荒地に配属された食いしん坊聖女。いつの間にかラスボス認定されていたようです。

ゆずこしょう

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地獄の王都に食いしん坊聖女参上!

地獄の王都に降り注ぐ光。

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「うわぁぁぁ~おいしそぉ~な魔物がいっぱ~い!!」


「おい、危ないからそこから降りろ!」


アンネリーゼはシルクトレーテの頭の上から王都を見渡し、瓦礫と瘴気に荒れ果てた光景を前に、なぜか目を輝かせていた。


「わぁ……!見たことない魔物までいるじゃない!」


荒廃した王都は、彼女にとってまるで“巨大な食材市場”だった。


「あ、あそこ……オリザールスたちが歩いているわ!」


同じ方向を見れば、オリザールスが数名の聖女と神官を連れて王都を探索している。


「あっちにはラケルがいるわね。赤いからすぐわかるわね。」


視線を反対側に向けると、ラケルたちの姿もすぐ発見できた。


どうやら二手に分かれて行動しているようだ。


アンネリーゼのはしゃぎっぷりを見て、アレットがくすっと笑う。


「じゃあ、私もそろそろ行ってくるわね。」


「えぇ、気を付けてね。アレット。それにオレールも。」


「ありがとう。アンナも気を付けて。」


オレールは落ち着いて見えるが、イザークのことが心配なのか、いつもより少し表情が硬い。


二人がアンネリーゼに行ってくると告げ、シルクトレーテの出口から一歩を踏み出そうとしたその時――


イアンが「待て…」と声をかけた。


アレットとオレールが立ち止まり振り返る。


すると、イアンはまっすぐアレットの元へ歩いていき、そのまま抱きしめた。


「え!?ちょ……み、皆が見てるんだけど!?」


あまりの不意打ちにアレットが大慌てする。


「アレット……必ず無事で戻ってきてくれ!! そして……戻ってきて落ち着いたら、結婚しよう。」


「えっ……えっ!?……ど、どういうこと!? というかここで話す話じゃないでしょ!!」


普段冷静なアレットが顔を真っ赤にしているのを見て、周りの仲間たちが一斉にざわついた。


「ちょ、ちょっと離れなさいよ!! こ、こんな時に……っ!」


アレットは必死にイアンの胸を叩きながら真っ赤になって抗議するが、緩めるどころかさらに強く抱きしめた。


それを見ていた面々は、勝手に大盛り上がり。


「きゃー!ここで言う!?ここで!?」


「アレットが真っ赤になってるわ~!!」


「イアン様が…なんだかかっこよく見える~」


「ひゅ~もっとやれ~!!」


空気が一気に騒がしくなった。


「もう……わかったから。イアン、あなたもよ?
 結婚するんだったら絶対死なずに戻ってきて。
 ……死んだら許さないんだから!」


アレットは顔を真っ赤にしたまま、イアンの胸元に額を押しつけて小さく呟いた。


「あぁ……わかった。
 約束する。」


イアンはアレットの頭を優しくぽんぽんと叩き、そして静かに彼女を解放した。


次の瞬間――


その顔から、先ほどまでの甘さは完全に消え失せていた。


感情が鎧の下に吸い込まれたかのように、そこに立つのは“騎士”そのものだった。


イアンはアレットたちの背中を見送り、深く息をつく。


ちょうど同じ頃、シルクトレーテは王都の中央付近で足を止めた。


その大きな甲羅の上から、ふわりと光が舞い上がり、シルクトレーテの“分身体”がミレイユの肩へと昇っていく。


「ミレイユ。――ここで歌い、踊りなさい。」


「えっ!? い、今ですか!?」


思わぬ命令にミレイユは胸に手を当て、息をのみ込んだ。
ほんの一瞬だけ迷いが揺れる。


「あぁ。ここなら皆に届く。お前たちの力がのぉ。」


その声は、メメント・ムーンとメメント・ソレイユの力を心から信じている証だった。



「……うん。やるしか、ないよね。」


決意の声は、震えていても確かだった。


中央の噴水広場にメンバーが降ろされると、


どこからともなく音が鳴り――


まるでステージのように光が集まっていく。


そして、歌が始まった。


"聖女は守りの歌を響かせ
神官は光の剣を掲げる

キラキラ☆シールド みんなを守る
ドキドキ☆パワー 強くなれる

(防御↑↑!)「鉄壁だよ!」
(攻撃↑↑!)「烈火だよ!」

防御は鉄壁! 攻撃は烈火!
歌声ひとつで 奇跡を起こす!

