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「カカカ、カミーユ! お前、舞踏会で、一体何をしたんだ!?」
舞踏会から帰った数日後、血相を変えた父が私の部屋へやって来た。
「どうしたの、お父様。珍しく慌てて」
マイペースな父は、どちらかと言うと自分が慌てるよりも、周りを振り回して慌てさせる性格だ。
そんな彼の取り乱した様子を見て、私は急に不安になった。
舞踏会で、何か変なことをやらかしてしまったのだろうか……
(どどど、どうしよう!?)
しかし、続く父の言葉は予想外のものだった。
「隣国の第二王子から、縁談が来ている……!」
「WHY!?」
トライアから縁談!? 一体、どういうことだろう。
こんな展開は予想外だ。
今まで私の頭の中にあった破滅回避方法は、いかにして攻略対象達と距離を取るかである。
向こうから接触してくるなんて、完全に想定外だった。
「隣国の王族だ。いくら、侯爵家の跡取りがカミーユしかいないとしても、断ることは難しいだろう……」
「そ、そんな! この家はどうするの!?」
「親戚筋から養子を取る。カミーユ、こんなことをお前に言うのは酷だが……覚悟をしておいた方がいい」
父の言葉に、私は頭の中が真っ暗になった。
(なんで、どうして、こんなことに。侯爵家を継いで、平和な異世界生活を送る筈だったのに……!)
今になって後悔しても、もう遅い。
あの舞踏会で、トライアに会ったのが運の尽きだったのだろう。
去り際に「またね」と言った彼の顔が、鮮明に思い出された。
それから先は、早かった。
国ぐるみで、あっという間に輿入れの準備が整えられ……私は一年後、十五歳にして隣国へ送り出されることとなったのだ。
縁談の話が来てからというもの、私の元には定期的にトライアからの手紙が届いた。
内容は、「会いたい」、「愛おしい」というような、ムズムズする感じのものだ。
私は、当たり障りのない範囲で、無難な返事を書いて彼に送っていた。
トライア本人に会うのは、約一年ぶりだ。色々な意味で緊張する。
転移用の魔法陣を介して、アラビアンな雰囲気の王宮へ連れて来られた私は、不安を隠しきれずに辺りをキョロキョロと見回した。
トパージェリア城内は、いかにも金が掛かっていそうな作りだ。
大理石っぽい床に、金ぴかの天井に壁、調度品も全て高級ちっくである。
ガーネット風の大人びた花嫁衣装を身に纏った私は、御付きの人に連れられて城内を進んだ。
これから、トパージェリア王やトライアに面会するのである。
謁見室は、豪華な城内でも群を抜いて金が掛かっていそうだ。
全てがゴテゴテしており、シンプルなガーネットの謁見室とは比べ物にならない。
玉座の間では、国王たちが私を待っていた。
「よく来てくれた、カミーユ・ロードライト侯爵令嬢。息子との縁談を受け入れてくれたことを、感謝する」
トパージェリア王、アルバロ陛下が声を掛けてくる。
王の右に立っているのは、おそらく第一王子のバシリオ殿下だろう。トライアによく似ている。
そして、王の左には、舞踏会の時以上に着飾ったトライアが立っていた。少し背が伸びて大人っぽい雰囲気になっている。
「まあ、見ての通りの愚息だが、よろしく頼む」
私は、了解の意を示す為に王に向かって頭を下げた。
他国の人間である私に対して、王が思ったよりも好意的に接してくれたのが救いだ。
なんとしてでも、破滅エンドは回避しなければならない。
「トライア、カミーユ嬢を案内してやれ」
「勿論だよ、お父様」
軽やかな足取りで私に近づいたトライアは、にっこりと笑って私の手を取った。
「会いたかったよ、カミーユ。この一年、君のことばかり考えていたんだ。この縁談が纏まって、僕は天にも上る気持ちだ」
「……はあ、そうですか」
「堅苦しい敬語は抜きだよ、夫婦になるんだから。僕のことはトライアと呼んで」
「分かりました……じゃなくて、わ、分かったよ」
「そうそう、その調子♪ それじゃ、君の部屋に案内するねー」
私の肩を抱くようにして歩き出す彼は、とても上機嫌だ。
しかし、トライアにここまで気に入られる理由が分からない私は、困惑するばかりである。
なんといっても、彼との接点は舞踏会のみなのだから。
(……それも、少しダンスをした程度なのに)
城内を案内されている途中で、私はトライアに話しかけた。
「あの、トライア様……」
「様は要らないよ」
「トライア……私、どうしてあなたから縁談の話が来たのか、未だに分からないんだけど」
「酷いなあ、あの時「またね」って言ったのに。カミーユは、僕のことをなんとも思わなかったの?」
「うん、特には。あの時は、社交辞令で言っているのだと思ってた」
「うわー、バッサリ。いいけどねー。これからは、時間もあるし……」
そう言って、トライアは私との距離を詰める。
「逃げないでよ、カミーユ」
「だ、だって、トライアが近いから。部屋に行くのに、こんなのは必要ないと思うんだけど?」
彼が距離を詰めるごとに、私は一歩後ろに下がる。
「もうすぐ、夫婦になる仲なのに?」
「まだ、夫婦じゃないもの。ただの婚約者だもの」
私は、徐々に壁際に追い詰められる。
「ふふふ、行き止まりだよ、カミーユ? さあ、どうするのぉ♪」
トライアは、実に楽しそうに私に近づいてくる。もう、逃げ場がない!
