荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女とアグニ・フォルジュ

鍋料理。

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「お、お前……なぜここにいる!?」


アンネリーゼの顔を見るなり、大声を上げて叫ぶイグナ・ヴァルス。


その言葉に、ケルネリウスは後ろを振り向いた。


(アンナ!? 何故ここに……もしかして……俺を探しに来た……?)


「――あの時見つけたトカゲを食べに来たのよ!!」


背中には、自分より遥かに大きな鍋の蓋。


両手には、骨をも断ち切るであろう巨大な四角い中華包丁を握っている。


(や、やっぱりか……。そんなことだろうと思ったよ……って、ドラゴンだと思うが…アンナにはトカゲに見えていたのか…?)


「あ、あの時見つけたトカゲとは……?」


「決まってるじゃない!!あのお鍋の蓋を溶かした、でっかいトカゲよ!!羽根があって、あなたみたいに赤かった……って。あなた、そっくりじゃない。あの時のトカゲに!」


目の前の小さなドラゴン――イグナ・ヴァルスを見て、首を傾げるアンネリーゼ。


その瞬間──


イグナ・ヴァルスは叫んだ。


「うるさーーい!! 我はトカゲではない!どう見たってドラゴンだろうが!!」


ギャーギャーと騒ぐイグナ・ヴァルスをみてアンネリーゼは首を傾げる。


アンネリーゼの中の“ドラゴン像”。


それは――


緑色の鱗が陽光を受けて神々しく輝き、空をうねるように舞う長大な体躯。

雲を裂き、雷を従えるような威厳を持ち、見る者に畏怖と安心を同時に与える存在。

瞳は深紅に燃え、すべてを見通すような光を宿している。

角は鹿のように枝分かれし、古代の神獣を思わせる造形。

口元には長い髭が揺れ、風を裂くたびに空気が震える。

その姿は、前世で読んだ漫画に出てくる“願いを叶える空の守護者”そのものだった。



しかし、目の前にいるのは――

小さな羽根をパタパタと動かし、ぽってりとしたお腹を揺らす、

どう見ても美味しそうなトカゲである。

アンネリーゼはイグナ・ヴァルスをじーっと見つめると、ごくりと喉を鳴らした。


「あ、あなたも……おいしそうね?」



ケルネリウスがいなくなってからというもの、アンネリーゼはいくら食べても、ごはんの味を感じていなかった。

それどころか、今までおいしそうに見えていた魔物も、まったく魅力的に見えなくなっていたのだ。


“これは由々しき事態”


そう考えて、洞窟へと戻ってきたのだが――


どうやら、それが正解だったらしい。


「わ……我は食い物ではないぞぉぉお!!」


そういってジタバタするイグナ・ヴァルスを片手でパシッと捕まえると、アンネリーゼは今まで静かにしていたケルネリウスのほうへと向いた。



「リース…心配してたんだけど、何か言うことないわけ?……ってあなた、瞳の色変わった?こんなところでイメチェンなんてしても、誰も見てくれないわよ?」


(…いや、どうして瞳が変わっただけでそうなる…。)



今の身体はケルネリウスではなくシモンが憑依している。しかもシモンは体の持ち主であるケルネリウスのことは知らない。


勿論目の前にいるアンネリーゼのこともだ。



『君は一体…誰だ?』


突然の言葉に、アンネリーゼはぽかんと目を瞬かせる。



「……え? 何その冗談!!
しかも“君”って! あなたいつも私のことを“食いしん坊”とか“お前”とか“アンナ”って呼ぶじゃない。
どうしちゃったのよ? 熱でもあるの?」


アンネリーゼは心配そうに近づき、ケルネリウスの額に、自分の額をコツンとぶつけようとした――


……つもりが。


「うぁぁぁ~~!! やめてくれ!!」


ケルネリウスは、まるで“知らないもの”を見るような目でアンネリーゼを見つめ、


勢いよく彼女の身体を押して突き放した。


(はぁ……これは厄介にならないといいが……)


