荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は聖女達のために最高の武器を作る。

お弁当作り。

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「それで、宛はあるの? 急に……武器を作るって……」


エリザベッタの言葉に、先ほどまでの笑い声がぴたりと止まり、場が静まり返る。


しかし――アンネリーゼだけは違った。


「んふ……んふ……んふふふふ」


腰に手を当てながら、「よくぞ聞いてくれました!!」とでも言うように勢いよく立ち上がると、一冊の古びたノートを手に持ってくる。


その表紙には――「清子の日記帳」と、日本語で書かれていた。


恐らく、誰にも読まれることがないように、清子が、自分だけの言葉で綴ったものなのだろう。


「これは、シルトクレーテと一緒に旅をした聖女様の手記よ」


ここに、清子の名前を知っている者はいない。


それは、アンネリーゼとシルトクレーテだけが共有する秘密だからだ。


「聖女様の……手記……」


シルトクレーテと並ぶほど、物語の中で語り継がれる伝説の聖女――清子。


その名が口にされた瞬間、聖女たちは一斉に、


「おぉぉぉぉぉ~~~」


と、感嘆の声を上げた。


「ここに書いてあるのよ。切れ味抜群! 骨まで力を入れることなく切ることができる――幻の包丁があるって……」


魔物を捌いたり、切ったりするうえで、骨の処理は至難の業だった。


今までは神官たちに手伝ってもらっていたが、この包丁があれば、それも必要なくなるということだ。


その言葉を聞いた瞬間――聖女たちは「ごくり」とつばを飲み込んだ。


「それは……すごいわね……」


「えぇ……これから料理もしやすくなるわ……」


「おいしい料理がたくさん食べられるなんて、幸せじゃない……」


あくまで“武器”として準備する予定なのだが――


聖女たちの頭の中は、すでにご飯のことでいっぱいになっていた。


(強くなるのはありがたいが、ここまでアンネリーゼ化しなくていいと思うんだが……)


聖女たちを見ていたケルネリウスは、首を軽く横に振りながらため息を吐く。


神官たちも同じことを思っているのか、彼と同じように首を横に振った。


「じゃあ……これからについて説明するわよ! まず、この包丁だけど――ルミナイト・オリハルコンという鉱石が必要なの!」





……


………


「「「ルミナイト・オリハルコン!?」」」


初めて聞く名前に、聖女たちは一斉に首を傾げる。


神官たちも、自分たちの剣の素材に使えないかと聞き耳を立てていたのか、思わず振り返った。


「そう! ルミナイト・オリハルコン!」


清子の手記には、“ブルーティオ鉱山の奥深くに眠る石”とだけ書かれていた。


だが、アンネリーゼにとってはその情報だけで十分だった。


(せっかく知らない土地に来たんだもの。冒険だって楽しまなきゃ損よね!!)


「それを取るために、ブルーティオ鉱山へピクニックに行くことにするわ!もちろん、美味しいお弁当をたくさん持ってね!」


そう言うと、アンネリーゼは今まで倒して残っていた魔物たちを使って、料理を作り始めた。


そして聖女たちも、「ピクニックなら私たちも行けるかも……!!!」と、ノリノリで料理作りに参加するのだった。


(本当に……大丈夫なのか……? アンネリーゼの言う“ピクニック”だ。きっと、皆が思っているようなピクニックじゃない気がするが……)


勘違いしている聖女たちを見て、ケルネリウスはひとり、ため息を吐いて空を見上げた。


アンネリーゼたちの高揚とは裏腹に――


雲は、ゆったりと流れていくのだった。



***


「いくら業務用冷蔵庫が時間を止めてくれるとはいえ、ずっと食材を寝かせておくのは気が引けていたのよね~!」


そう言って、アンネリーゼがバサバサと取り出したのは――今まで倒して保存していた魔物たち。


「お弁当と言ったら、卵焼きに唐揚げ、それにミートボールとか……おにぎりにサンドイッチ……サンドイッチの具には絶対あれを入れないとね…んふふ。せっかく持っていくなら、いろいろ入っていた方がいいし…んふふ…今から食べるのが楽しみだわ~!」


ロックバードの肉を一口大に切り、漬けダレに浸けている間に、卵を取り出して塩、醤油、そしてほんの少しのお砂糖を加えてかき混ぜていく。


その間、他の聖女たちはせっせとおにぎりを握っていた。


プロセルピナ神殿を出てから数ヶ月――


そろそろお米も底をつきそう……というタイミングで、シルトクレーテの上で清子が育てていたであろう“奇跡のお米”に出会えたのは、アンネリーゼにとってまさに幸運だった。