\防御!/ 「まもる!」
\攻撃!/ 「せめる!」
\聖女!/ 「守りの歌!」
\神官!/ 「光の剣!」

聖なる歌を 響かせよう
盾も剣も 光に変わる
この舞台で ひとつになり
防御も攻撃も――最強アイドル!"


歌声が波紋のように王都へ広がり、次第に王都全体が柔らかな光の膜に包まれていく。


崩れた石畳の影に潜んでいた魔物たちも、眩しさに目を細めるように動きを止めた。


アニデヴォーラに身体を乗っ取られていた者たちから、黒い瘴気だけがすうっと抜け落ち、次々にその場へ崩れ落ちていく。


いたるところから光の粒が空へと昇り、アンネリーゼたちの元へ向かって集まってきた。


ふわりと身体が熱くなり、力が湧き上がる。


(なんだか…体が熱い…? これもバフの効果ってとこかしら。)


アンネリーゼは集まる光の粒子を見つめ、小さく息を呑んだ。


「……あなた達……どこまで強くなる気よ。
 本当、最高の仲間だわ……」


ケルネリウスも同じ思いだったのか、静かに頷いた。


「そうだな……。」


光が消えると、空気がひんやりと引き締まった。


「――そろそろ私たちも行きましょうか。」


歌が終わるのに合わせて、アンネリーゼたちは王城へ向けて歩き出した。



***


「今の光…一体何だったんだ!?」


巨大な森のような影が動いたと思えば、その上にアンナが立って手を振っていた時点で理解不能だった。


だが、その直後に――


王都全域に音楽が流れ始め、歌声が響き渡るなど、誰が想像できるだろうか。


「……なんだか……心なしか体に力が入ってきたような……。」


限界寸前だった足はずっと震えて、指先の感覚さえ薄れていたはずなのに――


歌が響き始めてから、胸の奥からじん、と何かが戻ってくるのを感じる。


(……これは……本当に……?)


目の前を徘徊していた魔物たちは一斉に動きを止め、人々の身体からは黒い瘴気が抜け落ち、その残滓が光となって空へと舞い上がっていく。


まるで地獄の王都に、一瞬だけ“救い”が差し込んだかのようだった。


イザークは息を呑み、小さく呟いた。


「アンナ……お前、どこまで強くなる気だ……」


その時――


「本当にそうですよね、兄上。」


「イザーク、久しぶりね!」


振り返った先に立っていたのは――


「オ、オレールに……アレット……?」


信じがたいというように、イザークは目を大きく見開いた。


その表情は、絶望の底に沈んでいた者が、本当に仲間に“救い上げられた”瞬間のそれだった。


オレールがしゃがみ込み、そっと手を差し出す。


「ご無事で何よりです! ……さぁ、帰りましょう。」


イザークがその手を握り返すと、オレールは一気に引き上げた。


「……あ、あぁ……だが……」


まだ状況が飲み込めていないイザークに、アレットが優しく、けれど確信に満ちた声で言う。


「大丈夫よ! だって――アンナが来ているもの!」


その言葉は、ひび割れた心の奥へまっすぐ届く“光”のようだった。


イザークの胸の奥で、強い希望がじんわりと広がっていく。


「……そ、そうか……アンナだもんな。」


「そうよ! アンナなんだから。
 あとは任せて。イザークは――ゆっくり休んで。」


アレットは軽く笑ってそう言い、オレールは絶妙なタイミングでイザークの背を支える。


そして三人は、まだ光の降り注ぐ王都の中を、ゆっくりとシルクトレーテの元へ向かって歩き始めた。


その先に待つ運命に、迷う者は一人もいなかった。
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