荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は聖女達のために最高の武器を作る。

ブレーティオ鉱山。

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「じゃあ……おにぎり食べよっか!!」


「えっ!?今シルトクレーテの背中から降りたばかりなんだけど!?」


アンネリーゼののほほんとした声に、思わずツッコミを入れるのは聖女の中で最年少のティアナだ。


アンネリーゼより一つ年下で、金髪に淡いピンクの瞳。高めに結んだ二つの髪は、今日もゆらゆらと揺れている。


ティアナの言葉を聞いて、他の聖女たちも同じことを思ったのか、うんうんと頷いていた。


もちろん、神官たちもだ。


「いいの、いいの~!!ほら、早く食べてぇぇ~!!じゃないとぉ……」


アンネリーゼの声に仕方なくおにぎりを受け取ったその瞬間──


"ズゥーン……"


身体が急に重くなった。


「な、な、なにこれ…」


「…えっ…もしかして…魔物が近づいてきてるの?」


「こ、こ、怖いんだけど…」


アンネリーゼとケルネリウスを除いた全員が、まるで上から何かに押さえつけられているかのように、ぺたりと地面にひれ伏した。


「ほら、だから言ったじゃない。早く食べなさいって……あなたたち、セラフィエルに入ってすぐの時のこと、忘れちゃったの?」


その言葉に、聖女たちはハッとした顔をする。


(どうやら思い出したようね…)


セラフィエルに入ってすぐの頃、瘴気の濃さに耐えられず、体調を崩す者が続出した。


あの時も、アンネリーゼの特製プリンを食べたおかげで、なんとか持ちこたえられたのだ。


あれがなかったら、今頃どうなっていたか――。


それを思い出した聖女たちは、アンネリーゼからもらったおにぎりを手に取り、少しずつ口に運ぶ。


「最近はずっとシルトクレーテの上にいたから忘れていたのね。それまでは、なんだかんだ私の料理を食べていたから大丈夫だったのよ。」


シルトクレーテの上には結界が張られているし、その前もずっとアンネリーゼの作った料理を食べていた。


最近では聖女たちの料理スキルが上がってきたおかげで、アンネリーゼが一人で作ることはなくなっていたのだ。


それが――今回、このような事態を招いてしまったのである。


おにぎりを食べて身体に力が入るようになったのかか、聖女たちは少しずつ立ち上がる。


その様子を見届けると、アンネリーゼはブレーティオ鉱山の方を指さした。


「さぁさぁ!元気出して、ブレーティオ鉱山に突撃よ~!!」


アンネリーゼの言葉にそれぞれが歩き出そうと足を一歩踏み出せば、地面が微かに震える。


「ん…地震…かしら…?」


「ん?なんか言ったか…?」


聞こえるか聞こえないかの声でアンネリーゼが呟くと、前を歩いていたケルネリウスが振り向いて声をかけてくる。


「なんでもないわ!」


(気のせい…だといいんだけど…)


アンネリーゼは首を横に振り、前を歩いている聖女たちの元へ向かう。


そして今度は、自ら先頭に立って歩き始めた。


その姿を見ていたケルネリウスは、ひとり首を傾げる。


「…なんだか、さっきより空気が重くなってきているように感じるのは…気のせいではないよな…」



ケルネリウスの声は、風と一緒に音に消えた。



***



「ここが、ブレーティオ鉱山……」


「な、な、何か出そうじゃない……?」


「うっ……これならお留守番してればよかったかも……」


歩き始めて一時間――


アンネリーゼたち一行は、ウルカヌス火山とは真逆の位置にあるブレーティオ鉱山の前に立っていた。


岩肌は黒く焼け焦げ、ところどころに赤い光が脈打っている。


一人ずつしか入れないような岩の割れ目。どうやら、ここが入り口らしい。


中からは、ピチョン…ピチョン…と雫が水たまりに落ちるような音が響いていた。


ティアナは近くにいたアンネリーゼの腕を掴み、へっぴり腰になりながら周囲をキョロキョロと見渡している。


他の聖女たちも同様に、肩を寄せ合いながら歩いていた。


光源は、アンネリーゼが持つ蝋燭一本のみ。


光が遮られているせいか、いつも以上に音に敏感になっているのが分かる。


――ピチョン…ピチョン…


「アンナ…もう少しゆっくり歩いてよ…」


「ゆっくりって…これ以上は無理よ?これでもあなたたちに合わせて、いつもの倍は遅く歩いてるんだから」


ティアナは恐怖のせいか、膝に力が入っておらず、なかなか前に進めていない。


アンネリーゼもそれを感じ取っているのか、小さく溜息を吐いた。


(これなら…置いてきた方がよかったかもしれないわね…)


後が残りそうなほど強く握られた手を見ていた、そのとき――


蝋燭の明かりが、“フッ”と音を立てて消えた。


「え!?何事!?!?!?」


「えぇぇぇ…私のくらいの無理。何とかしてぇぇぇ!」


「きゃぁぁぁぁぁ~~~…だ、だ、誰か!?明かり、明かり!!」


その瞬間――


赤い光が、何十…何百…とアンネリーゼたちの方を灯した。


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!」」」


「えぇぇぇぇ~~何あれぇぇぇ!? めっちゃおいしそうな匂いがするんですけどぉぉぉ!!」


皆の声がブレーティオ鉱山の中に響き渡る中、アンネリーゼだけは、まったく別のことを考えていた。


目の前には――アンネリーゼたちの顔ほどの大きさの蝙蝠が、


壁や岩に逆さ吊りのようになって、所狭しと並んでいた。


「うはぁぁぁ~……おいしそう~……これはあれね、スモークチキンみたいだわ……というよりも、スモークそのものかしら。この蝙蝠がいると、スモークサーモンとか、スモークチーズとか……スモークベーコン……燻製が作れそうだわ……んふふ……今から楽しみぃぃぃ……!!」


その言葉を聞いたティアナ達はもアンネリーゼが舞い上がっている姿を見て…逆に冷静になるのだった。


……その直後、鉱山の空気がわずかに震えた。



熱気とは違う、湿った重さが肌にまとわりつく。


「「「ギィィィ…ギギギ…ギチチチチ…」」」



一体一体が、同じように鳴くためか、音は頭の中に直接響いてくる。


心地いいとは言えない、その音に――


アンネリーゼは「耳をふさいで~~~~!!」と叫び、咄嗟にティアナの耳を両手で塞いだ。


そのあとも、



「「「ギィィィ…ギギギ…ギチチチチ…」」」



という音が、鉱山の奥から響き渡ってくる。



そして次の瞬間――



「や、ヤバイ…。」



アンネリーゼの視界は真っ暗になった……。
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