荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女とアグニ・フォルジュ

ここに、わが相棒(鍋の蓋)眠る。

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「あなた達には……これ以上先は危険だわ。ここで待っていて」


(巻き込んでお肉をダメにしちゃうといけないし……)


真剣な顔つきで話すアンネリーゼに、メメント・ムーンの面々もこくりと頷いて待機する。


その手には、先ほどもらったスモークバットのチップスがしっかり握られていた。


「リース……あなたは一緒に――って、言われるまでもないか」


すでに腰から剣を抜き、準備万端のケルネリウス。


だが、その顔は先ほどよりもどこか辛そうな色をしている。


「リース……あなた、もしかして体調悪いんじゃないの?」


「いや……大丈夫だ」


その言葉とは裏腹に、普段は顔色一つ変えないケルネリウスの頬には、冷や汗が一筋流れていた。

(嘘が下手ね……っていうか、リースがこんなことになるなんて、滅多にないはずだけど)


――ケルネリウスは困惑していた。


『痛い……熱い……助けて……』

『僕たちは何も悪いことしてないのに……』


『なんでこんな炎の中に落とされなきゃいけなかったの……!?』


それは、子供のような小さな声。


一言一言が、ケルネリウスの頭の中に直接響いてくる。


(一体……これは何だというんだ……)


目の前にいる巨大なドラゴンを見ながらも、その声が重なり、直視することができない。


そんな状態が続いていると――


ドラゴンが、また大きな声で叫び出した。


“オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!”


その瞬間――


先ほどまで頭の中に響いていた声が、ぴたりと静かになった。


巨大な魔物が、ぎろりとアンネリーゼとケルネリウスを睨みつける。


その瞳は、濁った赤。


怒りとも、苦しみともつかぬ感情が、炎の奥で渦を巻いていた。


“オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!”


咆哮とともに、マグマが爆ぜた。熱風が地面を舐め、空気が一瞬で焦げる。マグマがぶつかった鉱石がドロドロと溶けマグマに沈んでいく。


そして、次の瞬間――


ドラゴンの巨体が、マグマの中から跳ね上がるように飛び出した。


その翼は灼けた黒鉄のように広がり、空を裂く。


「リース」


「アンナ」


「来るぞ!」「来るわ!」


地響きとともに、ドラゴンの爪が地面を叩きつけた。


衝撃波が走り、岩が砕け、瘴気が吹き飛び、熱が肌を焼く。


アンネリーゼは咄嗟に身を翻しながら、鍋の蓋を取り出してマグマの攻撃を回避。


ケルネリウスは剣を構えて前に出た。


「でっかぁぁ! あっつぅぅ~!! あぁぁ! 私の相棒の鍋の蓋がぁぁぁ!」


鍋の蓋を見ると、マグマの熱でドロッと溶け、原型をとどめていなかった。


アンネリーゼの髪が一瞬、熱風に煽られて舞い上がる。


その隙間から、ドラゴンの口が開くのが見えた。


「リース! あれはやばいわ! 絶対避けて!!」


アンネリーゼの叫びと同時に、灼熱のブレスが放たれる。


マグマの匂いと、焦げた獣脂の香りが混ざり合い、空気が焼ける。


地面が赤く染まり、炎が咆哮のように広がった。


“オ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ォ”ーーー!!!”


思った以上の広範囲攻撃――


灼熱のブレスが地面をなぎ払い、岩を溶かし、空気を焼き尽くす。


アンネリーゼは咄嗟に近くの岩陰に飛び込み、穴の中へと避難した。


熱が背中をかすめ、鍋の蓋の残骸がさらに溶けていく音が聞こえる。


(私を助けてくれたってことよね。相棒鍋の蓋…あなたには感謝しかないわ…)


耳鳴りと焦げた匂いの中、しばらく身を潜めていたが――


ブレスが落ち着いたのを確認し、そっと外へ顔を出した。


「リース……?」


だが、そこにケルネリウスの姿はどこにもなかった。


先ほどまでいたはずのドラゴンも、跡形もなく消えていた。


地面には、焼け焦げた岩と、溶けかけた剣の破片のようなものが転がっている。


瘴気は薄まり、空気は静まり返っていた。


「えっ……リース……? どこに行ったの……? お願い、返事をして!!」


アンネリーゼの声が、静寂の中に吸い込まれていく。


まるで、すべてが夢だったかのように――


ただ、アンネリーゼの胸の奥に、焦げた獣脂の香りだけが残っていた。


それは、さっきまで確かに“ここにいた”という証のように、


空気の中に、微かに漂っていた。




***


「ん……熱くない……?」
ブレスが来た瞬間、逃げようとしたはずなのに――


身体がその場で、まるで時間が止まったように動かなくなった。


「もう……無理か……」


神官騎士として、魔物と戦い続ければ、いつかこういうこともある。


そう覚悟していたはずだった。


だが、いざその瞬間を迎えてみると、あっけないものだと実感する。


すべてを諦め、ブレスの攻撃を受ける覚悟を決めたそのとき――


脳裏に浮かんだ最後の顔は、魔物を前にしたアンネリーゼの、あの嬉しそうな笑顔だった。


「まさか……こんな時に目に浮かぶのが、あいつのあほ面か……
まぁ、なんだかんだ一番長くいたわけだし……仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないが……
せめて、もう少しいい顔にしてくれ……」


そう思いながら、ケルネリウスは炎に身を委ねた。


だが――


その炎は、熱くもなく、冷たくもなく。


ただただ、ケルネリウスを静かに、優しく、飲み込んでいった。


まるで、怒りでも攻撃でもなく――


何かを伝えようとするような、炎だった。


炎はケルネリウスを包み込みながら、静かに語りかけてくる。


「数十年……いや、数百年ぶりか。我に会いに来た者は……」


「お前は一体……誰だ!? もしかして、さっきからずっと俺の頭の中に声をかけてきていたやつか?」


ケルネリウスが問いかけると、炎の球体がふわりと揺れた。


そして――


“ポンッッ”


軽快な音とともに、炎の中心から小さなドラゴンが姿を現した。


体長はケルネリウスの腕ほど。


鱗は鮮やかな赤色で、炎の揺らぎに合わせてきらめいている。


瞳は濁りのない赤で、どこか人懐っこい光を宿していた。


「我は……イグナヴァルスの分身のようなものだ。」


その声は、幼いようでいて、どこか老いた響きを持っていた。


ケルネリウスは言葉を失い、ただその小さなドラゴンを見つめていた。


「おい! 何か話せ! まるで我が一人語りをしているみたいではないか!」


イグナヴァルスはふわりと飛び上がり、ケルネリウスの肩に着地すると、鼻先でツンツンと顔を突き始める。


「おい! 聞こえていないのか!? この耳は飾りか!? 反応しろ、反応!!」


耳を引っ張られ、ようやく意識が戻ってきたのか――


ケルネリウスは小さく「す、すまん」と一言返した。


「まぁ、よい……お前をここに呼んだのは、やってほしいことがあったからだ」


「……やってほしいこと?」


ケルネリウスは眉をひそめる。


炎の中で、命を拾ったばかりの自分に、何を頼むというのか。


イグナヴァルスは肩の上でちょこんと座り直すと、


その瞳を真っ直ぐにケルネリウスへ向けた。


「うむ…お前にしか頼めぬ。」


そういうとイグナヴァルスは聞いてもいないのに一人で勝手に語りだした。
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