その米は、炊くだけでふわりと甘く、冷めてももちもち。


聖女たちは握るたびに「これ、絶対おいしい……」と笑顔をこぼす。


「リース、あなたはこれをお願い」


聖女たちとアンネリーゼが忙しく動く中、ただ呆然と見ていたケルネリウスのもとにアンネリーゼがボウルをもって近づいてきた。


中には、いつの間にミンチにしたのかと思うほど細かくなったオークエンペラーの肉と、刻んだ玉ねぎが入っている。


「お、おい……これは……?」


「手が足りないの~。こうやってこねて頂戴! 粘り気が出るまでやめちゃだめよ~!」


やり方だけ伝えると、そそくさと自分の持ち場に戻っていくアンネリーゼ。


ケルネリウスはボウルの中に恐る恐る手を入れて、こね始めた。


(うっ……触感が……手に伝わってくる……)


ケルネリウスの気持ち悪いというよな顔も気にせず、アンネリーゼは四角いフライパンを取り出し、卵焼きを焼き始めた。


(んふふ……ここに来て卵焼きを作るのって初めてかもしれないわね。久しぶりだけど、うまくできるかしら!)


前世から料理が好きだったアンネリーゼは、よくお弁当を作って仕事へ行っていた。


彩りを考えて、卵焼きは定番だった。久しぶりに作るその感触に、懐かしさがこみ上げてくる。


熱したフライパンに油を敷き、菜箸で卵液を押し付けると――“ジュッ”と小さな音が響いた。


「完璧な火加減ね! さぁ~卵焼き作りましょうか!」


何が始まるのかと、聖女たちが手を止めてアンネリーゼのもとへ集まってくる。


フライパンに薄く卵液を流し込み、ある程度固まったら、菜箸で手前から外側へくるくると巻いていく。


これが、意外と難しい。


何度か繰り返すうちに、きれいな四角い卵焼きが完成した。


まな板の上に置き、一口大に切っていくと――


「おぉぉぉぉ~~~~!!」


という感嘆の声が響き渡る。


端っこを少しつまんで口に運ぶと、ほのかな醤油の香りと砂糖の甘さがふわりと広がった。


「んふふ~……久しぶりにしては上出来ね!」


アンネリーゼが満足げに頬張るのを、聖女たちは羨ましそうに見つめていたが――


これは卵焼きを作った人の特権。泣く泣く自分たちの持ち場に戻り、おにぎりやサンドイッチの仕上げに取りかかった。


「おい……これ、そろそろやめていいか?」


卵焼きにうっとりしていると、ケルネリウスがボウルを持って現れた。


どうやら、こねる作業に飽きてきたらしい。


「あ、ありがとう……(すっかり頼んでいたこと忘れてたわ……)タイミングばっちりじゃない!」


笑顔でボウルを受け取るアンネリーゼ。


だがケルネリウスは、心の中で思っていた。


(こいつ、絶対忘れてたな……)


そこからは、お弁当作りの仕上げとばかりに、アンネリーゼがすごいスピードで詰めていく。


お弁当箱には、彩り豊かなおかずが所狭しと並んでいた。


卵焼き、唐揚げ、蛸のから揚げ、ミートボール、ブロッコリー、トマト、ハンバーグ――


おにぎりの具は、塩と梅干し、そして清子の湖で獲れた魚のほぐし身。


そして仕上げは――


今日のメインディッシュとも言える、バラモーラの肉をふんだんに使ったローストビーフのサンドイッチ。


「んふふ……短時間でよくここまで作れたわね~! 本当に皆、料理の腕がめきめき上がって嬉しいわ!」


綺麗に盛り付けられたお弁当箱を、うっとりと眺めるアンネリーゼ。


それを冷めないように、自分の業務用冷蔵庫に丁寧に収めていく。


アイテムボックスまではいかないが、食材を保存できるこのスキルは、こういう時に本当にありがたい。


「さ~~!! じゃあ……行きましょうか! ブルーティオ鉱山へ、しゅっぱ~つ!!」


「「「おぉぉぉぉ~~~~!!」」」


シルクトレーテの上から、エリザベッタとキャスバルが手を振っている。


皆で手を振り返しながら――


アンネリーゼたちは、伝説の鉱石を求めて、ブルーティオ鉱山へと出発した。
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