荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は聖女達のために最高の武器を作る。

眠りのアンネリーゼ姫?

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「アンナ!?!? 大丈夫!?」


耳を抑えてくれていたアンネリーゼの手が、急に離れた。

その瞬間、ティアナは慌てて声を上げた。


そして…少しずつ暗闇に慣れてきて、辺りを見渡すと――


アンネリーゼが、床に倒れていた。


「ちょ……アンナ……? お、起きてよ……。冗談よね……?」


「…~~…ろー…す…と…スゥ~…」


揺さぶると少し反応はあるが、まるで夢の中にいるような状態なのか…


規則正しい寝息が聞こえてくる。


「ティアナ。」


ティアナの叫び声を聞きつけたのか、ケルネリウスが急いで近づいてきた。


「ケルネリウス様……アンナが……いくら呼んでも『ローストビーフ…』としか応えてくれないんです……」





……


………


「「「「「…は!?」」」」」


緊張感漂う状態の中、アンネリーゼが倒れたことでより一層気を引き締めなければならない…。


そんな時に出てくる言葉まさかの「ローストビーフ」


あまりのアンネリーゼらしい発言に思わず誰かが「ぷっ…」と小さく笑った。



そしてそれを皮切りに、全員が大声で笑い出した。



「あはははは…さすがアンナだわ!」


「本当ね。まさかこんな状況でも、お弁当のことだけを考えているなんて……」


「でも、そのおかげで、一瞬にしてこの場の空気が変わったわ……」


「ギィィィ…ギギギ…ギチチチチ…」


先ほどまで、魔物の鳴き声と暗闇におびえていた聖女たちの姿は、もうそこにはなかった。


「ふっ……リーゼ。どうやら、ここにいる聖女たちは全員、お前の背中を見て成長しているようだぞ。」


ケルネリウスは眠るアンネリーゼをそっと抱き上げ、小さく笑った。


そして、この場にいる中で最年長の聖女・フィナが、冷静に判断を下す。


「このまま進むのは危険だわ。一度引いて、陣形を立て直しましょう」


ここにいる聖女や神官の中で、戦えるのはアンネリーゼとケルネリウスのみ。


神官たちも戦えなくはないが、ケルネリウスのように魔物を軽々と仕留めるほどの技量は、まだ備わっていない。


それを理解しているからか、皆は頷き合い、ゆっくりと後退を始めた。


「ギィィィ…ギギギ…ギチチチチ…」


魔物の鳴き声が、鉱山の奥から響いている。


ケルネリウスはアンネリーゼを抱えたまま、出口までの道のりを先導した。


「なんだか…様になっているわね…」


「それは…ケルネリウス様だってお顔が整っているもの。アンナの隣にいるから、いつも霞んでしまっているだけだわ…」


遠くに出口が見えてきたことで、聖女たちにも少し気持ちに余裕が出てきたのか、二人の姿を見てコソコソと話していた。


(…聞こえているぞ。)


ティアナはそのすぐ後ろで、何度もアンネリーゼの顔を覗き込みながら歩いていた。


「……ローストビーフ……」


アンネリーゼが寝言のように呟くたび、ティアナは泣き笑いになりそうな顔で「今は黙ってて…」と囁いた。


やがて、鉱山の出口が見えてくる。


赤い光が遠ざかるにつれ、空気の重さも少しずつ和らいでいき、聖女たちからはホッと安堵する言葉が漏れ始めた。




***



「早かったじゃない……どう……って、アンナ……?」


シルクトレーテの所に戻ると、残っていたエリザベッタが聖女たちを出迎えた。


いつも通り、元気いっぱいに「ただいま~!」と返ってくることを想像していたようだが――


その元気の源であるアンネリーゼは、ケルネリウスの腕の中でスヤスヤと寝息を立てている。


それを見たエリザベッタは、アンネリーゼの元へ駆け寄ると、ケルネリウスを睨みつけた。


「ちょ……これは一体どういうことよ!? なんであんたがいながら、こんなことになってるのよ!?」


「す、すまない……」


一応、ケルネリウスはアンネリーゼの護衛だ。


思うところがあったのだろう。悔しそうな顔をして謝る姿に、エリザベッタもそれ以上返す言葉が見つからなかった。


なぜなら――


アンネリーゼは、操縦の難しい暴走した馬のような存在だと、幼馴染であれば全員が知っているからだ。


何なら、馬の方が可愛いくらいである……。


エリザベッタとケルネリウスの間に重い沈黙が流れると――


それを割って入るかのように、アンネリーゼが寝言を発した。


「……スゥ……スゥ……ダメ!! やめて……スゥ……スゥ……」


その言葉を聞いた二人は、お互いの顔を見て、思わず「ぷっ」と笑いあった。


「そうね……アンナの言う通り、今は仲間割れをしてる場合じゃないわ」


「そうだな……今はこれをどうにかしないとならない……」


二人が今後のことを考えていると――

アンネリーゼの目が、パッと開いた。


「「アンナ!?」」





……


………


「あげないわよ! 絶対! それ私のローストビーフなんだから!!!!!……スゥ……スゥ……」


ずっとローストビーフの夢でも見ているのか――


アンネリーゼはそれだけ言うと、また深い眠りへと落ちていった。


「全く……どこまで行っても食い意地だけはすごいんだから。夢でくらい大人しくしてなさいよね」


アンネリーゼの髪を梳きながら笑うエリザベッタ。


その仕草からは、幼馴染として、家族として、そして親友として――


彼女を心の底から大切に思っていることが、はっきりと伝わってくる。


「全くだ……」


ケルネリウスもまた、アンネリーゼを優しく見つめていた。


(頼むから早く目覚めてくれ……イアンとダミアンが怖いんだ……)


しみじみとした空気の中、皆がアンネリーゼを見つめていると――


キャスバルが、ふと何かを思い出したように口を開いた。


「……そうだ。シルクトレーテなら、何か知っているかもしれない」


その言葉に、皆が顔を上げる。


だが――


ここでシルクトレーテと会話ができるのは、アンネリーゼだけ。


というよりも、彼女がどこで、どうやってシルクトレーテと話しているのか――誰も知らなかった。


そんな時、ケルネリウスの記憶にひとつの光景がよぎる。


いつだったか、アンネリーゼが祠の前で誰かと話しているのを見たことがあった。


ふらりと姿を消しては、祠の横に座り、誰かと語り合うようにしていた。


その時は、ただ一人になりたいのだと思っていた――だが、今思えば。


「……もしかして、祠に行けば何かわかるかもしれない」


「祠……?」


聖女たちは首を傾げる。


そもそも、そんな場所があったことすら知らなかったらしい。


ケルネリウスは、エリザベッタとキャスバルにアンネリーゼを任せると、


無言で祠の場所へと向かっていった。
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