今の身体の主導権は、シモンにある。


アンネリーゼを止めることは、もはやケルネリウスにもできない。


アンネリーゼは、何が起きているのか分からないというような目でケルネリウスを見つめ、しばらく考え込んだあと、静かに口を開いた。


「……そう。そういうことね……」


そして――


手に持っていたイグナ・ヴァルスの首を、ぎりぎりと締め上げる。


血走った眼で睨みつけながら、低く問いかけた。


「あなた……リースに何かしたの?」


その顔は、まさに般若そのもの。


“いつでもお前の命は刈り取れる”――そう言わんばかりの殺気を放っていた。


イグナ・ヴァルスは、ぷるぷると震えながら小さい声でぶつぶつと呪文のように唱えた。


「わ、我は食べ物ではない。我は食べ物ではない。我は食べ物ではない…」


別に取って食べたりするつもりはなかったのだが…


勝手に勘違いして怯えるイグナ・ヴァルスを見て、


アンネリーゼは「いいこと思いついた」とばかりに、調理器具スキルを発動した。


彼女の手元に現れたのは――


自分の背丈を超えるほどの巨大な鍋。


水を並々と注ぎ込み、近くにあった鍛冶の火を拝借して、その上に鍋を置く。


火はすぐに鍋底を熱し、ぐつぐつと湯気が立ち上り始めた。


そして――


アンネリーゼは、手に持っていたイグナ・ヴァルスをそのまま湯の中へと投入――


しようとしたその瞬間……


先ほどまで壊れた人形のようだったイグナ・ヴァルスが、突然叫び始めた。


「や、や、やめてくれえぇぇぇぇ~~~!!ちゃんと話すから……我は食い物ではないぞぉぉぉぉ~~!!」


鍋の縁でジタバタと暴れるイグナ・ヴァルスを見て、アンネリーゼはニヤリとしたり顔を向けた。


そして、一言。


「私、待たされるの嫌いなの。ごはんの煮込み中なら別なんだけど……。だから、さっさと話してちょうだい?さっき言ってた《フレア・レメディア》って剣――関係してるんでしょ?」



その目はすべてを見透かしたような目だった。



***


「それで? その《フレア・レメディア》という剣があれば、この瘴気は払えるのね?」


「あぁ……だが、浄化作用のするものが足りないのだ」

《フレア・レメディア》を作るには――


ルミナイト・オリハルコンの形を自在に操れる鍛冶師の力と、大聖女が使えるであろう“浄化の力”が必要だという。
だが、その“浄化作用”をどのようにしてルミナイト・オリハルコンに吸収させるかは、誰にもわかっていなかった。


しかしそこはアンネリーゼ。

イグナ・ヴァルスの話を聞いても怖気る気配はさらさらない。

それはどころか…

「へぇ~……じゃあ大丈夫ね! 私がいれば何とかなると思うわ!だからその代わりといってはなんだけど、あの部屋にいるトカゲちゃんは私にくれない?」


すごい自信だ。

「はぁ……お前にそんなことはできんだろう?そもそも、大聖女の力が必要なのだぞ?まぁ、もし仮にお前のような小娘が何とかできるというなら、あのかっこい~い《ドラゴン》をあげても構わん。」


“遊びじゃないんだ”――そう言いたげなイグナ・ヴァルスの言葉に、


アンネリーゼは目を輝かせる。


「ありがとう! その言葉、絶対だからね!?約束を反故にしたら――絶対に許さないんだから!」


もう彼女の視線は、暴れまわるトカゲにしか向いていなかった。


(こいつ……どこからそんな自信が来るというんだ……)


イグナ・ヴァルスは、アンネリーゼの自信を見て溜息を吐く。


「わかったわかった。お前ができたらな……」


「あぁ~信じてないわね! その顔……。 まぁ、いいわ! とりあえずルミナイト・オリハルコンをいくつか、この鍋に入れて頂戴!」


信じていないと感じ取ったのか――


アンネリーゼは、ルミナイト・オリハルコンを鍋に入れるよう指示を出す。


「『鍋!?』」


先ほどまで黙っていたシモンとイグナ・ヴァルスは、アンネリーゼの言葉に一瞬口を噤んだ。


それもそのはず――


目の前にあるのは、ぐつぐつと煮立った巨大な鍋のみ。


その中に“ルミナイト・オリハルコン”を入れろと言われても、信じられるはずがなかった。


「ほら! だまされたと思って、早く入れて頂戴!」


そう言って、落ちていたルミナイト・オリハルコンをゴミ箱の中に入れるようにポイポイと鍋の中に放り込む。


その様子を見て、シモンとイグナ・ヴァルスも半信半疑ながら動き出す。


そして――しばらく経つと。


鍋の中に、キラキラとした光の粒が集まり始めた。


ルミナイト・オリハルコンの輝きが、徐々に増していく。


それはまるで――


鍋の中に、浄化されたルミナイト・オリハルコンが新たに“生まれよう”としているかのようだった。


鍛冶場の空気が変わる。


炎の熱ではなく、光の温もりが空間を満たしていく。


アンネリーゼは、鍋の縁に手を添えながら、ぽつりと呟いた。


「……やっぱり、料理って魂に効くのよね」



「『いや…これは料理というより…ただの石を洗っているだけにしか見えないのは気のせいだろうか…』」



二人の言葉はマグマの中へと溶けて消えた…
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