荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女。火山でご馳走を探す。

ウルカヌス火山。

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「イアンというお主の兄、泣いていたが……よかったのか? 折角の兄妹じゃというのに」


イアンたちと別れて三日。


アンネリーゼたちはシルトクレーテに乗り、次なる目的地――ウルカヌス火山へと向かっていた。


「いいのいいの! あれはいつものことだから。それにイアンお兄様には別の仕事をお願いしてるし!」


シルトクレーテは、祠を通して会話をしていた。


ケルネリウスに調べてみてもらったところ、


どういう原理かは分かっていないが、長い年月をかけてこの祠に“意識が宿った”のではないか――ということだった。


「そうか……それならいいが。それで、ウルカヌス火山だったか。懐かしいのぉ。昔、清子と周ったわい」


ウルカヌス火山。


常に火山活動が続くこの地域では、緑は少ないものの、地下には広大な鉱山が広がっている。

溶岩の熱を活かして鍛えられる刃物は、どれも業物ばかり。

かつては世界中の職人たちがこぞって買い求めるほどの名品が生まれる地だった。



「へぇ~…清子さんと周った地域なんて……なんだか素敵じゃない。行ってみたら思い出すことが色々ありそうね!」


ゆっくりと海を進むシルトクレーテ。


アンネリーゼは祠の隣に腰を下ろし、風に髪を揺らしながら、語られる思い出に耳を傾けていた。

清子の家からは、今朝焼いたパンの香りが風に乗って漂ってくる。


ふと空を見上げれば、澄んだ青が広がっていた。


パンの香りのする方角から、雲がゆっくりと流れてくるのが見える。


「そういえば……三日も経つけど、この辺りは瘴気をあまり感じないわね」


この三日間、彼女たちはシルトクレーテの甲羅から一度も降りることなく、海に揺られていた。陸路もあるにはあるが、ウルカヌス火山へはネプヌス海をぐるりと回るのが最短だという。それに、甲羅の上には清子が残した食材が山ほどあり、アンネリーゼが倒してきた魔物たちも業務用冷蔵庫に眠っているため、外の空気を吸う必要がなかったのも、理由のひとつだった。


「む…言っていなかったか……儂の上には常に結界が貼られておる。だから瘴気は届かん。杏菜、お主も儂の上に住むようになってから、身体に何か変化があったのではないか?」


シルトクレーテの言葉を聞き、アンネリーゼは自分の身体を確認するが、違和感は特になかった。


あるとすれば、空気が軽い…ということだろうか。



「そういえば…お主は清子と同じくそういうことには疎かったのぉ…」



その言葉にムッとした表情を見せるアンネリーゼ…だが、普段から他の聖女たちと一緒にいても少し違うということを自分でも感じていた。


エリザベッタにはよく――


「なんで貴女はそんな元気なのよ?」


と言われたほどだ。


そんなエリザベッタたちの様子を思い浮かべながら、アンネリーゼは小さく首をかしげた。


「そういえば……私はあまり感じなかったけど、エリザベッタたち、よく言ってたわ。『空気がこんなにきれいで、身体が重くないのはラファリエール領以来だわ!』って。顔色も悪くなかったし……もしかして、そういうことなのかしら?」


「……うぬ。そういうことだ」

(本当に清子に似ているのぉ……興味のないことには無頓着。皆で楽しく食べるごはんが好き。違うところと言ったら……アンネリーゼは戦闘が好きだ、ということくらいか)


風の音が耳に心地よく、ゆったりとした時間を堪能するように、祠の横に座っていたアンネリーゼは、ゴロンと寝転び、目を閉じた。

だが、シルトクレーテはそんな彼女を見ても、咎めることはなかった。


他の者なら「貴族令嬢なのにはしたない」と眉をひそめるかもしれない。


だが彼は魔物。そして、前世は日本人。


価値観は、この世界を生きる人々とはまるで違っていた。


アンネリーゼもそれを知っている。


だからだろうか――シルトクレーテといるときは、自然と“元日本人らしい”行動が出てしまうのだった。



「さて…あと半日もすればウルカヌス火山に着く。そろそろ準備はいいかい?」


「えぇ…いつでも準備はできているわ!だっておいしい魔物に出会えるんだもの!今度はどんな子がいるのかしら?んふふ……考えただけで、もうワクワクが止まらないわ!」


シルトクレーテは、祠の奥で小さく笑った。


「ふふ……ほんに、お主は清子に似ておる。だが、戦の匂いにここまで嬉々とするのは、アンネリーゼだけじゃのう」


甲羅の上には先ほどよりも温かい風が吹き抜ける。


火山の香りだろうか…何かが焼け焦げたにおいが風に乗って、アンネリーゼの元へと届いた。


彼女は目を細め、鼻をくんくんと動かす。


「……ふふっ。これは、期待できそうね」




***


アンネリーゼがウルカヌス火山にたどり着いた頃――


ラファリエール公爵領には、ルシフェール国の民が押し寄せていた。


「ダミアン様!! ルシフェールの民が、門を破って押し寄せています! 荷車を引いた者も、赤子を抱えた者も、皆が門を叩いています!」


ノックもせずに扉を開けたのは、ダミアンの従者――ブラス・ラミエールだった。


「ブラス。そんなに慌てなくても、分かっている」


ダミアンは顔色ひとつ変えず、目の前の書類を淡々と片付けていく。


その姿を見て、ブラスは少しずつ冷静さを取り戻していった。


イザークから手紙が届いて以来、ダミアンは何度もやり取りを重ねていた。


王族への不信感が根強い民にとって、エルネストの言葉は“見放すに足る”ものだった。


「……あいつは仕事を放棄して、セラフィエルの地に引きこもったことにしてしまおう」


「魔物を王都に送り込んだのは、あいつだと広めればいい」


その言葉は、知人から知人へと伝わり、やがて噂となって街を覆った。


そして最後には、こう囁かれるようになった――


「ラファリエール公爵領に行けば助かる」


それも、ダミアンの計算のうちだった。


彼はすでに、王都に何人かの者を忍ばせていたのだ。


「大丈夫だ。これで準備は整った」


そう言って、ダミアンは不敵に笑った。
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