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食いしん坊聖女は、お酒探しの旅に出る。
再生の種。
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枯れた果樹園の風が、どこか懐かしい甘い香りを運んでいた。
「シルクトレーテ。清子さんはここに来た時、どうしたの?」
この地にとって、逆に“浄化が毒”だと知った日から数日――
アンネリーゼは、シルクトレーテの祠へと足を運んでいた。
「うぅむ……何をしていたかのぉ……」
その話し方は、まるで「知っているけど教える気はない」と言っているようだった。
二人の間に、静かな沈黙が流れる。
アンネリーゼは、この沈黙の時間が嫌いではなかった。
まるで、おばあちゃんの家にいるような感覚。
縁側に座って、お茶を飲んだり、ミカンを食べたり。ご近所さんと他愛ない話をしたり――。
このご時世だからこそ、周囲の家とあまり関わることがなくなってしまったが、田舎に行けば、どこを歩いていても誰かが声をかけてくれる。
そんな、懐かしい空気。
「……あ、もしかして……私一人ではできないってことかしら」
アンネリーゼが問いかけると、それが“正解”であるかのように、シルクトレーテは何も発しなかった。
つくづく、孫に優しいお爺さんだ。
「ふふ…そう。そういうこと…。この地にはもともと浄化なんて必要ないのね!自分たちできちんと地に足をつけて生きていけるっていうことなんだもの。ただ…人がいなくなってしまったことでその循環がうまくいかなくなってしまっただけなんだわ!」
アンネリーゼは何かを思い浮かべたかのように立ち上がると、祠から少し離れたところで練習をしていたメメント・ムーンとメメント・ソレイユを呼び出した。
「あなた達にやってもらいたいことがあるの。」
それは先ほどまで気を張り詰めたような顔とは違い、自信に満ち溢れている。
(そうじゃ……この地は、人とのつながりが最も大切。誰が欠けても成り立たない。人と一緒に生きている地。だからこそ、極上の酒が生まれる。その酒には、皆の喜びだけではない――悲しい記憶や、つらかった記憶……すべてが混ざっているんじゃよ)
シルクトレーテは、アンネリーゼを見つめながら、ふと清子の姿を思い浮かべた。
『なんだか……この泉、濁ってない?周りに、私が持ってきた種をまいてみようかしら』
『そ、それだけはやめてください!逆に、それが毒になってしまいます』
『そんな遠慮しないで?迷惑だなんて、思っていないから』
清子の浄化は、すべて“種”に宿る。
恐らく、それは彼女のスキルのせいだろう。
種を植えれば、おのずとその地は浄化され、綺麗になる。
それを知っていた清子は、種をまいた。
もちろん、歌を歌いながら――。歌を歌えば“バフ”がかかり、発芽が早くなる。
そして、浄化作用も強まる。
そう……それが、よくなかった。
浄化された泉は、一度は透明な水へと変化を遂げた。
だが、その後すぐに濁りはじめ、ついには――今回のように、黒く変色してしまったのである。
『あぁ……だから、いいと言ったんです。この地のお酒は、皆の努力――つらさや悲しみ、怒り……そして、嬉しさや楽しさ。そういった感情が合わさったからこそ、生まれた泉なのです。だから、他の地で“瘴気”と呼ばれるものも、この地では、とても大切なものなのです!!』
(杏菜よ。お主は清子とは違う。今は信頼できる仲間もいるじゃろう。だからこそお主で何とかしてみろ。)
アンネリーゼを見つめながら心の中で呟けば、シルクトレーテは夢の中へと落ちていった。
***
「アンナが急に呼び出すなんて、どうしたの?」
メメント・ムーンの一人、フィナが声をかけると、それに続くように他の面々も頷いた。
「あなたたちに頼みがあるの。というより……お願い、かな。この地を戻すのに、力を貸してほしいの」
今まで、大抵のことは自分で何とかしてきたアンネリーゼが――
