幸せはあなたと

ヒイロ

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1章.現代

12.

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好きだと言われたけど僕には好きという感情が理解出来なかった。いつも嫌いという感情だけ受けて育った。周りは誰も信じられなかったし、信じてもらえなかった。好きってどういう感情なんだろう。

「意味分からないって顔だな。大丈夫。俺が教えていくから。優はそのままでいい。」

そのままでいてくれと言われた。それから何か変わるかと思ったけど熊も僕もいつも通りだった。あんなにイライラしてたのに不思議とそれもなくなった。熊がいるから?

ただ一つだけ変わったこともあった。何かにつけて熊が唇を押し付けてくる。朝起きたとき、歯磨きした時、映画を見てるとき、お風呂に入るとき、寝るとき。瞼だったり、頬だったり、髪だったり、耳だったり、唇だったり。それが何の意味があるのか分からないけど、熊が嬉しそうだからしたいようにさせている。たまに独り言のように、「意味分かってないんだろうな」と言ってるけど。

一週間が終わり日常が戻ってくる。鎖に繋がれた世界。熊が見たら何て言うかなと思うけど、こっちが現実だ。

「あんた、もしかして好きな人でもできた?」

唐突に言われて、意味が分からない僕は首を傾げた。好きな人。いないけど。

「いませんけど。」

ふーんと言ってるが笑ってる。

「人と関わるなって言っても無駄なのね。まぁ、今のうちにせいぜい楽しんでなさい。きっと後悔するでしょうから。」

と、笑う。背中を思いっきり蹴られ更に顔を蹴られた。小さくなって顔を庇う。何度か背中を蹴られ気が済んだのか出ていった。

「羽鳥保健室行くぞ。」

学校に行くとすぐに藤崎くんに拉致られた。いくら突っ張ってもズルズルと引きずられる。なんで僕の周りの人はデカイんだ。

「羽鳥くん。今日は1日ここで休むように。」

処置されてそのままベットに寝かされた。藤崎くんが帰りに迎えに来ると言う。

「もっと周りを頼りなよ。クラスの皆も心配してる。」

と、藤崎くんは言う。それでも

「僕は、ほっといて欲しいと思っています。すみません。」

溜め息をつかれた。分かったと言ってドアの前で立ち止まり、

「俺は、ほっとけないから。」

と言って出ていった。


あの後、あの人が何かしてくるんだろうと思っていたが、何事もなくいつもの日常が続いた。ホテルでの一週間も熊が僕と一緒に過ごしてくれた。

いつもの体勢で映画を見てると後ろから熊が

「優、そろそろ熊じゃなく名前で呼んで欲しいんだが。」

熊に名前を付ける?笑いが込み上げる。

「お前何か違うこと考えてないか?名前覚えてないとか…?」

不安げな顔で覗き込むので可笑しくなった。

「知ってるよ。晴一でしょ。名前で呼んでほしいの?」

そうだと偉そうに言う。見た目が熊だから難しいなぁと思って、後ろを振り向いたら期待を込めた目でこっちを見てる。

「別にいいけど。晴一さん?」

何でそんなに嬉しそうなの?名前呼んだだけで。

「呼び捨てでいいから。」

と頭にチュッと唇が落ちる。最近必ずどこかに晴一の唇が触れる。

「なぁ、優。大学行くのか?」

あの人は何もまだ言ってこないけど。

「わからないけど。勉強はしてるよ。」

そうかと言って抱き締めている腕が強くなる。

「優。もう少し待っててほしい。俺が絶対守るから。」

守る?。最近晴一といい藤崎くんといい僕をどうしたいのだろうか…。


ホテルから帰って次の日、あの人が学校に行く前に帰ってきた。首輪を解除するためだ。膝を付いて待っているとクスクスと笑い出す。

「へぇ~もっと遅いと思ってたけど…。」

楽しそうに笑っていた。いってらっしゃいと声までかけられて僕は訳が分からなかった。

学校までの道のりが長く感じた。何だか身体が熱いのだ。風邪引いたかな。それにしても熱い。学校に着くと周りが煩くなった。何をそんなに騒いでいるのか。

「羽鳥お前…。」

藤崎くんがびっくりしている。何でだろう。すぐに反対方向に走り出した。そうしてる間に僕の周りに人が集まってくる。
1人の男の子が僕に近づいてきて抱き締めた。知らない人で振り払うが、力が強くて振り払えない。なんだろうこの人息が荒い。あれ?僕の息も荒くなっている。しかし、何でこの人僕の身体を触っているのだろう。身体が熱いせいか考えないといけないことが、曖昧になってくる。僕の顔中に唇を付けてくる。熊とは違う荒々しい感じでなめ回された。首筋に舌を這わされた時ぞくっと変な感じがした。気持ち悪い…と思っていたのにもっとしてほしいって思ってる自分がいる。

「教室に戻って下さーい。」

保健室の先生が走ってきてる。それよりもっとこの人と居たいな。気持ちいいし。と思っていたのに引き離された。チクッと腕に何かが刺さる。痛い。

「羽鳥くん大丈夫ですか?」

ちょっとじっとしていてください。と言われ抱き抱えられてどこかに向かってる。ある建物に入り鍵を解除して中に入りそして施錠した。

「薬効いてきてますね。匂いが薄くなってます。」

僕はアルファですが、薬を飲んで番がいるので大丈夫ですと言う。

「羽鳥くん君は発情期に入っています。」

さっきまでのモヤがかかったような感じが消え頭がハッキリしてきた。

「発情期ですか?僕が?」

そうです。君は襲われそうになったんですよと。さっきの男の子が僕を?

「えっ?僕を襲う人がいるんですか?」

先生が項垂れている。でも、すぐに真剣な顔で

「羽鳥くん、番は想いあった人となるべきです。望まない番はお互い不幸になるだけだ。」

頭を撫でられて先生は優しい顔で

「好きな人はいますか?羽鳥くんこれからオメガの君は辛い思いをすることが増えるでしょう。でも、君は幸せになれます。だから諦めないで下さい。」

それからここが学校のシェルターだと説明を受けた。食べ物やシャワー室もあり色んな道具もあった。先生は一つ一つ説明をしてくれた。そして家に帰るかと言われたがあの人がいるので断った。するとヒートが終わるまでここで過ごすことを許可してくれた。薬が切れると辛いだろうが子供が出来るようになる準備なんだよと説明してくれた。

「そう言えば、羽鳥くん君はさっきの男の子が襲ってきたとき匂いがしたかい?」

「どんな匂いですか?別に何も感じませんでしたが。」

そうですか。だから良かったのかもと言っていた。

「君は、発育が遅れています。栄養が足りていません。きっとその影響でしょう。発情期に入るとオメガはフェロモンを発します。それにアルファは反応してラットが起きます。オメガはフェロモンでアルファを誘惑しアルファもフェロモンを出してオメガを自分の物にしようとしてしまう。さっき見ていて羽鳥くんはヒートになっていましたが、意識があったように見えたので。」

鼻がきかないということだろうか。でも、熊はいい匂いがする。でもあれは料理をしているからだろうけど。

「運命の番でしたらきっと匂いがするでしょうが。」

運命の番は本能的な結び付きが強いという。出会うとお互いに引かれ離れなくなると。出会う確率はかなり低いらしい。

「これから辛いでしょうが、きっと君を大切にしてくれる人が見つかります。それまで絶対に諦めないで下さい。」

そろそろ薬が切れるでしょうから、何かあったら部屋に備え付けの電話をかけるようにと言って鍵をかけていった。電話をかけない限りドアは開かない。僕にとってはいつもの空間だった。

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