荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女。火山でご馳走を探す。

甲羅の上の会議。

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「イアンお兄様!!」


シルトクレーテから飛び降りると、アンネリーゼは勢いよくイアンに抱きついた。


イアンは妹の突然の抱擁に頬を緩ませ、デレデレとした顔になっている。


「アンナ!そ――」


「ナイスタイミングです!!」


そんなに会いたかったのか…と続けようとしたイアンだったが、アンネリーゼはすでに彼の背後に目を向けていた。


ぱっと表情を明るくし、声を弾ませる。


「わぁ…!職人さんに農家さんに商人さんまで!この短期間でよくここまで集めたわね!さすがシュバルツだわ!」


イアンの横を通り過ぎ、アンネリーゼはガブエール辺境伯の次男シュバルツのもとへ向かう。


彼はキャスバルの兄でもあり、幼い頃からアンネリーゼをよく知る人物だ。


少し落ち込んだ様子で、イアンがぽつりと呟く。


「俺との再会は…?」


それを聞き取ったのはケルネリウスだけだったのか、彼はイアンの肩にポンと手を置いて小さく首を振る。


「あいつには何を言っても無駄だ…諦めろ…」


その言葉にイアンはケルネリウスに抱きつき、涙を流した。


一方、アンネリーゼはシュバルツの前でにこりと微笑む。


「アンネリーゼ様。ガブエール領より、瘴気に耐性のある者たちを選抜して参りました。神官、聖女、そしてこの地に根付く覚悟を持った職人や商人たちです。」


「そんな、かしこまらないでよ。昔みたいに“アンナ”って呼んで頂戴?」


シュバルツは大きくため息を吐き、ガシガシと頭を掻いた。


「はぁ…まったく、お前は昔から変わらないな。無茶ばかりしやがって…」


そう言いながらも、彼はアンネリーゼの頭を乱暴に撫でる。


その顔は、妹を優しく見つめる兄のようだった。


「ふふふ。シュバルツも変わっていないわ!その粗雑な感じ…海の男ってするわね!」


小麦色の肌に金髪、海をはめ込んだような青い瞳。


イアンやケルネリウスよりも一回り大きい鍛え抜かれた筋肉は、ま るで漁師の男を連想させる。


二人で久しぶりの再会を喜んでいると、アンネリーゼは思い出したかのようにパンパンッと手を叩いた。


「これからについて、話し合いをしたいと思いま~す!!」


その声を合図に、シルトクレーテが甲羅をぐぐっと持ち上げ、陸地と繋がる道を形成する。


その瞬間、シュバルツやイアンをはじめとした人々が「おぉぉぉぉ~!」と歓声を上げた。


「さぁ、こちらへどうぞ!私たちのお家へ案内するわ!」



アンネリーゼがシルトクレーテの方を指し示すと、不思議そうな顔をしながら後を追った。



***

「ここは……一体……?」


誰かがぽつりと呟く。


「ここは、シルトクレーテの甲羅の上よ」


アンネリーゼは簡潔に、しかし誇らしげに答えた。


「シ、シルトクレーテだと!?」


その名を口にした瞬間、周囲の空気が変わった。


人々の顔がぱっと輝き、ざわめきが広がる。


それだけ、シルトクレーテと清子の物語は、各地で語り継がれているのだ。


――聖女と聖獣の旅の物語。

世界を巡り、食を与え、瘴気を祓う。

その姿は聖女であり、料理人でもあったという。

そして、ふたりの旅路には、いつも笑顔があったとも――


「ほ、ほ、本当にいたんだ……」


誰かが震える声で呟いた。


伝説の地に立っているという実感が、彼らの胸を高鳴らせていた。


だが、感動に浸っている暇はない。


このままでは埒が明かないと感じたアンネリーゼは、すぐに話を切り出した。


「早速なんだけど……私はこれから、セラフィエルを旅しようと思います!」






……


………



