荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女。15歳になる。

オークエンペラーのとんかつ。

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「アンナ……」


「あら? アレット。どうしたの?」


トマトのように真っ赤になったアンネリーゼを見て、アレットは深くため息を吐くと、無言で彼女の首根っこを掴んで歩き出した。


「えっ!? ちょ……何するのよ!?」


これからオークエンペラーを解体して、おいしいご飯を作ろうと思っていた矢先のこと。肩透かしを食らった気分だ。


「そのままで調理するのは禁止って、何度も言ってるでしょ? 貴女はまずシャワーを浴びてきなさい。わかったわね?」


アレットの声には、どこか怒りが含まれていた。


それもそのはず。


今のアンネリーゼは、オークエンペラーの血をもろに浴びて、頭からつま先まで真っ赤な状態なのだから。


むしろ、よくこのまま調理しようとしたものである。


アンネリーゼはアレットにされるがまま、ズルズルと引きずられて神殿の中へと入っていく。


その姿は、まるで散歩中に「もう歩きたくない」と座り込む犬のようだった。


「うぅぅ~~このままじゃダメなのぉぉぉ?? オークエンペラーちゅあんの鮮度がぁぁぁぁぁ~~!!」


魔物は討伐してから時間が経つと、肉が硬くなって食べられなくなる。それどころか、アンネリーゼのように浄化できるスキルがなければ、そもそも食用にはできない。


そう考えると、アンネリーゼの調理スキルは……万能である。


「貴女が出刃包丁でオークエンペラーを真っ二つにしたおかげで、ある程度浄化はできているわ。私たちでも肉を捌くことくらいできるんだから、貴女はまずきれいにしてくること。そうしなければ……」


「……そうしなければ……?」


アンネリーゼがじーっとアレットの顔を見つめると、彼女は少し目尻を吊り上げながら言い放った。


「もう料理はさせません!!! 調理場に入るのも禁止します!」





……


………


「えぇぇぇぇ!?!?!? そんなのひどいじゃないいいい!!」


何を言っても放そうとしないアレットを見て、これ以上は無理だと悟ったアンネリーゼは、反論することなくドレスのまま浴室へと投げ込まれた。


「もう…変なところは子供のままなのよね。ただシャワーを浴びればいいって言ってるんだから、さっさと浴びてくればいいのに……」


浴室からシャワーの音が聞こえてきたのを確認したアレットは、静かに来た道を戻っていった。



***


アレットがアンネリーゼを連れて行ってしばらくすると、アレットが一人で神殿前に戻ってきた。


その間、聖女や神官たちはケルネリウスの指揮のもと、オークエンペラーの巨体を部位ごとに丁寧に捌いていた。


「肩ロースに、ロース、ヒレに、バラ……それにモモか。……それにしても、すごい量だな」


今まで討伐していたのは、人と同じくらいの大きさのオークばかりだった。


だが、オークエンペラーは神殿以上の巨体を誇っていた。


そう考えれば、食べられる量が桁違いなのも納得だ。


ある程度部位ごとにまとめ終えた頃、


タイミングよく、アンネリーゼが戻ってきた。


「ほら……部位ごとに分けて置いたぞ?」


ケルネリウスがそう言うと、アンネリーゼは満足そうにうなずく。


どうやら、今日食べるものはすでに決まっているらしい。


「ありがとう! じゃあ、今日は折角だし、ヒレ肉を使ってトンカツを作りましょう!!それと豚汁にご飯……なんてどうかしら?」


皆に聞こえるように明るく話すと、先ほどまでの剣呑とした空気はすっかり消え、聖女たちは笑顔で頷いた。


何をするか一人ずつ指示を出していくと、アンネリーゼは先ほどよりも小ぶりな出刃包丁を取り出し、ヒレ肉を切り始める。


「アンナ。僕たちも手伝うよ」


今までどこにいたのか、ダミアンとイアンがひょっこり姿を現した。


「では、お父様はキャベツの千切りを。イアンお兄様は、ここにあるパンをひたすら細かくしてください。ああ、あまり力を入れすぎないようにお願いしますね。力を入れると衣がおいしくなくなってしまうので……」


