荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女。荒地を開拓する②~海の町を復興しよう~

オーソドックスにバーベキューでいきましょう!

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「ただいまぁぁぁ~~~!」


遺跡から出て、シルトクレーテのもとへ戻ると、甲羅の上から手を振る聖女たちの姿が見えた。


「「「おかえりぃぃぃぃ~~~!」」」


その声は、波の音に負けないほど元気いっぱいに響き渡った。


遺跡に入る前、瘴気に覆われて灰色に沈んでいたネプヌス海の空。



今は、ほんの少しだけれど、雲の切れ間から木漏れ日が差し込み、海面にキラキラと光が踊っている。



「どうやら、少し瘴気は晴れたようね」


「そうだな……」


アンネリーゼがふとケルネリウスを見れば、彼の団服は所々破れ、赤く染まっていた。


「っふふふ……あなたが土以外で汚れているなんて珍しいわね!そんなに死闘だったの!?」


いつも汚れていたとしても、せいぜい土まみれになる程度のケルネリウス。


魔物と戦っても返り血ひとつ浴びない彼が、ここまで血みどろになるのは、確かに珍しい。


ケルネリウスは苦笑しながら、肩をすくめた。


「……まあな。お前が寝てる間に、ちょっとばかし暴れてたんだよ」


アンネリーゼは目を丸くしたあと、すぐにニヤリと笑った。


「ふふっ、じゃあ今日は特別に、ケルネリウスの分も多めに作ってあげるわね。血の分だけ、カロリー補給しないと!」


「……お前の料理、カロリー補給ってレベルじゃねぇだろ……」


二人の笑い声が、晴れ始めた空に溶けていく。


アンネリーゼは目を丸くしたあと、すぐにニヤリと笑った。


「へぇぇぇ~、じゃあ今日は特別に、ケルネリウスの分も多めに作ってあげるわね。血の分だけ、カロリー補給しないと!安心して!今日もおいし~い料理を作る予定だから♪」


「……お前の料理、カロリー補給ってレベルじゃねぇだろ……」


アンネリーゼは、狙いを定めたかのようにケルネリウスの傷口をバシバシと叩く。


「い、いた……ご、ごめん。もう言わないからやめてくれ。俺も、お前の料理楽しみにしてるから……」


「あら?そう……?食べたくないなら、別に無理しなくてもいいんだけど?」


アンネリーゼはわざとらしく笑うと、そのまま聖女たちのいる方へと駆け出した。


残されたケルネリウスは、ため息をつきながら、ゆっくりとその背を追いかけるのだった。


***


「さぁぁぁぁぁ~~~~!!!


みんなぁぁぁぁ!!バーベキューにするわよぉぉぉぉ!!」


皆のもとに着くなり、アンネリーゼは両手を高く掲げ、声高らかに宣言する。


その声に、聖女たちが「わぁぁぁ!」と歓声を上げた。


ずっとこの時を待っていたかのように、アンネリーゼのお腹は——


"ぐぅ~~~ぐぅ~~~……"


と、盛大に音を立てて鳴り響いた。






……



………


"ぐぅぅぅ~~~~~~!!!"


アンネリーゼのお腹の音に返事をするように、聖女たちのお腹も鳴り響く。


それを聞いたアンネリーゼと聖女たちは顔を見合わせて——


「んふふ…」


「んふふふ…」


「ふふふふふ…」



「「「ふははははははは!!!」」」


盛大に笑い合った。


まるでその声は、空へと昇っていったサイレーンたちへの祈りの笑いだった。


それから、アンネリーゼは調理道具をいつも通り準備する。


「今日はね!海鮮バーベキューよ!」


帆立、サザエ、アワビ、カキにハマグリ。


普段一か所に揃うことはないであろう貝たちが、ずらりと並ぶ。しかもその大きさは、人の顔の二回り以上もある。


それに、小さめの蟹はタラバガニに似ていて、クラゲはビゼンクラゲそっくり。


(蟹は焼きガニ、クラゲはお刺身にしたいところね!んふふ……こんなに一気に海の幸が食べられるなんて、幸せだわぁぁぁぁ~)


