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あなたのことを思い出した。
ジャスティファイド
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深夜、ナースコールが鳴り響く。
場所は、僕がよく知る患者の個室からだった。
食べかけのおにぎりを投げるように置き、患者の入院部屋へと向かう。
冷たいリノリウムの廊下を駆ける足音ばかりが反射した。
頭の中は焦りで埋まり、何も考えることができない。
たったこれだけの距離ですら長く遠く感じてしまう。
部屋の前へとたどりつき、ノックを飛ばしてドアを開けた。
僕は立ち尽くし、言葉を忘れる。
中で小さく静かに女性が泣いていた。
患者である少女を抱いた母親が、縮むように身を寄せて泣いている。
その光景を、僕はただ眺めているだけに留まっている。
息が詰まり、かけるべき言葉を探している。
探しているから声にならない。
少女の名前は、アリアと言った。
翌日、休みだった僕は河川敷へと向かった。ついさっき落ちた陽も柔らかくなり始め、コスモスの咲いた秋口。花に包まれるように腰を下ろし、持参した瓶ラムネをあけた。残滓のような夏のにおいが乾いた音で爆ぜる。
あれから僕は上手いこと医者になった。国家試験までストレートで突破した僕はあの大学病院へと籍を置き、それからそのまま現在に至る。それなりに普通の大人として生きていた。同級生も結婚したりして、なんなら友人の一人は有名な小説家として名を馳せている。僕もそんなみんなと肩を並べられるような大人になれたことが嬉しかった。先輩の影ばかりを追っていたあの頃の僕が見たらなんて言うだろう。少しは、憧れに近づけただろうか。
だけどやっぱり大人になってもつらいことは消えなくて、悩んだ末に逃げてしまいたくなる時もある。そんな時は常備してる瓶ラムネを片手にこの河川敷へと赴いていた。ここに来れば、心が拭われるような気がして。自分探しのために海へ向かうのと同じ、きっとそんなもの。
腰かけた視線の先に、たった一本だけ群れから外れてしまったようにコスモスが咲いていた。薄紫色をした花弁をひとつも欠けることなく綺麗に広げている。まるで外れてしまったのではなく、自ら一人を選び凛と咲き誇るその姿に大切な人の顔が思い浮かんだ。瓶ラムネをコスモスの右隣に添える。
「……先輩、僕、医者辞めようと思うんです」
中のガラス玉が相槌のようにからりと音を立てる。
「……もう、わかんなくなってしまって。生きるとか死ぬとか、命とか家族とか、愛情とか、それに僕のしたいこともするべきことも、大切にしたいものも求められる現実も、何が正解で間違いなのかも、もうわかんなくなってしまいました」
昨夜からずっと、僕の頭を離れないのは葛藤に似た不明瞭。あの少女は、僕が初めて担当した患者だった。類い稀な病を患い、枯れるようにゆっくりと、されど逃げることも許されず確実に衰弱していくような少女。最初はまだ会話も交わせたが徐々にそれも叶わなくなり、ついには眠るようにしか生きられなくなっていた。施すものも指折るように無くなっていき、医学の限界と敗北にやるせなさを感じたことも鮮明に覚えている。だが僕は諦めたくなかった。微かな可能性にも目を向けた。やれることはなんだってした。
あの子にラムネ菓子を差し入れたのも僕だった。胃への負担を考え、甘味の仄かなものしたせいか、彼女はそれを薬剤の一種と最後まで思っていたらしい。でもあれは何か少しだけでも固形物を口にしてくれたらと思った僕なりの寄り添いだった。あの子が少しでも幸せを感じてくれたらそれでいい。それ以外の他意はない。少女を生かすことが、命を長らえることが、正解であり医学の本質だと思っていた。
でも、そんなのただの建前だったみたいだ。
少女がほとんど生きているのか眠っているのか、その境界すら曖昧になってしまった頃、少女の母親から直接僕へと要望が来た。
