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ダンスが終わると、近くにいた貴族が少年に声を掛けた。
禿げ上がった頭の、肥え太った中年男性だ。名前は忘れた……
「トライア様。この度は、お会い出来て光栄です。わたくしは、トパージェリアに隣接する領地を管理しております、オーブリー・ワズーリと申します」
トラ、イア?
どこかで聞いたことのある名前だが、どこだったかが思い出せない。
「ああ、ワズーリ子爵だね。こちらこそ、会えて嬉しいよぉ」
「殿下! わたくしなどの名前をご存知で……!?」
禿げたオッサンが、感極まった様子で少年を見つめている。
今にも少年に抱きつきそうな勢いだ。
(ん……殿下?)
私は、トライアに視線を移した。どこかで聞いたことのある名前、隣国、殿下……
過去にプレイした乙女ゲームの記憶が、徐々に蘇ってくる。
そんな名前の登場人物、いたよね?
トライア・トパージェリア——
彼は、隣国トパージェリアの第二王子で、あの乙女ゲームに出てくる攻略対象ダイヤのKだ。
言われてみれば、銅色の髪や金色の瞳、琥珀色の肌は彼と同じものである。
そして、攻略対象の例に漏れず人外級の美形だ。
ゲーム内での彼は、次期国王の座を兄と争っている野心家だった。そして、極度の女好き。
なるほど、私に吐いた甘い台詞の数々は、彼にしたら日常的に使用する言葉なのだろう。
(それにしても……まだ少年の姿だからだろうか。トライアは、ゲームに出てくる彼とは全然印象が違うな)
ゲームのダイヤのKは、ガタイの良い短髪マッチョ系だったのだが、目の前の少年は華奢だし髪も長い。
「どうしたの、カミーユ? 僕に見とれちゃった?」
「え? いや、違いますけど」
「……なんだ、残念」
本当に残念そうに、トライアは視線を落とす。
なんだか、彼に悪いことをしたような気分になってきた。
「あーあ。ダンスで目立っちゃったし、そろそろ僕もお仕事をしないとね」
いつの間にか、彼の周りには、隣国の第二王子に話しかけたい貴族の人だかりが出来ていた。
トライアも大変だな。
「では、私は失礼しますね。ダンス、踊って下さってありがとうございます」
去ろうとする私の腕を、トライアが掴む。
「えっと……あの、私はもう向こうへ行きますので、手を離してくださると嬉しいのですが?」
この場にいたら、明らかに邪魔になるだろうし。
長々と、他の貴族の会話に巻き込まれるのは大変面倒くさい。
(それに、出来れば、ダイヤのKとも関わり合いになりたくないんだよね)
ロイス様やアシルのルートのように、制裁を加えられたらたまったものではない。
なんとか彼らのルートの破滅を回避しつつあるのに、何かの拍子に別ルートの地雷を踏んだら大変である。
「手を離すのは嫌だ……って言ったら?」
「……困ります」
「即答だね。いいよ、今日のところは離してあげる」
トライアが、名残惜しそうに私の腕を掴む力を抜いた。
私は、一礼してその場を去る。
「またね、カミーユ」
後ろから声を掛けるトライアの瞳は、華奢な少年の表情に不釣り合いな、獲物を狙うようなギラギラしたものだった。
禿げ上がった頭の、肥え太った中年男性だ。名前は忘れた……
「トライア様。この度は、お会い出来て光栄です。わたくしは、トパージェリアに隣接する領地を管理しております、オーブリー・ワズーリと申します」
トラ、イア?
どこかで聞いたことのある名前だが、どこだったかが思い出せない。
「ああ、ワズーリ子爵だね。こちらこそ、会えて嬉しいよぉ」
「殿下! わたくしなどの名前をご存知で……!?」
禿げたオッサンが、感極まった様子で少年を見つめている。
今にも少年に抱きつきそうな勢いだ。
(ん……殿下?)
私は、トライアに視線を移した。どこかで聞いたことのある名前、隣国、殿下……
過去にプレイした乙女ゲームの記憶が、徐々に蘇ってくる。
そんな名前の登場人物、いたよね?
トライア・トパージェリア——
彼は、隣国トパージェリアの第二王子で、あの乙女ゲームに出てくる攻略対象ダイヤのKだ。
言われてみれば、銅色の髪や金色の瞳、琥珀色の肌は彼と同じものである。
そして、攻略対象の例に漏れず人外級の美形だ。
ゲーム内での彼は、次期国王の座を兄と争っている野心家だった。そして、極度の女好き。
なるほど、私に吐いた甘い台詞の数々は、彼にしたら日常的に使用する言葉なのだろう。
(それにしても……まだ少年の姿だからだろうか。トライアは、ゲームに出てくる彼とは全然印象が違うな)
ゲームのダイヤのKは、ガタイの良い短髪マッチョ系だったのだが、目の前の少年は華奢だし髪も長い。
「どうしたの、カミーユ? 僕に見とれちゃった?」
「え? いや、違いますけど」
「……なんだ、残念」
本当に残念そうに、トライアは視線を落とす。
なんだか、彼に悪いことをしたような気分になってきた。
「あーあ。ダンスで目立っちゃったし、そろそろ僕もお仕事をしないとね」
いつの間にか、彼の周りには、隣国の第二王子に話しかけたい貴族の人だかりが出来ていた。
トライアも大変だな。
「では、私は失礼しますね。ダンス、踊って下さってありがとうございます」
去ろうとする私の腕を、トライアが掴む。
「えっと……あの、私はもう向こうへ行きますので、手を離してくださると嬉しいのですが?」
この場にいたら、明らかに邪魔になるだろうし。
長々と、他の貴族の会話に巻き込まれるのは大変面倒くさい。
(それに、出来れば、ダイヤのKとも関わり合いになりたくないんだよね)
ロイス様やアシルのルートのように、制裁を加えられたらたまったものではない。
なんとか彼らのルートの破滅を回避しつつあるのに、何かの拍子に別ルートの地雷を踏んだら大変である。
「手を離すのは嫌だ……って言ったら?」
「……困ります」
「即答だね。いいよ、今日のところは離してあげる」
トライアが、名残惜しそうに私の腕を掴む力を抜いた。
私は、一礼してその場を去る。
「またね、カミーユ」
後ろから声を掛けるトライアの瞳は、華奢な少年の表情に不釣り合いな、獲物を狙うようなギラギラしたものだった。
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