一つ一つ業務用冷蔵庫から取り出すたびに、「おぉぉぉぉ!!」と聖女や神官たちから拍手が巻き起こる。


アンネリーゼも、食材を取り出すたびに頬の筋肉が緩んでいくのが分かる。


「んふふ……これだけじゃないわよ!!」


ぺろりと舌なめずりしながら、奥から今日のメインディッシュ——「クラーケン」と「カンマールス」を取り出した。


クラーケンの身は、真っ白に透き通っていて、とても美しい色をしている。


カンマールスは甲殻こそ固いが、その下にはプリップリの身がたっぷり詰まっているのが見て取れる。


アンネリーゼが、いつものように出刃包丁を取り出すと——


エリザベッタが、後ろからそっと近づいてきた。


「んふふ、さぁ!料理をはじめ——ひぃッタタタタタタ……!」


耳を勢いよく引っ張られるアンネリーゼ。


「あなた!?まだ懲りてないのね?」


「こ、懲りてます、懲りてます!着替えてお風呂入ってきますぅぅぅぅ!!」


耳を引っ張られる方が、普段の首を引っ張られるよりも数倍痛い……


アンネリーゼは、エリザベッタに耳を引っ張られたまま、清子が住んでいた家へと連れていかれた。


その姿を見た聖女たちは——


「懲りないわね……」


「またかぁぁぁ……」


「仕方ないわよ……だってアンナだもの!」


「「そうね……アンナだから仕方ないわね!!」」


と、それぞれ納得していた。



***


聖女たちがそれぞれ準備をしていると——


家の方から、すごい勢いで走ってくるアンネリーゼの姿が見えた。


その速さは、駆け回る馬よりも速く、風をも超える勢いだ。


彼女が駆け抜けた場所に生えていた草木が、通ったことにも気づかないほど静かに巻き上がる。


「んふふふふふ!!」


遠くから聞こえるアンネリーゼの笑い声が、さらに不気味さを醸し出していた。


「さぁぁぁぁ~!!今度こそ始めるわよおおお!!」


すでに薪を燃やして準備万端の聖女たち。


その上に網を乗せると、一つ一つ丁寧に貝を並べていく。


井形に積み上げた薪の中央には、大きなカンマールスがそのままドーンと乗せられ、炎の上でパチパチと踊っていた。


「バーベキューと言えば、オーソドックスに醤油とバター?それに、塩、コショウもありねぇ……あと一つ、特製ソースでも作っておこうかしら」


醤油ベースに、刻んだニンニク、みじん切りした玉ねぎ、砂糖、みりん、お酒を加えて、よく混ぜる。


(本当は、ケチャップとかソースとか、ごま油があれば最高なんだけど……今回はこれで完成ね!)


それとは別に、レモン汁も用意した。


ソースの準備が終わると、ちょうど網の上に乗っていた貝たちが——


「パカッ!」「パカッ!」


と、次々に開き、まるでダンスを踊るかのように湯気を立て始めた。


皆がそれぞれ食べたいものを皿に乗せて持っていくと、アンネリーゼも自分の皿に、食べたいものをこんもりと盛りつけた。


見映えよりも食い気重視のアンネリーゼにとって、味が変わらないのであれば問題ない。


さすが、食い意地だけは天下一品のアンネリーゼである。


「では、いただきましょう!!」


アンネリーゼが祈りの歌を捧げると、皆は目の前にある海鮮に一斉にかぶりついた。





……


………


「……ハフハフハフ……」


勢いよく口に入れたせいで、熱さに口をハフハフさせる。


少し冷めてくると、改めて咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。


「んふふふふふ!!!!お~~~~~いし~~~~~い!!」


「「「お~~~~いし~~~~~い!!」」」



お腹も満ち、気持ち的にも落ち着いてきたアンネリーゼは、一人祠へ向かった。


「はい。あなたは食べられるかわからないけど……」


そう言いながら、祠の前にしゃがみ込み、貝やクラーケン、カンマールスを盛りつけた皿をそっと置く。


その瞬間——


「……無事、戻ってきたか……杏菜。」


祠の奥から、静かに響く声。


シルトクレーテが、ゆっくりとアンネリーゼに語りかけた。


「えぇ。サイレーン……いえ、清子さんがね。あなたに“よろしく”って言っていたわ。
あなた……気づいていたんでしょう?」





………


…………


シルトクレーテとアンネリーゼのあいだに、静かな沈黙が流れる。


その間を、そっと風がなびいていく。


それはまるで、清子がすぐそばで話を聞いているかのようだった。


「あぁ……確証はなかったがの。もしかしたら、そうなのではないかと……思っていた。」


シルクトレーテの声は何処か懐かしさを帯びていた。


「清子は、よく祠の前で歌っていたよ。どれも祈りの歌というわけではなく、ポップな歌ばかりだったがな。日本にいたときは“地下アイドル”とやらをやっていたそうだ。踊りながら歌う姿は、それはもう……可愛らしかった」


「へぇぇ~。惚れてたんだぁぁ」


祠の横に座りながら、空を眺めるアンネリーゼ。


「いやぁ……そんな感情はなかったなぁ。どちらかというと、孫を見ている……という感じだろうかのぉ」


(孫って……まぁ、海亀になって相当長いようだし。人間らしい感情も、少しずつなくなっていくのかもしれないわね)


シルトクレーテは、そのまま話を続ける。


「清子は気づいていなかったが、毎日歌っていたからか、いつの間にか歌の中に力が宿っていた。そのおかげか、魔人となるのではなく、サイレーンに進化したのだろう。そして――儂もまた、清子の歌う歌が好きじゃった」


アンネリーゼは、そっと目を伏せる。


そして、静かに口を開いた。


「……清子さん、言ってたの。“ありがとう、シルトクレーテ。あなたがいてくれたから、私は最後まで笑っていられた”って」





……


………


風が、ふわりと吹き抜ける。


祠の周りの草花が、さわさわと揺れた。


「……そうか。あの子らしいの……」


シルトクレーテの声は、どこか遠くを見つめるように、優しく響いた。


アンネリーゼは立ち上がると、もう一言、伝える。


「それと……こうも言っていたわ。あなたが寂しがり屋だって。シルトクレーテ、私との約束は覚えているかしら?
これから一緒に旅をしましょう?そして、おいしいものをたくさん食べましょう?」


「ふはははは!どこまで行っても、本当に清子にそっくりじゃて。まぁな、儂も退屈していたところだ。どれ、ひ孫の相手くらいしてやらんといかんな」


清子が孫なら、シルトクレーテにとってアンネリーゼは“ひ孫”なのだろう。


「えぇ!ひぃおじいちゃんに相手してもらえるなんて、私も嬉しいわ!これからよろしくね、ひぃおじいちゃん!!」


風が清子の歌を運び、祠の草花がそっと揺れた。


そしてアンネリーゼは、祠の方に振り返って満面の笑みで叫んだ。


「さぁ!次は何を食べに行こうかしら、ひぃおじいちゃん!!私的には…そろそろ焼肉が食べたいわね!」


その声を聞いていたかのように、清子の家から聖女たちの笑い声が響き渡った。
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