荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は海へ行く。

混沌とした王都。

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アンネリーゼたちがトンカツを囲み、幸せな時間を過ごしていたその頃——


「こ、これは一体どういうことだ。あ、あいつが全部やったのか!?」


この一年、ほとんど王城から出ることのなかったエルネストは、王都の惨状を目の当たりにして混乱していた。


それもそのはず…


かつて青く澄み渡っていた空は、今や瘴気に覆われ、街の至る所には戦った後のような爪痕が残されている。


むしろ、今までなぜ気づかなかったのか…そう思うほどの変化だった。


エルネストが逃げ出さないよう、強制的に同行させられていたエダンは、その姿を見て深いため息を吐く。


「あいつとは……アンネリーゼ様のことですか?」


ただただ呆然としながら、その言葉に頷くエルネスト。


だが、そもそもアンネリーゼがこのようにしたのではない。


原因は、エルネスト自身が彼女を王都から追い出したことにある。


それをこの男は理解しているのだろうか。


(……いや、していないだろうな)


「そうだ! すべてはあいつが王都を攻撃しているからなんだろう!? そうなんだろう!?」


自分は悪くないと言ってほしいのか、すがるような目で必死にエダンにしがみつく。


しかし——


エダンが首を縦に振ることはなかった。


エダン・アズラール。


アズラール伯爵家の三男であり、オレールの兄でもある彼は、イアンに頼まれてエルネストの側近となり、この四年間ずっと監視を続けていた。


本来であれば、アンネリーゼとともに神官騎士となる予定だったが、オレールのアンネリーゼに対する熱意に負け、渋々その座を譲ったのだ。


そして、周囲に興味のないエルネストは、エダンがアンネリーゼ側の人間であることに気づいていない。


(あぁ……俺も早くラファリエールに戻りたいものだな)


陽の光すら入らなくなった空を眺めながら、エダンは静かにため息を吐いた。






……


………

二人の間に、鉛のような沈黙が流れた。


風は止まり、空気はまるで濡れた布のようにまとわりつき、呼吸すら重く感じる。


空は灰色に沈み、まるで世界そのものが息を止めているようだった。


瘴気の匂いが、土と血の混じったような鈍い臭気となって街を這い回る。


その重い沈黙は、目の前にいる男だけでなく、王都全体が、自分の敵になったのではないかと錯覚させるほどだった。


そんな中、少し離れた場所から様子を見ていた少年が、恐る恐るエルネストに近づいてきた。


「どうしたの? 大丈夫?」


その声は、瘴気の中に差し込んだ一筋の光のようだった。


だが、エルネストは少年の顔を見るなり、


「うわぁぁぁぁぁ~!! や、やめてくれ……ぼ、僕は何も悪くない……!」


突然叫び、少年を両手で押し返した。


少年は驚いて尻餅をついた衝撃で目を見開く。


近くにいた人たちも何事かとこちらを振り向いた。


「大丈夫? ごめんね。このお兄ちゃんのことは放っておいてくれていいから。心配してくれてありがとう」


エダンは静かに少年に近づき、優しく手を差し伸べる。


少年が立ち上がると、エダンは小さく微笑みながら、この場を離れるように促した。


少年は何も言わず、こくりと頷いてその場を去っていった。





……


………


瘴気の匂いが、再び静かに街を這い回る。


空は灰色のまま、風もなく、ただ重い沈黙だけが残されていた。


そして、その沈黙を破ったのは……


「ふ…ふはは……んひひひひ!!」


先ほどまで絶望に沈んでいたとは思えない、歪んだ笑い声だった。


「ふははははははは! そうだ! ぼ、僕は悪くないぞ! 悪いのは全部あの女だ!」


エルネストの目は虚ろで、焦点が定まっていない。


まるで自分を正当化するかのように、王都のど真ん中で、空に向かって話し出す。


「ふひひ…いいことを思いついた……あの女が仕事を放棄して、セラフィエルの地に引きこもってしまったことにしよう……」


「そしてそのせいで、この王都は瘴気に覆われることになった……」


「そうだ……あいつが魔物をこの王都に送り込んでいることにしてしまえばいいんだ……!」


もしかしたら、エルネスト自身は、今の言葉を口に出していることに気づいていなかったのかもしれない。


だが……


ここにいた民衆たちは、その言葉を一言一句、確かに聞いていた。


「……あの女が仕事を放棄して、セラフィエルの地に引きこもった」


「……魔物を王都に送り込んでいるのは、あいつだ」


その言葉は、瘴気よりも濃く街の空気に染み込んでいく。


そして、民衆の中にあったアンネリーゼへの疑念は、音もなく崩れ落ちた。


すべてが繋がった。


アンネリーゼが仕事をしなくなったのではない。


そもそも——彼女はもっと前に、王都から追放されていたのだ。


王都を覆った瘴気は、すべて王族のせいだった。


その事実だけが、確かに伝わった。


だが、そのことに気づいていないエルネストは、一人で舞い上がっていた。


「ふははははは! これでいい……これで僕は悪くない……!」


エルネストはアンネリーゼを“厄災”として仕立て上げ、王都の混乱をすべてアンネリーゼの責任にすり替えた。


そして…


アンネリーゼ討伐部隊を、セラフィエル領へと派遣する。


もちろん、討伐部隊の指揮はエルネスト自身。


エルネストが厄災アンネリーゼを倒したとなれば王族としての名誉が守られると思ったのだろう。


しかし、民衆は知っている。


悪いのは、アンネリーゼではなく王族である。


ということを…


果たして、どちらについて行くのがいいのか…


民衆たちは今の話を聞いて少しずつ動き出していた。


「(俺もラファリエールに帰ろうかな…)」


エルネストの姿をみて、ついて行けないと思ったエダンはラファリエールに帰ることを決意するのだった…。



そして一方——


王都が大変なことになっていることなど、まるで知らないアンネリーゼは、


「私! 海が見たいわ! 昆布や魚、タコ、イカ……んふふ、おいしい海鮮が食べたいの!!」


満面の笑みで、海を目指そうと画策していた。
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