アンネリーゼ特製のパンとキャベツをかごいっぱいに渡され、二人は顔を真っ青にして頷いた。


「あっ……そうそう!逃げようとしても無駄ですから?ここでは“働かざる者食うべからず”ですから!!」


サボってもばれないだろうと高を括っていたようだが、聖女たちがしっかり見張っていたらしく、逃げ道はなかった。


ご飯に関しては、アンネリーゼの方が一枚も二枚も上手だった。


「んふふぅぅ……それじゃあ邪魔も……じゃなかった、二人になったことだし始めましょうか? オークエンペラーちゅぁぁぁ~ん!」


いつも通り、うっとりとした表情でヒレ肉を見つめるアンネリーゼ。


しかし、ここにはもうその姿に騙される者はいない……


「「「(自分の家族を……邪魔者って言おうとしたな……)」」」


それからアンネリーゼは、一つ一つ繊維に沿って丁寧に切っていく。


切れたかもわからないほどの柔らかさ。


切れ目は、先ほど棍棒を振り回していたとは思えないほどに、キラキラと光り輝いている。


「んふふふ~~! これは……食べなくても分かるわ……絶対おいしいって……」


普段から棍棒を振り回してくれていたおかげか、脂身は少なく、柔らかいながらも身は引き締まっている。


一つ一つ丁寧に切り終えると、次は衣をつけ始めた。


ヒレ肉の部位は通常ならば全員に行き渡ることはない…


だが、そこはさすがエンペラーオーク。


全員がトンカツを食べても、まだ余るほどの量があった。


お鍋いっぱいに、オークエンペラーのヒレ肉が沈むくらいの油を注ぎ込む。


「んふふ……これくらいで、ちょうどいいわね!」


火をかけると、油がゆっくりと温まり始めた。


アンネリーゼは、油の表面に浮かぶ揺らぎを見つめながら、ちょうどよさそうな温度になると、お鍋の中に、パン粉を一粒落とす。


「じゅっ…」

パン粉から小さな音と、細かい気泡が上がり、丁度いい温度だと知らせてくれる。


「油の温度、完璧ね!」


ヒレ肉を一枚とり、小麦粉、卵をくぐらせて、先ほどイアン達に作ってもらったパン粉をたっぷりとくっつけ、準備ができた油の中に、ゆっくり投入すれば先ほどよりも大きな「ジュワ~ッ」という音が響き渡った。


油の中でヒレ肉が踊るように揺れ、黄金色の泡がふつふつと立ち上る。


アンネリーゼは鍋の前にしゃがみ込み、目を輝かせながらじっと見つめた。


「んふふふ……この音、この香り……もう、絶対おいしいって確定ね!」


油の温度を保つように火加減を調整しながら、トンカツの表面がきつね色に染まっていくのを見守っていれば、匂いと音につられて、他の作業をしていた聖女たちも鍋の周りに集まってきた。


「いい匂い……」


「本当ね。今からご飯が楽しみだわ!」


「早く食べたいわね!」


匂いをおかずに食べる想像をする聖女たち。


その姿を見たアンネリーゼは、どこか誇らしげだった。


トンカツの表面をそっと箸で持ち上げ、裏返す。


「よし……この色、この厚み……完璧じゃない!」


油の中で、トンカツがぷくりと膨らみ、衣がカリッと音を立てた。


「あと少しよぉぉぉ! 待っててねぇぇぇぇ、エンペラーオークちゅぁぁぁ~ん!」


ウフフと笑いながら、揚がるのを待っていれば、トンカツはいい具合のきつね色へと変身していく。


頃合いを見計らって油から引き上げれば まな板の上にのせて、一口大の大きさに切る。


「サクッ……サクッ……サクッ……」


揚げてもお肉の柔らかさが変わらないことに、アンネリーゼは感動を覚える。


早く食べたいとばかりに、どんどん揚げていき、皆に行き渡るのを確認すると、祈りの歌を捧げた。


「豊穣の女神ケレスティナ様に感謝を……」


祈りの歌が終わると同時に、待ってましたとばかりに皆がヒレカツにかぶりついた。





……


………


「「「……んんんん~~~~~~んまぁぁぁぁぁぁぁ~~~い!!!!」」」


それは、今までに食べたどのお肉よりも——


おいしい味だった。
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