噂の幽霊令嬢は、今日もお直しとトラブルに奮闘中!?

ゆずこしょう

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制服だけが知っている。

裁断痕は嘘をつかない。

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「それで…調査してみてどうだった?」


グレインが寮に戻ると、リンデルが机の上の教科書に目を落としながら背中越しに話しかけてくる。


「それは、どっちの調査ですか?」


制服のブレザーとタイをハンガーラックに掛けると、ドサッと腰を下ろした。


「両方だが、まずは今起きている学園トラブルについてにしようか。」


ペンを置いて椅子をクルッとグレインの方に向ける。


(王子だからってなんでも格好良くなるのか?)


「ハァ……いいですけど、生徒会室で話さなくていいんですか?他の二人だって気になっていると思いますよ?」


「構わん…。特に、あいつに知られると勝手に動き出して自滅するパターンが見えているからな。」


名前は出さなかったが、リンデルが誰のことを考えているかは容易に想像できる。


「そうですか…。ならいいですけど。調査してわかったのは二つですね。」


グレインは二本の指を立てると少し間をおいてから話を続けた。


「一つは、とある女生徒が疑いをかけられているということ。
もう一つは、これまで標的になった生徒たちが、その女生徒と何らかの関係を持っている点です。」


「……何らかの関係か……?その関係については目途が立っているのか?」


リンデルは足を組みながらグレインに先の話を続けるように促した。


「なんとなくですが…ただ確証は得られていません。」


「そうか…。ならこれ以上は聞いても無駄だな。」


リンデルはそれだけ言うと、クルりと椅子をもとに戻してそのままペンを取った。


「グレイン。一つだけ教えてほしい。お前はその女生徒が犯人だと思っているのか?」


その言葉はまるですべてを見透かされているかのような言葉だ。


(どうせ…この王子のことだから調べているんだろうな…。)


「犯人は別にいると思っています。むしろ真犯人すら、女生徒犯人と言われて今頃困惑しているのではないかと…。」


リルベーラが犯人と言われ始めたの昨日から。


それまでは紛失した制服が頑丈になって戻ってくるという噂だけだった。


(犯人からすれば…頑丈になって戻ってくる制服の意味も分からなかったと思うが…。)


「ふむ……。私も別に犯人がいると思っている。それと、私たちとは別に誰かが動いているのではないか…とな。」


その言葉には何らかの含みがあるように見て取れた。


「例えば…あの影の薄い令嬢とかな…。」


リンデルはちらりとグレインの方を見るとニヤリと笑う。


(あぁ~ヘルミーナ…気づかれているぞ…。)


「まぁ~、早期解決することに越したことはない。引き続き調査を進めてくれ。」


それ以上は話を聞く気がないのか、リンデルは机に向き直り、再びペンを走らせた。


(この王子…第五王子っていうのもあるだろうが、王子臭さが全くないんだよな…。)


グレインはリンデルに気付かれないように小さくため息を吐いた。



***


「あった、あった!!」


ユグラシルにあるフヴァマル図書館――


ここには四カ国から集められた、ありとあらゆる本が保管されている。


その中でも地下で厳重に保管されているのが、過去に起きた事件についてだ。


(本当は簡単には入れない場所なんだけど…今日は簡単には入れたわね。)


たまたま図書館にきて探し物をしていたら、司書の人が地下に入っていくのが見えた。


それを追っていくとすんなり入ることができたのである。


司書の視線が、私のいるはずの場所を素通りする。
……やっぱり、見えていない。


(こういう時は便利よね。入るときは鍵が必要だけど、出るときは特に必要がないのは調べ済みだから安心だし。)


音を立てないように本を手に取ると、近くの椅子へと腰を掛けて本を開いた。


本にはXXXX年の学園で起きた事件についてまとめられている。


(なんとなくだけど、昔も似たような事件があったんじゃないかって思ったのよね。)


今まで何着もの制服を直してきたヘルミーナ。


そのどれもが戸惑うことなくきれいに裁断されていた。


普通だったら人の物を切るのに少しくらい躊躇うことがあってもいいのにだ。


刃の入れ方が均一で、迷いがない。


まるで、何度も同じ作業を繰り返してきた人の手癖だ。


(模倣犯か…もしくはその関係者か…。)


ぺらぺらとめくっていけば一つの事件について気になるものが書かれている。


―――

XXXX年XX月 学園内非公開資料

女子生徒の制服紛失事案が断続的に発生。

発見までに数日を要する点、
および発見時にはいずれも
鋭利な刃物による切断痕が認められた点が共通している。

修復は不可能と判断された。

調査の過程で、
仕立て部所属の生徒一名が容疑者として特定された。

当該生徒は仕立て屋の家系に生まれ、
裁断用具の扱いに長けていた。

本人は容疑を否定したが、
現場付近より本人所有の裁ちばさみが発見されたことから、
本件は同生徒の犯行として処理された。

なお、
被害の発生条件および動機については
十分な検証が行われたとは言い難い。

―――


(確かに…似ている事件だけど一か所だけ違うわね。)


修復不可能なほどの切断面。


今回は逆に修復不可能ではなかった。


(自分が仕立て屋の娘だからこそわかる。あれは…裁断に慣れていなければできないはずだ…。)


(……少なくとも、衝動的にやる切り方じゃない…わよね。)


(……この事件、終わったことになっているけど。
 本当に、それだけなのかしら)


ヘルミーナは本を閉じ、静かに棚へ戻した。


その瞬間――


コツン、コツン


誰かがヘルミーナのいる方へと歩いてくるのが見えた。


(や、やばい…隠れないと…。見えないけど…)


ヘルミーナは近くにあった本棚に隠れると一人の男が周りを確認してから一冊の本を取り出した。


(それは…)


それは、ヘルミーナが読んでいた一冊と同じだった。


男はしばらくそのページを見つめ、ふっと小さく息を吐く。


「……まだ、残っていたか」


そう呟くと、本を閉じて地下室を後にした。


それを、ヘルミーナは物陰から見ていた。


(……あの人、一体何を知っているのかしら。)


図書館の地下室に入れる人は限られている。


(ここに入れるってことは……学園の先生の可能性が高いわね…。ちょっと調べてみようかしら。)


ヘルミーナは男が出たのを確認すると、誰も近くにいないことを確認して図書館を後にした。
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