ここにきて初めて、仲間に頭を下げている。
その姿に、誰もが驚いた。
「えっ……!? ちょ、ちょっと……頭を上げて!?私たちにできることなら、なんだってするから!」
そう言って声をかけると、アンネリーゼは「ほ、ほんと!?」と頭を上げて首を傾げる。
その瞬間、ここにいた誰もが――
「か、かわいい~」と心の中で叫んだ。
「えぇ、本当よ! ね? みんなだって、そうよね?」
フィナが後ろを振り向き、メメント・ムーン、メメント・ソレイユの面々に声をかける。
しかし、普段ほとんど見ることのないアンネリーゼの姿に、皆は頬を赤くしていた。
いわゆる“ギャップ萌え”というやつだ。
「って、ちょっと、聞いてるの!?」
フィナが大声を上げると、その言葉で気持ちが戻ってきたのか、だらしない顔を元に戻して、皆は頷いた。
「もちろんよ!!」
「あぁ、いつも頼りっぱなしだからな。俺たちの力を見てほしい」
「そうそう! もっと頼ってくれていいんだからね」
アンネリーゼの近くに寄り、肩を軽くポンと叩く。
「「「「で? 何をすればいい?」」」」
皆は声をそろえて、笑顔で返した。
「以前渡した紙、覚えてる?あの中には、いろいろと効果がありそうなものについて書いてあったと思うんだけど」
バッカースの地に来てすぐ、練習しておくようにと渡された紙。
その中には――浄化強化、結界強化、攻撃強化、防御強化、睡眠耐性、炎耐性……ありとあらゆる効果に対応した“歌詞”が記されていた。
「えぇ…いっぱいあったわね!」
「一部の言葉だけ変えて同じ曲調のまま歌えるようにしたけど…」
「覚えるの結構大変だったわ…」
ほんの数日足らずで全てを覚えたメメント・ムーンとメメント・ソレイユ。
それは少しでもアンネリーゼの役に立ちたいという一心からだった。
しかし、次の瞬間――
そのすべてが覆された。
「今回は、その歌詞、使わないから。いったん忘れてほしいの」
「……え?」
あまりの言葉に、全員が言葉を失った。
「も、もう一回言ってくれないかしら?」
「うん! 今まで覚えてもらったものは、いったん忘れてほしい」
沈黙。
空気が止まった。
誰もが、頭の中で“歌詞”を思い浮かべていた。
浄化強化、結界強化、攻撃強化、防御強化、睡眠耐性、炎耐性――
何度も練習して、何度も口ずさんで、「これでアンナを支えられる」と信じていた。
それを、今――
「忘れて」と言われた。
ぽかんと口を開けたままのフィナが、ようやく声を絞り出す。
「……えっと……それって……どういうこと?」
アンネリーゼは、少しだけ申し訳なさそうに笑った。
「今まで覚えてもらったものとは逆に、“デバフ”を与える効果があるか……試してみたいのよ」
聞き慣れない言葉に、皆が首を傾げる。
「「「……デバフ……?」」」
「そう! デバフ!!バフは味方に効果をつけて、一時的に能力を底上げするでしょ?逆にデバフは、相手を弱体化させる能力をつけるの」
「……つまり、“悪い気”も、生きるためには必要なのよ」
そう言って、アンネリーゼは木の枝でカリカリと床に絵を描き始めた。
しかし――アンネリーゼの絵は壊滅的だった。
「うーん……言いたいことはわかったが、その絵……は何だ?」
リックの声に反応すると、アンネリーゼは描いた絵をすぐに足で消す。
「と、とにかく……あなたたちには、この地が“負の感情”をため込めるように、デバフをかけてほしいの!」
先ほどの絵はなかったことにしたいのか、アンネリーゼは早口でまくし立てる。
「できれば、歌詞も曲もあなたたちで考えてちょうだい。歌には、歌い手の気持ちが乗るもの。あなたたちが作ることで、この地はきっと息を吹き返すと思うの……」
その言葉に、仲間たちは次々と声を上げた。
「わ、わかったわ! 歌詞を作るの、楽しそうだと思ってたの!」
「踊りは任せて!」
「我々は何をすればいいかわからないが、役に立てることがないか探してみよう」
アンネリーゼの真剣な願いに応えるように、メメント・ムーン、メメント・ソレイユの面々はそれぞれの役割を胸に動き始めた。
