荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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食いしん坊聖女は、お酒探しの旅に出る。

成人目前。

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「さぁ! 次はお酒を造りに行くわよ!!」

「「「「……は!?!?」」」」


アンネリーゼとケルネリウスがシルクトレーテに戻ってきて、数日。


ケルネリウスの帰還を祝して、イグナ・ヴァルスの肉を使った大宴会が開かれた。


そして宴の途中――アンネリーゼはふと、あることに気づいた。


(やっぱり宴会するなら、お酒が欲しいわよね……って、もしかして私、もうすぐ成人なんじゃ……!?)


ルシフェール国では、16歳で成人を迎える。


成人すれば、お酒の解禁も許される。

婚約破棄、セラフィエルへの追放、旅の連続――
あまりに濃密な日々のせいで、その事実はすっかり頭から抜け落ちていた。


「あぁぁぁぁぁ~~~~!! これは一大事よ!!」


シルクトレーテの上から、アンネリーゼの叫びが宴の空に木霊する。


「一体何事!?」


「アンナが叫んだみたい」


「あぁ~……アンナのことだから、仕方ないわね」


プロセルピナ神殿を出て約一年。


ずっと共に暮らしてきた聖女や神官たちは、アンネリーゼの性格を熟知していた。


そのため、誰ひとり慌てることなく、食事を続けようと口を開き――


肉にかぶりつこうとした、その瞬間。


「皆、お酒を探しに行くわよ!! いえ、お酒のもとになるものでもいいわ!!」


その言葉に、誰もが手にしていた肉をぽろりと落とした。


「さ、さ、酒って……? あの酒か?」


「ルシフェール国では……貴族しか飲むことが許されていなかったやつ?」


「そ、そんなもの……探せるものなの!?」


アンネリーゼの言葉に、聖女や神官たちが思わずごくりと喉を鳴らす。


彼女たちの多くは平民出身――


だからこそ、“禁じられた酒”への憧れが、瞳に火を灯した。


「お酒って……一体どんなものなのかしら……?」


誰かがぽつりと呟けば、皆もそれに呼応するように頷いた。


「リース。なんだか全員アンナに似ていないか」


「言うな……」


新たに仲間となったラケルが聖女たちを見てケルネリウスに声をかける。


彼もまた同じことを思っていたのか、それ以上語ろうとしない。


「それで? どこに行くの?」


エリザベッタが話を振ると、アンネリーゼは「よくぞ聞いてくれました!」とばかりに地図を広げた。


「次の地は……ここよ!!」


指さした先には、“バックース”という文字が刻まれていた。


「「「バックース???」」」


地図を見る限り、木々がたくさんあるだけの土地に見える。


なぜそこがお酒につながるのか――誰もが首を傾げた。


「シルクトレーテが前に言っていたのよ。ここには、おいしい幻のお酒ができる泉があるって……。それに、果樹の都としても有名だったって!」


「……幻のお酒……」


「……幻のお酒……」


皆が呪文のように同じ言葉を繰り返す。


「んふふ……そうよ! 幻のお酒! 折角ここまで来たんだもの。飲まなきゃ損ってもんじゃない?」


「っていうか……お前、まだ飲めないだろう?」


ケルネリウスが冷静に突っ込むと、アンネリーゼは「ふふん」と得意げに笑った。


「何を言ってるの!? 私はもうすぐ十六歳になるの! お酒だって解禁よ!!」


そう言ってカレンダーを指さす。


……とはいえ、誕生日はあと二ヶ月も先だった。


「……いや、あと二ヶ月も先じゃないか……」


「いい? 二ヶ月なんてあっという間なの! それに、お酒を造るには時間がかかるのよ。むしろ二ヶ月じゃ足りないくらいだわ!!」


そんなにお酒を飲みたいのか、拳を握りしめて力説する。


その姿を見たケルネリウスは、思わずため息をついた。


「はぁ~……そうなったお前には、何を言っても無駄なんだろうな……」

(何もなきゃいいんだが……絶対、何かしら起きる気しかしないのは俺だけか)


ケルネリウスの心の声に賛同するように、キャスバルが肩をぽんと叩いてから、首を横に振る。


その目は、どこか遠い場所を見ていた。


(気持ちはわかるぞ……。だが……あぁなったアンナを止められる奴はいないんだ……)


心の中で交わされる、男たちの静かな会話。


今までアンネリーゼに振り回されてきた二人だからこそ、そこには確かな“友情”が芽生えていた。


「じゃあ! 皆も賛成ってことで……次の行き先は果樹の都バックースで決まりね!! 早速、明日には出発するわよ~!!」


「「「「オ~!!」」」」


アンネリーゼの言葉を合図に、大宴会はお開きとなり、皆が片づけを始める。


そよそよと心地よい風が吹く中、アンネリーゼは次の目的地の方角を見つめた。


「一体……どんなものがあるのかしら。果樹の都、幻のお酒……ってことは、やっぱりワインとか、ブランデーとか……ウイスキーとかかしらね……」


距離はまだ遠いはずなのに、アンネリーゼの鼻には、お酒の香りが漂ってくる。


……もちろん、幻覚なのだが。


「ふふ……ワインに合う料理も準備しておかなくちゃね~」


討伐したスモークバットを思い浮かべながら、頭の中で次々と料理を組み立てていくアンネリーゼ。


(やっと……やっとお酒が飲める年になったわね~!!)


前世では毎日のようにお酒を飲んでいた彼女にとって、この十六年間は“禁酒の苦行”だった。


しかも、上流貴族しか飲めないお酒。


飲めるとしても、お祝いの席くらいで、日常に出てくるものではない。


大聖女になったことで、なおさら酒とは縁遠いと思っていた。


だからこそ、これは彼女にとって、うれしい誤算だった。


「明日から、どんな旅になるのか楽しみね!!」


アンネリーゼの言葉は、風とともに空へと舞い上がる。


こうして――


アンネリーゼの“酒造り旅”が始まったのだった。
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