安楽死を希望したい、そう言われた。
日本は安楽死を導入していないと伝えると、ならば今施している延命治療を全てやめてほしい、そう訂正された。母親は短くスタッカートの聞いた声でそう言い切った。
呑みこめなかった。
この人は、何を言っているんだと思った。
これが、親の吐く言葉なのか。
どうして。なぁ、どうしてなんだ。
どうして諦めてしまうんだ。
見捨ててしまうんだ。
なぁあんた親だろ。
あんたあの子の母親なんだろ。
なぁそうなんだろ。
なんだよそれ、どっからその言葉垂れ流してんだ。
『あんた……それでも本当にあの子の親かよ』
医者という立場を乗り越えて口を飛び出したのは偽善かもしれないが、偽りのない本心であり持ち続けた誇り。それが仮面を破って牙を向いてしまった。
そこからは言うまでもなくひどい口論が始まる。互いに相手へ譲るはずもない。言葉で殴るだけに留まらず、胸ぐらを掴むような場面すらあった。そんな騒ぎに気づいた別の医者が仲介に入ってくれたため暴力沙汰までは発展しなかったが、でも結果としてあの子への延命治療は選択肢から消えてしまった。
「……僕は、間違っていたんでしょうか」
最低限の点滴だけを与え続ける日々。勢いを増して日に日に痩せていく体を、僕は外から眺めているだけ。少女が一日のうちに発する言葉も数えられるほどに減っていき、ついには視力すら失ってしまった。生きていると称するにはあまりにも心苦しい姿で、少女は小さく命を灯している。
正解だったんだろうか。
僕はずっと、母親の言葉が刺さっている。
あの口論の中で発した言葉が、僕の正義を揺さぶっている。
『母親が最後まで強くいられるなんて、あなたの理想なのよ』
母親は泣いていた。そして言葉を続ける。
『それともあなたは、弱り続ける自分の娘を見続けろって言うの』
『あなたが言っているのは、医学という名の理想の押しつけよ』
「……先輩、家族ってなんなんでしょうか。僕はただ、あの子をもっと愛して欲しかっただけ、で。母親の言いたかったこともわかります。でも、それを許したら、あの子は報われないじゃないですか。そんなの、そんなの、……あんまりじゃないですか。だって、だって……。あの子が亡くなるまでの最後の一ヶ月、あの母親はその間に二回しか会いに来なかった。あの子はずっと会いたがってた。でも会いに来ず、来たとしても声もかけず姿も見せなかった。それなのに、母親が苦しいからって、そんなの、………………僕は……っ」
だから昨夜、母親が娘を抱いて泣いていた時、かける言葉が見つからなかった。口を閉ざしておかないと、罵詈雑言が漏れてしまう気がした。
ほとんど会いに来なかったくせに、それでも親なのか。
そうやって泣くのか。
なぁ、あんまりにも言い訳がすぎないか。
つらかったからなんだよ。
母親だからってってなんだよ。
あんたのその母親って言葉こそが言い訳だったんじゃないかよ。
あの子が待ってても来てやんなかったくせに、ずるいだろ。
……なぁ、これは僕が間違っているのか?
「……この仕事は、僕には向いていないのかもしれません。僕は不器用だから、医者としての仕事を全うしようと思います。病気は治しますし、治らないにしても少しでも長く楽に生きて欲しいと思います。それを正解であり信念だと信じています。でも、違うのかもしれません。生きることは正解だって、イコールで結びつかないのかもしれない。そういう不可解で曖昧な、僕には理解できないものなのかもしれません」
……だから、先輩だけじゃなくて君も自死を選んでしまったのだろうか。
僕は、大切な人を失ってしまったけど、もがきながらも生きた。遠回りしたけれど、その末にこうして生きている。でも、それも正解じゃないのかもしれない。頑張るだけ無駄だったのかもしれない。逃げてもよかったんだろうか。こんな思いをするくらいなら、頑張らなくてもよかったんじゃないだろうか。
だから君は、大切な人の後を追ったんじゃないのか?