「――この地を、もう一度“生かす”ために。」
アンネリーゼは、夜風に髪をなびかせながらそう呟いた。
その瞳は、確かに未来を見ていた。
「シルクトレーテ。清子さんはここに来た時、どうしたの?」
この地にとって、逆に“浄化が毒”だと知った日から数日――
アンネリーゼは、シルクトレーテの祠へと足を運んでいた。
「うぅむ……何をしていたかのぉ……」
その話し方は、まるで「知っているけど教える気はない」と言っているようだった。
二人の間に、静かな沈黙が流れる。
アンネリーゼは、この沈黙の時間が嫌いではなかった。
まるで、おばあちゃんの家にいるような感覚。
縁側に座って、お茶を飲んだり、ミカンを食べたり。ご近所さんと他愛ない話をしたり――。
このご時世だからこそ、周囲の家とあまり関わることがなくなってしまったが、田舎に行けば、どこを歩いていても誰かが声をかけてくれる。
そんな、懐かしい空気。
「……あ、もしかして……私一人ではできないってことかしら」
アンネリーゼが問いかけると、それが“正解”であるかのように、シルクトレーテは何も発しなかった。
つくづく、孫に優しいお爺さんだ。
「ふふ…そう。そういうこと…。この地にはもともと浄化なんて必要ないのね!自分たちできちんと地に足をつけて生きていけるっていうことなんだもの。ただ…人がいなくなってしまったことでその循環がうまくいかなくなってしまっただけなんだわ!」
アンネリーゼは何かを思い浮かべたかのように立ち上がると、祠から少し離れたところで練習をしていたメメント・ムーンとメメント・ソレイユを呼び出した。
「あなた達にやってもらいたいことがあるの。」
それは先ほどまで気を張り詰めたような顔とは違い、自信に満ち溢れている。
(そうじゃ……この地は、人とのつながりが最も大切。誰が欠けても成り立たない。人と一緒に生きている地。だからこそ、極上の酒が生まれる。その酒には、皆の喜びだけではない――悲しい記憶や、つらかった記憶……すべてが混ざっているんじゃよ)
シルクトレーテは、アンネリーゼを見つめながら、ふと清子の姿を思い浮かべた。
『なんだか……この泉、濁ってない?周りに、私が持ってきた種をまいてみようかしら』
『そ、それだけはやめてください!逆に、それが毒になってしまいます』
『そんな遠慮しないで?迷惑だなんて、思っていないから』
清子の浄化は、すべて“種”に宿る。
恐らく、それは彼女のスキルのせいだろう。
種を植えれば、おのずとその地は浄化され、綺麗になる。
それを知っていた清子は、種をまいた。
もちろん、歌を歌いながら――。歌を歌えば“バフ”がかかり、発芽が早くなる。
そして、浄化作用も強まる。
そう……それが、よくなかった。
浄化された泉は、一度は透明な水へと変化を遂げた。
だが、その後すぐに濁りはじめ、ついには――今回のように、黒く変色してしまったのである。
『あぁ……だから、いいと言ったんです。この地のお酒は、皆の努力――つらさや悲しみ、怒り……そして、嬉しさや楽しさ。そういった感情が合わさったからこそ、生まれた泉なのです。だから、他の地で“瘴気”と呼ばれるものも、この地では、とても大切なものなのです!!』
(杏菜よ。お主は清子とは違う。今は信頼できる仲間もいるじゃろう。だからこそお主で何とかしてみろ。)
アンネリーゼを見つめながら心の中で呟けば、シルクトレーテは夢の中へと落ちていった。
***
「アンナが急に呼び出すなんて、どうしたの?」
メメント・ムーンの一人、フィナが声をかけると、それに続くように他の面々も頷いた。
「あなたたちに頼みがあるの。というより……お願い、かな。この地を戻すのに、力を貸してほしいの」
今まで、大抵のことは自分で何とかしてきたアンネリーゼが――
ここにきて初めて、仲間に頭を下げている。
その姿に、誰もが驚いた。
「えっ……!? ちょ、ちょっと……頭を上げて!?私たちにできることなら、なんだってするから!」
