しだけふっくらと肉付きが良くなったアリアンナは周囲から見ても美しく見える様になっていたのだ。
しかし、俺からすればかなり年下の少女だ。だから、この苛立ちは違う物だ。そう、妹に寄り付こうとする虫を排除しただけのこと。

しかし、しばらくすると南方の国境に癒しの聖女候補が現れたとの噂を耳にして俺は確認と保護の為に南方へと向かった。

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