「……教えてくれませんか、先輩。生きるってなんですか。生きていくって、乗り越えていくって、大切な人の死を受け止めるってなに。教えてくれませんか。……ねぇ、今日くらい答えてくださいよ」
からんと瓶が倒れて中身がこぼれる。
風ばかりが頬を掠めている。
生温くて、誰かの体温に似ていて、だけど全く違う偽物。
誰も答えてくれない孤独に俯くしか術がない。
明日も不正解のような人生を繰り返すのだろうか。
わからなくて縺れる足はまるで千鳥足。
……ねぇ先輩。後を追いたいなんて言ったら、叱ってくれますか。
場所は、僕がよく知る患者の個室からだった。
食べかけのおにぎりを投げるように置き、患者の入院部屋へと向かう。
冷たいリノリウムの廊下を駆ける足音ばかりが反射した。
頭の中は焦りで埋まり、何も考えることができない。
たったこれだけの距離ですら長く遠く感じてしまう。
部屋の前へとたどりつき、ノックを飛ばしてドアを開けた。
僕は立ち尽くし、言葉を忘れる。
中で小さく静かに女性が泣いていた。
患者である少女を抱いた母親が、縮むように身を寄せて泣いている。
その光景を、僕はただ眺めているだけに留まっている。
息が詰まり、かけるべき言葉を探している。
探しているから声にならない。
少女の名前は、アリアと言った。
翌日、休みだった僕は河川敷へと向かった。ついさっき落ちた陽も柔らかくなり始め、コスモスの咲いた秋口。花に包まれるように腰を下ろし、持参した瓶ラムネをあけた。残滓のような夏のにおいが乾いた音で爆ぜる。
あれから僕は上手いこと医者になった。国家試験までストレートで突破した僕はあの大学病院へと籍を置き、それからそのまま現在に至る。それなりに普通の大人として生きていた。同級生も結婚したりして、なんなら友人の一人は有名な小説家として名を馳せている。僕もそんなみんなと肩を並べられるような大人になれたことが嬉しかった。先輩の影ばかりを追っていたあの頃の僕が見たらなんて言うだろう。少しは、憧れに近づけただろうか。
だけどやっぱり大人になってもつらいことは消えなくて、悩んだ末に逃げてしまいたくなる時もある。そんな時は常備してる瓶ラムネを片手にこの河川敷へと赴いていた。ここに来れば、心が拭われるような気がして。自分探しのために海へ向かうのと同じ、きっとそんなもの。
腰かけた視線の先に、たった一本だけ群れから外れてしまったようにコスモスが咲いていた。薄紫色をした花弁をひとつも欠けることなく綺麗に広げている。まるで外れてしまったのではなく、自ら一人を選び凛と咲き誇るその姿に大切な人の顔が思い浮かんだ。瓶ラムネをコスモスの右隣に添える。
「……先輩、僕、医者辞めようと思うんです」
中のガラス玉が相槌のようにからりと音を立てる。
「……もう、わかんなくなってしまって。生きるとか死ぬとか、命とか家族とか、愛情とか、それに僕のしたいこともするべきことも、大切にしたいものも求められる現実も、何が正解で間違いなのかも、もうわかんなくなってしまいました」
昨夜からずっと、僕の頭を離れないのは葛藤に似た不明瞭。あの少女は、僕が初めて担当した患者だった。類い稀な病を患い、枯れるようにゆっくりと、されど逃げることも許されず確実に衰弱していくような少女。最初はまだ会話も交わせたが徐々にそれも叶わなくなり、ついには眠るようにしか生きられなくなっていた。施すものも指折るように無くなっていき、医学の限界と敗北にやるせなさを感じたことも鮮明に覚えている。だが僕は諦めたくなかった。微かな可能性にも目を向けた。やれることはなんだってした。
あの子にラムネ菓子を差し入れたのも僕だった。胃への負担を考え、甘味の仄かなものしたせいか、彼女はそれを薬剤の一種と最後まで思っていたらしい。でもあれは何か少しだけでも固形物を口にしてくれたらと思った僕なりの寄り添いだった。あの子が少しでも幸せを感じてくれたらそれでいい。それ以外の他意はない。少女を生かすことが、命を長らえることが、正解であり医学の本質だと思っていた。
でも、そんなのただの建前だったみたいだ。
少女がほとんど生きているのか眠っているのか、その境界すら曖昧になってしまった頃、少女の母親から直接僕へと要望が来た。
安楽死を希望したい、そう言われた。