そう言って声をかけると、アンネリーゼは「ほ、ほんと!?」と頭を上げて首を傾げる。
その瞬間、ここにいた誰もが――
「か、かわいい~」と心の中で叫んだ。
「えぇ、本当よ! ね? みんなだって、そうよね?」
フィナが後ろを振り向き、メメント・ムーン、メメント・ソレイユの面々に声をかける。
しかし、普段ほとんど見ることのないアンネリーゼの姿に、皆は頬を赤くしていた。
いわゆる“ギャップ萌え”というやつだ。
「って、ちょっと、聞いてるの!?」
フィナが大声を上げると、その言葉で気持ちが戻ってきたのか、だらしない顔を元に戻して、皆は頷いた。
「もちろんよ!!」
「あぁ、いつも頼りっぱなしだからな。俺たちの力を見てほしい」
「そうそう! もっと頼ってくれていいんだからね」
アンネリーゼの近くに寄り、肩を軽くポンと叩く。
「「「「で? 何をすればいい?」」」」
皆は声をそろえて、笑顔で返した。
「以前渡した紙、覚えてる?あの中には、いろいろと効果がありそうなものについて書いてあったと思うんだけど」
バッカースの地に来てすぐ、練習しておくようにと渡された紙。
その中には――浄化強化、結界強化、攻撃強化、防御強化、睡眠耐性、炎耐性……ありとあらゆる効果に対応した“歌詞”が記されていた。
「えぇ…いっぱいあったわね!」
「一部の言葉だけ変えて同じ曲調のまま歌えるようにしたけど…」
「覚えるの結構大変だったわ…」
ほんの数日足らずで全てを覚えたメメント・ムーンとメメント・ソレイユ。
それは少しでもアンネリーゼの役に立ちたいという一心からだった。
しかし、次の瞬間――
そのすべてが覆された。
「今回は、その歌詞、使わないから。いったん忘れてほしいの」
「……え?」
あまりの言葉に、全員が言葉を失った。
「も、もう一回言ってくれないかしら?」
「うん! 今まで覚えてもらったものは、いったん忘れてほしい」
沈黙。
空気が止まった。
誰もが、頭の中で“歌詞”を思い浮かべていた。
浄化強化、結界強化、攻撃強化、防御強化、睡眠耐性、炎耐性――
何度も練習して、何度も口ずさんで、「これでアンナを支えられる」と信じていた。
それを、今――
「忘れて」と言われた。
ぽかんと口を開けたままのフィナが、ようやく声を絞り出す。
「……えっと……それって……どういうこと?」
アンネリーゼは、少しだけ申し訳なさそうに笑った。
「今まで覚えてもらったものとは逆に、“デバフ”を与える効果があるか……試してみたいのよ」
聞き慣れない言葉に、皆が首を傾げる。
「「「……デバフ……?」」」
「そう! デバフ!!バフは味方に効果をつけて、一時的に能力を底上げするでしょ?逆にデバフは、相手を弱体化させる能力をつけるの」
「……つまり、“悪い気”も、生きるためには必要なのよ」
そう言って、アンネリーゼは木の枝でカリカリと床に絵を描き始めた。
しかし――アンネリーゼの絵は壊滅的だった。
「うーん……言いたいことはわかったが、その絵……は何だ?」
リックの声に反応すると、アンネリーゼは描いた絵をすぐに足で消す。
「と、とにかく……あなたたちには、この地が“負の感情”をため込めるように、デバフをかけてほしいの!」
先ほどの絵はなかったことにしたいのか、アンネリーゼは早口でまくし立てる。
「できれば、歌詞も曲もあなたたちで考えてちょうだい。歌には、歌い手の気持ちが乗るもの。あなたたちが作ることで、この地はきっと息を吹き返すと思うの……」
その言葉に、仲間たちは次々と声を上げた。
「わ、わかったわ! 歌詞を作るの、楽しそうだと思ってたの!」
「踊りは任せて!」
「我々は何をすればいいかわからないが、役に立てることがないか探してみよう」
アンネリーゼの真剣な願いに応えるように、メメント・ムーン、メメント・ソレイユの面々はそれぞれの役割を胸に動き始めた。
「――この地を、もう一度“生かす”ために。」
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