アンネリーゼが立ち上がって旅に出ることを伝えると、先ほどまでの熱気が嘘のように、場に静寂が訪れた。


「えっ…と…?」


誰も何も言わないことで、珍しくアンネリーゼが慌てる。


その中で、一人が「ぷっ…」と小さく笑った。


「クッ…」


「ククッ…」


「ク…ククッ…」


「「「ハハハハハハハ!!!」」」


皆が瘴気すら吹き飛ばしそうな勢いで笑い出す。


アンネリーゼは、なぜ笑われたのか分からず、不思議そうに首を傾げながら顔を真っ赤にして叫んだ。


「えっ…?ちょッ…どういうこと!?」


「知ってるよ、そのくらい…」


イアンはアンネリーゼの頭に手を乗せ、ぐるぐると撫で回した。


「うっ…気持ち悪いです!お兄様やめてください!って…知っていたんですか!?」



「……あぁ。だから俺たちはここまで来たんだ」


イアンの言葉に続いて、後ろに控えていたガブエール領の人々が一斉に首を縦に振った。


「任せてください!アンネリーゼ様!!」


「私たちがこの地を、元の姿に戻してみせます!」


「アンネリーゼ様には、残りの地を託しましたよ!!」


その声に、アンネリーゼはぱっと表情を輝かせた。


「じゃあ、決まりね!私はセラフィエルを旅して、美味しい魔物を探して、焼いて、食べて、祈って、また食べるわ!」



「やっぱりな…食べることがメインか…」とケルネリウスがぼそりと呟いたが、誰にも拾われなかった。


それから各々がどう行動していくかの会議が始まると、アンネリーゼが何か閃いたように大声で叫んだ。


「リース!!!地図を持ってきて!!」


「は!?地図!?」


まさかここで地図を持って来いと言われるとは思っていなかったケルネリウスは、急いで清子の家に戻り、地図を取って来るとアンネリーゼに手渡した。


アンネリーゼはその地図を広げ、細い木の枝を手に取ると、シルトクレーテの位置にそっと立てる。


枝を立てたまま、彼女はふと空を見上げた。


雲がゆっくりと流れている。


風は、南へ向かっていた。


「うん……風向きも悪くはないわね」


ぼそりと呟いたアンネリーゼに、ケルネリウスが不思議そうな顔を向ける。


「何してんだ?」


「まぁまぁ、見てればわかるから~」


アンネリーゼは笑いながら、地図を見るように促した。


「そぉれ!!」


掛け声とともに、彼女はそっと手を離す。


まるで風が次の行き先を後押しするように、枝はゆっくりと、地図の上を滑るように倒れていく。




……

………


「…フフッ…決まったわ!!次の行き先はここよ!!」


枝の倒れた先を指さすアンネリーゼ。


次の行き先は――


「「「ウルカヌス火山!?」」」


ネプヌス海から少し南に位置する、火山地域だった。


「さぁ~!!出発よ!!一体どんなおいし…じゃなかった魔物たちに出会えるのか!楽しみね!!」





***



アンネリーゼたちが出発した頃、王都では――


「俺……このままだと王都は危ないと思うんだ。妻のことも心配だし、ラファリエール領に行ってみようと思う」


「そうだな……俺もこのままこの地に住むわけにはいかない。せめてアンネリーゼ様に、今の状態を知らせないと」


「俺も家族が心配だ。一旦、領地に帰ろうと思う」


それぞれが、自分なりの“正しさ”を胸に、足を動かし始める。


剣を置いた者たちは、静かに、しかし確かな意志を持って王都を離れていった。


その姿を見たエルネストは――


「な、な、なぜ!!!なぜ俺についてこないんだ!?厄災は俺ではない!アンネリーゼなんだぞ!?」


目の前から消えていく騎士たちを見て、エルネストはひとり怒鳴り声をあげ、怒り狂った。


だが、誰も振り返らなかった。


その声は、王都の石畳に虚しく響くだけだった。
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