日本は安楽死を導入していないと伝えると、ならば今施している延命治療を全てやめてほしい、そう訂正された。母親は短くスタッカートの聞いた声でそう言い切った。
呑みこめなかった。
この人は、何を言っているんだと思った。
これが、親の吐く言葉なのか。
どうして。なぁ、どうしてなんだ。
どうして諦めてしまうんだ。
見捨ててしまうんだ。
なぁあんた親だろ。
あんたあの子の母親なんだろ。
なぁそうなんだろ。
なんだよそれ、どっからその言葉垂れ流してんだ。
『あんた……それでも本当にあの子の親かよ』
医者という立場を乗り越えて口を飛び出したのは偽善かもしれないが、偽りのない本心であり持ち続けた誇り。それが仮面を破って牙を向いてしまった。
そこからは言うまでもなくひどい口論が始まる。互いに相手へ譲るはずもない。言葉で殴るだけに留まらず、胸ぐらを掴むような場面すらあった。そんな騒ぎに気づいた別の医者が仲介に入ってくれたため暴力沙汰までは発展しなかったが、でも結果としてあの子への延命治療は選択肢から消えてしまった。
「……僕は、間違っていたんでしょうか」
最低限の点滴だけを与え続ける日々。勢いを増して日に日に痩せていく体を、僕は外から眺めているだけ。少女が一日のうちに発する言葉も数えられるほどに減っていき、ついには視力すら失ってしまった。生きていると称するにはあまりにも心苦しい姿で、少女は小さく命を灯している。
正解だったんだろうか。
僕はずっと、母親の言葉が刺さっている。
あの口論の中で発した言葉が、僕の正義を揺さぶっている。
『母親が最後まで強くいられるなんて、あなたの理想なのよ』
母親は泣いていた。そして言葉を続ける。
『それともあなたは、弱り続ける自分の娘を見続けろって言うの』
『あなたが言っているのは、医学という名の理想の押しつけよ』
「……先輩、家族ってなんなんでしょうか。僕はただ、あの子をもっと愛して欲しかっただけ、で。母親の言いたかったこともわかります。でも、それを許したら、あの子は報われないじゃないですか。そんなの、そんなの、……あんまりじゃないですか。だって、だって……。あの子が亡くなるまでの最後の一ヶ月、あの母親はその間に二回しか会いに来なかった。あの子はずっと会いたがってた。でも会いに来ず、来たとしても声もかけず姿も見せなかった。それなのに、母親が苦しいからって、そんなの、………………僕は……っ」
だから昨夜、母親が娘を抱いて泣いていた時、かける言葉が見つからなかった。口を閉ざしておかないと、罵詈雑言が漏れてしまう気がした。
ほとんど会いに来なかったくせに、それでも親なのか。
そうやって泣くのか。
なぁ、あんまりにも言い訳がすぎないか。
つらかったからなんだよ。
母親だからってってなんだよ。
あんたのその母親って言葉こそが言い訳だったんじゃないかよ。
あの子が待ってても来てやんなかったくせに、ずるいだろ。
……なぁ、これは僕が間違っているのか?
「……この仕事は、僕には向いていないのかもしれません。僕は不器用だから、医者としての仕事を全うしようと思います。病気は治しますし、治らないにしても少しでも長く楽に生きて欲しいと思います。それを正解であり信念だと信じています。でも、違うのかもしれません。生きることは正解だって、イコールで結びつかないのかもしれない。そういう不可解で曖昧な、僕には理解できないものなのかもしれません」
……だから、先輩だけじゃなくて君も自死を選んでしまったのだろうか。
僕は、大切な人を失ってしまったけど、もがきながらも生きた。遠回りしたけれど、その末にこうして生きている。でも、それも正解じゃないのかもしれない。頑張るだけ無駄だったのかもしれない。逃げてもよかったんだろうか。こんな思いをするくらいなら、頑張らなくてもよかったんじゃないだろうか。
だから君は、大切な人の後を追ったんじゃないのか?
「……教えてくれませんか、先輩。生きるってなんですか。生きていくって、乗り越えていくって、大切な人の死を受け止めるってなに。教えてくれませんか。……ねぇ、今日くらい答えてくださいよ」
からんと瓶が倒れて中身がこぼれる。
風ばかりが頬を掠めている。
生温くて、誰かの体温に似ていて、だけど全く違う偽物。
誰も答えてくれない孤独に俯くしか術がない。
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