荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

文字の大きさ
79 / 105
食いしん坊聖女は、お酒探しの旅に出る。

再生の種。

しおりを挟む
枯れた果樹園の風が、どこか懐かしい甘い香りを運んでいた。


「シルクトレーテ。清子さんはここに来た時、どうしたの?」


この地にとって、逆に“浄化が毒”だと知った日から数日――


アンネリーゼは、シルクトレーテの祠へと足を運んでいた。


「うぅむ……何をしていたかのぉ……」


その話し方は、まるで「知っているけど教える気はない」と言っているようだった。


二人の間に、静かな沈黙が流れる。


アンネリーゼは、この沈黙の時間が嫌いではなかった。


まるで、おばあちゃんの家にいるような感覚。


縁側に座って、お茶を飲んだり、ミカンを食べたり。ご近所さんと他愛ない話をしたり――。


このご時世だからこそ、周囲の家とあまり関わることがなくなってしまったが、田舎に行けば、どこを歩いていても誰かが声をかけてくれる。


そんな、懐かしい空気。


「……あ、もしかして……私一人ではできないってことかしら」


アンネリーゼが問いかけると、それが“正解”であるかのように、シルクトレーテは何も発しなかった。


つくづく、孫に優しいお爺さんだ。


「ふふ…そう。そういうこと…。この地にはもともと浄化なんて必要ないのね!自分たちできちんと地に足をつけて生きていけるっていうことなんだもの。ただ…人がいなくなってしまったことでその循環がうまくいかなくなってしまっただけなんだわ!」


アンネリーゼは何かを思い浮かべたかのように立ち上がると、祠から少し離れたところで練習をしていたメメント・ムーンとメメント・ソレイユを呼び出した。


「あなた達にやってもらいたいことがあるの。」


それは先ほどまで気を張り詰めたような顔とは違い、自信に満ち溢れている。


(そうじゃ……この地は、人とのつながりが最も大切。誰が欠けても成り立たない。人と一緒に生きている地。だからこそ、極上の酒が生まれる。その酒には、皆の喜びだけではない――悲しい記憶や、つらかった記憶……すべてが混ざっているんじゃよ)


シルクトレーテは、アンネリーゼを見つめながら、ふと清子の姿を思い浮かべた。


『なんだか……この泉、濁ってない?周りに、私が持ってきた種をまいてみようかしら』


『そ、それだけはやめてください!逆に、それが毒になってしまいます』


『そんな遠慮しないで?迷惑だなんて、思っていないから』


清子の浄化は、すべて“種”に宿る。


恐らく、それは彼女のスキルのせいだろう。


種を植えれば、おのずとその地は浄化され、綺麗になる。


それを知っていた清子は、種をまいた。


もちろん、歌を歌いながら――。歌を歌えば“バフ”がかかり、発芽が早くなる。


そして、浄化作用も強まる。


そう……それが、よくなかった。


浄化された泉は、一度は透明な水へと変化を遂げた。


だが、その後すぐに濁りはじめ、ついには――今回のように、黒く変色してしまったのである。


『あぁ……だから、いいと言ったんです。この地のお酒は、皆の努力――つらさや悲しみ、怒り……そして、嬉しさや楽しさ。そういった感情が合わさったからこそ、生まれた泉なのです。だから、他の地で“瘴気”と呼ばれるものも、この地では、とても大切なものなのです!!』



(杏菜よ。お主は清子とは違う。今は信頼できる仲間もいるじゃろう。だからこそお主で何とかしてみろ。)


