荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は聖女達のために最高の武器を作る。

眠り姫?の目覚め。

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「うわぁ~おいしそうな魔物がいっぱいだわぁ!」


聖女たちが歌とダンスに汗を流している頃――


アンネリーゼは、夢の中で魔物たちと戦い、そして食べていた。


「えっ!? 何あれ……背中がモンブランになってるじゃない……頭には栗が乗ってるし!」


細く絞られた黄金色のペーストが、美しい螺旋を描いて背中を覆い、その頂には、つやつやと輝く黄色い栗がちょこんと乗っている。


「まさにモンブラン魔物……絶対おいしいやつじゃない!」


彼女の視線は次々と獲物を捉える。


「あっちには、チョコレート色のゴーレムがいるし――向こうには、ゼリーみたいにぷるぷる揺れるスライムまで……!」


チョコ・ガナッシュ・ゴーレムは、歩くたびにとろけるチョコを滴らせ、ゼリィ・シンフォニアは、ぷるぷる震えながら音符のような声で歌っている。


「まさに宝庫じゃない! ここは夢のスイーツ魔物ランドよ!」


アンネリーゼは大きなフォークとナイフを構え、笑顔で突撃した。


「いただきまーすっ!!」



***


「さぁ、いよいよ本番ね!!」


「えぇ…。この数週間…この日のために私たちは頑張ってきたわ!だから絶対成功するはずよ!」


「そうね!ここまで頑張ってきたんだもの。」


聖女たちが自分たちに言い聞かせるように話をしている傍ら…アンネリーゼは満月の下でただただ幸せの夢を見ている。


「…うへへぇぇ~チョコ…ゴーヘムゥゥ~~…スゥ~…」


規則正しい寝息とともに聞こえる。アンネリーゼの呪文のような寝言。


緊張していた聖女たちも、アンネリーゼのこの一言で少しばかり肩の力が抜けていた。


「ミレイユ。ここはあなたが仕切りなさい。」


「え…!?」


名前を呼ばれると思っていなかったミレイユはフィナに名前を呼ばれて驚く。


「あなたが一番頑張ってきたことはシルクトレーテ様だけじゃなく私たちも見て知っているわ!だからこそあなたにここはまとめてほしいのよ。」


フィナの言葉に、聖女たち全員が頷いた。


そして誰かが決めたというわけでもなく、一人ひとりがミレイユの近くに集まり肩を組んでいく。



そしてミレイユを見る顔は「ほら、早く!」と背中を押してくれているような笑顔だった。


「……うん、わかった。私、やる!」


ミレイユは小さく息を吸い込み、胸元に手を当てると、ゆっくりと息を吐いた。


「みんな、準備はいい? この歌とダンスで、アンナに届けよう。私たちの祈りを、私たちの想いを――全部、あの月に乗せて!」


「「「うん!!!」」」


満月が、静かに空に浮かび、幻想的な舞台が出来上がった。
そしてちょっと月が雲にかかれば、それはまた彼女たちを照らすスポットライトのように変わった。


その瞬間――

どこからともなく音楽が流れ始め、それは次第にシルクトレーテの全体を包み込んでいく。


"風が止まり 光が揺れて  
眠る心に 祈りを捧げる  
手を取り合い 輪になって  
響け この願い


涙も迷いも 踊りで溶かして  
歌声ひとつで 夜を照らすよ  
信じてる この瞬間が  
奇跡の扉を開くから


キラキラ光る 希望のリズム  
みんなで踊れば 奇跡が起きる  
笑顔の魔法で 心に届け  
この歌で 皆に癒しを”


衣装は風に揺れ、胸元のリボンが月光を受けてきらめく。

そしてその光は粒となってシルクトレーテ中に降り注いだ。


「フォッフォッフォ…おぬしらの歌ここまで届いておるぞ…」


まるでどこか懐かしむような声を上げて笑うシルクトレーテ。

音楽が空気を震わせ、歌声が月に向かって放たれる。

聖女たちのステップは揃い、振り付けはまるで儀式のように美しく、力強く。


その瞬間――ミレイユのイヤリングを通して、その光がより一層強くなり、


アンネリーゼの寝息が、ふっと止まった。


「……うた……きこえる……?」


***


どこからともなく聞こえる歌。


この世界に来てからは聞くことのなかった音楽に、思わず口ずさんでしまう。


「ん~♪ん~♪」


アンネリーゼは口ずさみながら、スライムゼリーをぷるんと飲み込み、ガナッシュゴーレムの腕をチョコフォンデュのように味わっていた。



「ん~♪ん~♪おいしぃ~♪しあ~わせ~♪」


どこからともなく流れてくる音楽に歌詞を乗せて歌うアンネリーゼ。

その歌を聞いて魔物たちは一緒に踊る。


スライムゼリーはぷるぷると震え、頭にドーナッツリングを被ったドーナ・ドラゴンは輪になって回り、モンブラン・マウンテンは頭の栗をリズムに合わせて跳ねさせている。


そんな時、一瞬アンネリーゼはこの世界に違和感を覚えた。


「……なんか、変ね」


アンネリーゼはそっと首を傾げる。


この世界に来てから、こんな音楽は聞いたことがない。


それなのに――懐かしい。


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


「これ……日本の曲? でも、違うような……」


ポップな音楽。


こちらの世界では聞くことのなかった曲調。


それが、どこからともなく響いていた。


そして――曲が止まると、一斉に魔物たちもふと動きを止めて、アンネリーゼの方を見つめていた。


「……え? なに? なんで止まったの?」


その瞬間、空が揺れた。


夢の空に浮かぶ月が、現実の満月と重なったように輝きを増し、アンネリーゼの足元に、光の輪が広がった。


それは、聖女たちの歌が生んだ“祈りの輪”だった。


「……これって……もしかして……」


彼女の瞳が、ゆっくりと見開かれていく。


「「「「アンナ!?」」」」


「えっと……スライムゼリーに……ドーナ・ドラゴンに……モンブラン・マウンテンは……」





……


………


「「「「……は!?!?」」」」


寝覚めの第一声に、思わず全員が声を上げた。


「っていうか……あなたたち、その格好どうしちゃったわけ?私、何も聞いてないんだけど……何か目覚めちゃったとか……?」


アンネリーゼは寝ぼけ眼のまま、聖女たちの衣装をじっと見つめる。


「でも……とても似合ってるわよ!そうね……せっかくだし、名前でも付けたらどうかしら」


彼女はぽんっと手を打ち、満月を見上げながら言った。


「Memento†Moon(メメント・ムーン)――なんて、ぴったりだと思うわ!」


ずっと眠っていた記憶すら曖昧なまま、アンネリーゼは聖女たちの姿に心を動かされ、思わずユニット名をプレゼントする。


その言葉に、聖女たちは一瞬ぽかんとした後――


「「「「……えっ、かっこいい!!」」」」


満月の下。


“メメント・ムーン”という名前が、静かに、そして力強く生まれた瞬間だった。


そして皆が笑顔で、アンネリーゼにこう伝えた。


「おかえり!アンナ!!」


しかし、当の本人は――


まだ頭が覚醒していないのか、それとも、ただのマイペースなのか。


「とりあえずごはんにしましょうか?ピクニックのお弁当、広げて!」


とびきりの笑顔で、そう言った。


その言葉に、聖女たちは一瞬きょとんとした後――

「……ふふっ」

「もう、アンナったら!」


笑い声が、満月の夜空に広がっていった。

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