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食いしん坊聖女は聖女達のために最高の武器を作る。
聖女達は地下アイドルをめざす。
しおりを挟む「ワン、ツー、スリー……違うぞ! そこの手はもっと上にあげるのじゃ!」
「角度が合っておらん! もう一度!!」
「歌詞を間違えたら祈りは届かんぞ! やり直し!」
「腹から声を出すのじゃ!」
ケルネリウスに呼ばれ、突然集められた聖女たち六人は――
理由も告げられぬまま、ダンスと歌の特訓を受けていた。
「アンナを助けられるっていうから、ついてきたけど……はぁ、はぁ……」
「えぇ……まさかこんなことをやらされるなんて……」
呼ばれて早々、手渡されたのは――二十枚の紙。
そこには、細かく記載されたダンスの振り付けと、それに合わせた歌詞がびっしりと書かれている。
「……いいか! 君たち六人には、大変な使命が課せられた!今から六人で、この歌と踊りをマスターしてもらう!」
「「「「……は……!?!?」」」」
唐突な言葉に、全員が目を見開いた。
空気が一瞬、凍りつく。
誰も言葉を発せず、ただ茫然と立ち尽くしていると――
フィナがその空気を変えるように、ケルネリウスに話しかけた。
「ちょっと待ってください、ケルネリウス様。これは本当ですか?私たちは聖女であって、踊り子ではないのですが……」
「……俺がこんなことで嘘をつくと思っているのか? フィナが言いたいことなど百も承知だ。だが――シルクトレーテ殿がおっしゃったのだ。アンナを助けるには、これしかないと」
そう言って、ケルネリウスは後ろにある祠を指した。
「……え? えっと……ただの石しかないですけど……」
ティアナが祠を指さしてケルネリウスを見る。
彼は何も言わず、ただ静かにうなずいた。
その時――
「全く……おぬしらは揃いも揃って、失礼な奴ばかりじゃな。別におぬしらをここに捨て置いても、儂は構わんのだぞ……」
祠から響く声――シルクトレーテは、アンネリーゼと旅をしたくてついてきただけ。
聖女や神官たちを乗せているのは、アンネリーゼが大事にしている仲間だからに過ぎない。
正直言って、シルクトレーテにとってそんなことは、どうでもいいことの一つにすぎなかった。
(もう……人間だったころのような気持ちには、ならんのぉ……)
「いいか?おぬしらが杏菜を助けたいというから儂は力を貸してやるだけ。儂にはおぬしらを救う義理も情もないことを努々忘れる出ないぞ。」
そう言い放つと、シルクトレーテの甲羅に根を張る木々や草花が、ざわざわと揺れ始めた。
風は吹いていない。
それでも、葉は震え、枝はしなり、苔の間から小さな光が立ち上る。
それは、この祠に宿る“意思”が、ただの石ではなく――
かつて命を持ち、今もなお心を持つ存在であることを、静かに証明していた。
その揺れは、怒りでも威圧でもない。
ただ、長い時を越えてなお、誰かの願いに応えようとする“意志”の震えだった。
「も、申し訳ございません。シルクトレーテ様。私は……アンナを助けたいと思っています。ですので……この歌とダンスを、教えていただけないでしょうか?」
目の前で、人知を超えた現象を目の当たりにした聖女たちは改めて、この海亀島が“シルクトレーテ”そのものであることを理解した。
もとから疑っていたわけではない。
だが、そこまで実感がなかった――それが、本音だった。
聖女のひとり、ミレイユが静かに頭を下げる。
それに続くように、他の聖女たちも一斉に頭を垂れた。
その姿は、祈りではなく――
覚悟の始まりだった。
***
「うむ……歌詞と振り付けは覚えたようじゃの。まぁ……音程が気になるが……良しとしよう」
シルクトレーテがそう呟くと、聖女たちはほっと息をついた。
聖歌とはまるで違うテンポとリズム。
地下アイドルの曲は、軽快で明るく、それでいて一糸乱れぬ動きが求められる。
そのため、歌詞と振り付けをマスターするのに、丸一週間を費やすこととなった。