アンネリーゼを見つめながら心の中で呟けば、シルクトレーテは夢の中へと落ちていった。



***


「アンナが急に呼び出すなんて、どうしたの?」


メメント・ムーンの一人、フィナが声をかけると、それに続くように他の面々も頷いた。


「あなたたちに頼みがあるの。というより……お願い、かな。この地を戻すのに、力を貸してほしいの」


今まで、大抵のことは自分で何とかしてきたアンネリーゼが――

ここにきて初めて、仲間に頭を下げている。


その姿に、誰もが驚いた。


「えっ……!? ちょ、ちょっと……頭を上げて!?私たちにできることなら、なんだってするから!」


そう言って声をかけると、アンネリーゼは「ほ、ほんと!?」と頭を上げて首を傾げる。


その瞬間、ここにいた誰もが――


「か、かわいい~」と心の中で叫んだ。


「えぇ、本当よ! ね? みんなだって、そうよね?」


フィナが後ろを振り向き、メメント・ムーン、メメント・ソレイユの面々に声をかける。


しかし、普段ほとんど見ることのないアンネリーゼの姿に、皆は頬を赤くしていた。


いわゆる“ギャップ萌え”というやつだ。


「って、ちょっと、聞いてるの!?」


フィナが大声を上げると、その言葉で気持ちが戻ってきたのか、だらしない顔を元に戻して、皆は頷いた。


「もちろんよ!!」


「あぁ、いつも頼りっぱなしだからな。俺たちの力を見てほしい」


「そうそう! もっと頼ってくれていいんだからね」


アンネリーゼの近くに寄り、肩を軽くポンと叩く。


「「「「で? 何をすればいい?」」」」


皆は声をそろえて、笑顔で返した。


「以前渡した紙、覚えてる?あの中には、いろいろと効果がありそうなものについて書いてあったと思うんだけど」


バッカースの地に来てすぐ、練習しておくようにと渡された紙。


その中には――浄化強化、結界強化、攻撃強化、防御強化、睡眠耐性、炎耐性……ありとあらゆる効果に対応した“歌詞”が記されていた。


「えぇ…いっぱいあったわね!」


「一部の言葉だけ変えて同じ曲調のまま歌えるようにしたけど…」


「覚えるの結構大変だったわ…」



ほんの数日足らずで全てを覚えたメメント・ムーンとメメント・ソレイユ。


それは少しでもアンネリーゼの役に立ちたいという一心からだった。


しかし、次の瞬間――


そのすべてが覆された。


「今回は、その歌詞、使わないから。いったん忘れてほしいの」


「……え?」


あまりの言葉に、全員が言葉を失った。


「も、もう一回言ってくれないかしら?」


「うん! 今まで覚えてもらったものは、いったん忘れてほしい」


沈黙。


空気が止まった。


誰もが、頭の中で“歌詞”を思い浮かべていた。


浄化強化、結界強化、攻撃強化、防御強化、睡眠耐性、炎耐性――


何度も練習して、何度も口ずさんで、「これでアンナを支えられる」と信じていた。


それを、今――


「忘れて」と言われた。


ぽかんと口を開けたままのフィナが、ようやく声を絞り出す。


「……えっと……それって……どういうこと?」


アンネリーゼは、少しだけ申し訳なさそうに笑った。


「今まで覚えてもらったものとは逆に、“デバフ”を与える効果があるか……試してみたいのよ」


聞き慣れない言葉に、皆が首を傾げる。


「「「……デバフ……?」」」


「そう! デバフ!!バフは味方に効果をつけて、一時的に能力を底上げするでしょ?逆にデバフは、相手を弱体化させる能力をつけるの」


「……つまり、“悪い気”も、生きるためには必要なのよ」



そう言って、アンネリーゼは木の枝でカリカリと床に絵を描き始めた。


しかし――アンネリーゼの絵は壊滅的だった。


「うーん……言いたいことはわかったが、その絵……は何だ?」


リックの声に反応すると、アンネリーゼは描いた絵をすぐに足で消す。


「と、とにかく……あなたたちには、この地が“負の感情”をため込めるように、デバフをかけてほしいの!」


先ほどの絵はなかったことにしたいのか、アンネリーゼは早口でまくし立てる。


「できれば、歌詞も曲もあなたたちで考えてちょうだい。歌には、歌い手の気持ちが乗るもの。あなたたちが作ることで、この地はきっと息を吹き返すと思うの……」


その言葉に、仲間たちは次々と声を上げた。


「わ、わかったわ! 歌詞を作るの、楽しそうだと思ってたの!」


「踊りは任せて!」


「我々は何をすればいいかわからないが、役に立てることがないか探してみよう」


アンネリーゼの真剣な願いに応えるように、メメント・ムーン、メメント・ソレイユの面々はそれぞれの役割を胸に動き始めた。



「――この地を、もう一度“生かす”ために。」
アンネリーゼは、夜風に髪をなびかせながらそう呟いた。
その瞳は、確かに未来を見ていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

薄幸ヒロインが倍返しの指輪を手に入れました

佐崎咲
ファンタジー
義母と義妹に虐げられてきた伯爵家の長女スフィーナ。 ある日、亡くなった実母の遺品である指輪を見つけた。 それからというもの、義母にお茶をぶちまけられたら、今度は倍量のスープが義母に浴びせられる。 義妹に食事をとられると、義妹は強い空腹を感じ食べても満足できなくなる、というような倍返しが起きた。 指輪が入れられていた木箱には、実母が書いた紙きれが共に入っていた。 どうやら母は異世界から転移してきたものらしい。 異世界でも強く生きていけるようにと、女神の加護が宿った指輪を賜ったというのだ。 かくしてスフィーナは義母と義妹に意図せず倍返ししつつ、やがて母の死の真相と、父の長い間をかけた企みを知っていく。 (※黒幕については推理的な要素はありませんと小声で言っておきます)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

処理中です...