荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は、お酒探しの旅に出る。

平和の時間…と異臭騒ぎ!?

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「ワン、ツー、スリーフォー…」


「ダメダメ! 揃ってない! やり直し!」


「えぇぇ~疲れたぁ。ちょっと休もうよぉ~」


シルクトレーテの祠の前。


メメント・ムーンの面々は、スキルを磨くために歌とダンスの練習をしていた。


「お主ら……頑張っておるのぉ~」


タオルで汗をぬぐっていると、祠から聞こえてくる老人のような声。


その声に、全員がバッと祠の方を向く。


「「「シルクトレーテ様!!!」」」


祠の前で練習しているからといって、毎回見守ってくれるわけではない。それでも、メメント・ムーンにとってここは“聖地”のような場所だった。


シルクトレーテの声に、思わず反応する面々。


「相変わらずうるさいのぉ……ラケルもうるさいが……お主らも負けておらんぞ? それに……その右手に握っておるのは、なんじゃ?」


視線の先には――


武器でもステッキでもなく、オタマ。


しかも、持ち手はそれぞれのパーソナルカラーで彩られていた。


「こ、これは……」


「えっと……そのぉ……」


恥ずかしそうに顔を赤くする彼女たち。


その姿を見た瞬間、シルクトレーテの脳裏に浮かんだのは――アンネリーゼの顔だった。


(ふむ……杏菜の仕業か……)


「アンナからのプレゼントで。これを持って歌って踊ると、さらに強いバフが使えるようになるって……」


「そうなんです!! だから、これを持って踊れるように、今練習中なんです!」


どうやら、アンネリーゼの言葉を信じて、彼女たちは本気で頑張っているらしい。


(健気だのぉ……じゃが、それは恐らく面白半分だと思うが……)


キラキラと語るメメント・ムーンの面々に、何も言えずにいると――


その横にいる神官たちの姿が目に入った。


「それで……お主らは、何をしておる?」


「シルクトレーテ殿……申し訳ございません。ですが、ここでないと練習ができないのです……」


チラッとメメント・ムーンを見る神官たち。


その視線に、何をさせようとしているのかを察したシルクトレーテは、深いため息をついた。


「……よい。これもまた、杏菜の仕業じゃろうて……」


シルクトレーテも、もとは異世界の人間。


“バフ”とは何か、それをうまく使うには何をすればいいのか――


なんとなく、想像がついていた。


「ふむ……では、お主らにも名前を付けてやらねばならぬのぉ。パーソナルカラーは、メメント・ムーンと対になるようにするか」


「え!? 我々に名前ですか!?!?」


シルクトレーテの言葉に耳を傾けていたのか、一番年下の栗色の髪をした神官ネリオが、キラキラとした目で祠を見る。


(うっ……どうもこの目には弱いのぉ……)


無邪気に笑う姿を目にすると、清子のことを思い浮かべるシルクトレーテ。それは女であっても男であっても変わらない。


シルクトレーテは名前を考えているのか、沈黙が流れる。


その間も神官たちはそわそわとしながら、祠へと目を向けていた。


「うぅむ……メメント・ムーンの対になる存在――メメント・ソレイユというのはどうじゃ?月と太陽。ありきたりじゃが、お主らは周りを太陽で明るく照らせる道しるべとなりなさい」


その言葉を聞いた神官たちは、すとんと心の中に何かが落ちたように、静かに呟く。


「メメント・ソレイユ……」


「いい名だな……」


「この名に恥じぬよう、我々も鍛錬を重ねていかねばな」


その名を胸に刻んだ神官たちの間に、しばし静かな決意が満ちる――

(初めに見た時よりもいい顔になったのぉ…。)

今までアンネリーゼとケルネリウス。それにエリザベッタやキャスバルに頼りっぱなしで常に自信がなさそうだった面々が少しずつ成長している。


その姿がシルクトレーテも少し嬉しかった。


その場に、ほんの一瞬だけ、穏やかな沈黙が流れる。


風も止み、祠の前に立つ者たちの胸には、確かな名と、これからの誓いが刻まれていた。


――だが次の瞬間、風がそっと揺れ、どこからともなく鼻をつく異臭が漂い始めた。


「な……なんか変なにおいがしない……!?」


「……た、確かに……」


今まで嗅いだことのない異臭に、思わず鼻をふさぐ面々。


「ふむ……これは、いやな予感がするのぉ……」


シルクトレーテ自身も同じことを感じていたのか、ぽつりと呟いた。



***


「……ん?」


「どうした?」


アンネリーゼ、ケルネリウス、エリザベッタ、キャスバルの四人でこれからのことを話し合っていると、急にアンネリーゼが鼻をクンクンと動かして、顔をしかめた。


「……なんだか変な臭いがしない?」


「そうかぁ? お前がまた何か変な料理作ったんじゃないか?」


「そんなことないわよ! 最近は……ンフフ……お酒のおつまみに燻製をいっぱい作っていたくらいだもの。イカの燻製とか、チーズの燻製とか……早く食べたいわぁぁ」


キャスバルはアンネリーゼが異臭の原因なのではないかと、彼女の髪を一房とってクンクンと嗅ぐ。


それを見ていたエリザベッタは、キャスバルの頭をバシッと叩いた。


「いったぁぁぁ~! 何するんだよ!!」


「あんたね~、いつまでもアンナを子供として見るんじゃないの。一応あれでも……もうすぐ成人なんだから……」


今までずっと一緒に生活してきたことで、距離が近いのは昔からなのだが――


エリザベッタはコソッと耳打ちする。


「それに……ケルネリウスの顔を見なさい。すごい険しい顔してるわよ……」


キャスバルがケルネリウスを見ると、確かに険しい顔をしていた。


「お、おい……あれは……もしかして……」


二人はアンネリーゼとケルネリウスの恋路を応援しているためか、ちょっとした行動の変化をいつもチェックしていた。


(そうか……ついに自分の気持ちに気づいたんだな……)


「ケルネリウス。すまない、つい……いつもの癖でな」


ケルネリウスの肩に手を乗せて一言謝ると、ケルネリウスはキャスバルの方を向く。


「……ん? 何の話だ? それよりも……この異臭、なんかやばくないか」


((違ったかぁぁぁぁ~~…))


思わず、キャスバルとエリザベッタの心の声が重なった。


そして異臭の原因を探ろうと、それぞれが風が運んでくる臭いを辿り始める。


「確か……そろそろバックースに着く頃よね……」


アンネリーゼの声に、皆が頷いた。


「あぁ、予定では今日の昼過ぎには着くはずだが……」


時計を見れば、もうすぐ昼を回ろうとしていた。


そして、どんどん異臭が強くなっていることに気づいたアンネリーゼは、ひとつの答えにたどり着く。


「これはもしかすると……なんだか嫌な予感がするわね」


目の前の地図に視線を落とし、バックースの位置を確認する。


その目は、いつになく真剣だった。


「お酒が飲めないなんて……一大事だわ」


そうつぶやいた瞬間、アンネリーゼは勢いよく立ち上がった。


椅子がガタンと音を立てて倒れる。


その目には、まるでこれから戦いに赴くのではないかと思うほどの気迫が宿っていた。


「行くわよ。燻製と酒を守るために!」


(((結局、そこか~~……)))


三人はアンネリーゼの言葉にそろって溜息を吐き、それでも、何も言わずに彼女の後に続いた。
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