その間も、聖女としての務めは続く。祈り、癒し、儀式の準備――日々の仕事をこなしながら、早朝と夕暮れのわずかな時間を縫って、彼女たちは集まり、汗を流した。
「やったぁぁぁ!!ついに歌は完成ね!あとはダンスだけよ!」
「本当ね。ここまで長かったわ…。でもこういうのもなんだかいいわね…青春って感じがするわ。」
「普段とは違う汗。なんだかとてもいいです…」
その姿を、シルクトレーテは静かに見守っていた。
そして、ふと懐かしさに胸を締めつけられる。
(懐かしいのぉ……いつだったか……部活をやっていた頃は、毎日があんな感じじゃった)
朝練に遅れまいと走った日々。
放課後、仲間と声を張り上げて、何度も何度も繰り返した練習。
笑い合い、涙を流し、ぶつかり合い、それでも最後には同じ方向を向いていた――あの頃。
(……まさか、こんな形で思い出すとはのぉ)
シルクトレーテの甲羅に根を張る草花が、そっと揺れた。
それは、彼の心がわずかに動いた証だった。
「さて……ここからは、ダンスと歌を融合させる時間じゃ。ここから一段と難しくなるからのぉ。皆、覚悟するように」
シルクトレーテの声は、以前よりも柔らかかった。
それは、聖女たちが日々努力を重ねる姿を見ていたからに他ならない。
「「「はい!!!」」」
まるで先生と、生徒。
聖女たちの返事は、どこか誇らしげで、少しだけ楽しげだった。
こうして、地下アイドルとしての最後の仕上げが始まった。
それから一週間後――。
「うむ。まぁ……八十点くらいか。及第点としようかの」
シルクトレーテの言葉に、聖女たちは一斉に歓声を上げた。
「「「「やったぁぁぁぁ!!!」」」」
手を取り合って喜ぶその姿は、まるで大会で優勝したときのよう…
汗と涙と笑顔が混ざり合い、祠の前に小さな光が満ちていた。
その様子を見ていたシルクトレーテは、六人に声をかける。
「これは……おぬしたちのために用意した。当日はこれを着て踊るのじゃ。踊るのは満月の夜。月に一番近い場所で。杏菜は眠ったまま、近くに置いておけばよい。わかったな?」
そう言うと、どこから取り出したのか――ポンッと音を立てて、
それぞれの手元に一式の衣装が現れた。
フリルたっぷりのミニスカート。
胸元には大きなリボン、袖には繊細なフリル。
手袋に、頭に飾る帽子まで揃っている。
「こ、これは……?」
「か、かわいい……」
「こ、こんな短いスカート……はけるかしら……」
戸惑いと歓喜が入り混じる聖女たちの反応を見ながら、シルクトレーテはふと、清子のことを思い出していた。
(懐かしいのぉ……清子も、衣装を作ったらよく喜んでくれたものじゃ)
「おぬしらに似合いそうな色を用意した。いわゆる“メンバーカラー”というものじゃ」
「「「メンバーカラー!?」」」
「うむ。それぞれに合わせたカラーという意味じゃ。これからこの歌と踊りは、世界へ広まっていくじゃろう。
じゃから――儂からの餞別じゃ」
そして、シルクトレーテはミレイユに近寄るように言う。
「それと……ミレイユ。お前にはこれをやろう。そして――センターで踊るのじゃよ」
ミレイユの手元に、ひときわ輝くイヤリングが現れた。
それは他の五人とは違う、特別な色を宿していた。
その言葉を聞いた瞬間、ミレイユの瞳から涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとう。シルクトレーテ様」
人には、得意不得意がある。
ミレイユは運動が大の苦手だった。
だからこそ、他の五人よりも数倍の時間をかけて練習してきた。
その姿を、シルクトレーテはずっと見ていた。
その努力を、誰よりも知っていた。
アンネリーゼへの祈りとはまた別の、ミレイユの中に芽生えた“誰かのために踊る”という気持ち。
それは、祈りの形をした――新しい絆だった。
そして――満月の日。
いよいよ、六人のアイドルとしての一歩が幕を開ける。
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