そのまま、彼は私を挟む形で壁に両手をついた。
「ひゃあああ! か、壁ドン!」
異性に対して免疫のない私は、すぐにパニックに陥った。
元の世界で恋人がいたことはあったが、こんなドキドキするような行為をされたことはない。
学校帰りに手を繋いだくらいだ!
(む、無理ー! 色々と、無理だあー!)
「ほらほらぁ♪ 嫌なら早く逃げないと。僕にチューされちゃうよぉ?」
「はわわわ、わわわわ!?」
整ったトライアの顔が、徐々に近づいてくる。
(トライア! アンタが壁ドンする相手は、私じゃない! ヒロインだー!)
たしか、そんなスチルがあったような気がする。場所は、学園内の廊下だ。決して王宮ではない。
混乱した状態のまま、私は叫んだ。
「っ、トライア! ちょっと待っ……!」
「待たない♪」
唇に、温かいものが触れる。
それが何だか分かった瞬間、私の顔は羞恥で真っ赤に染まった。
「……っ!!」
「わぁ♪ 可愛い反応。もしかして、初めて?」
「……は、初めて」
ファーストキスだったのに……
カミーユになってからも、愛美のときも、異性からキスなんてされたことがなかったのだ。
「ふふっ、可愛いなあ。それじゃ、慣れるまで何度でもキスしてあげるね」
「ええっ!? い、要らない! やめて、トライア! やだっ、んぅっ」
角度を変えて、何度もトライアに唇を奪われる。
やめてと言っているのに、トライアは聞いちゃくれない。
というか、話している時にも何度もキスされるので、言葉にならない。
(しかも、だんだんキスが深くなってきているんですけど!?)
婚約初日に貞操の危機を感じるなんて……! トライア、恐ろしい子!!
「はぁっ、可愛い。カミーユ、もう、僕のものだね……」
「も、やめっ……んんっ!?」
唇を割って、トライアの舌が侵入してくる。
(あ、駄目だ、足に力が入らなくなってきた)
ずるずると壁伝いに崩れ落ちる私の腰を、トライアが支える。
ドサクサにまぎれて、太腿の間に膝を割り入れられた。
「……このまま、僕の部屋に持って帰りたいな。いいよね、どうせカミーユの隣の部屋だし」
よくない! と、叫びたいところだが、トライアのせいでヘロヘロになっている私は、声を出すことも出来ない状態である。
必死に抵抗するも、彼に支えてもらわないと立っていることもままならないため、なす術がない。
(だ、誰か……! 助けて下さい、割と本気でお願いします……!)
私の心の声が届いたのか、廊下の向こうからものすごい勢いで走ってくる新たな人影が見えた。
「若様ぁっ!! 中々部屋に戻って来ないと思ったら……こんな所で、何をやっているんですか!! そのご令嬢は、カミーユ様ではありませんか!! あなたという人は、婚約者の案内もまともに出来ないのですかぁっ!?」
そう叫んでいるのは、長い黒髪を後ろで一つに束ねた背の高い女性だ。
何故か、男装をして腰に剣をさげているけれど……
(それにしても、この女の人、どこかで見たことがある気がするんだよね。こんな美人、一度見たら忘れないんだけどなぁ)
注意されたトライアは、少しむくれながら返事をする。
「……ベアちん、いい雰囲気だったのに。空気読もうよ」
「読んで、助けに入ったのです! ああ、カミーユ様、大丈夫ですか? そこの野獣王子に変わって、私が部屋までご案内いたします」
「ああっ、そうだ! ベアトリクス・タパス伯爵令嬢だ!!」
(思い出したー!! ベアトリクスって、あのゲームのダイヤルートのライバル令嬢じゃん! しかも、ヤバいよ! ベアトリクスって、トライアに惚れていて、ヒロインにめっちゃイジワルしてくる奴だよ! トライアと婚約なんてした日には、お呼出の後で悪質なイジメ確定だよー!!)
しかし、目の前のベアトリクスからは、嫉妬や悪意を感じない。
彼女は、ただ驚いた表情で私を見ている。
「何故、私のことをご存知なのですか!? 少し様子がおかしいとは思っていましたが、まさか……カミーユ様、あなたは……」
その瞬間、ベアトリクスは、流れるような動作で私とトライアの間に割り込むと、耳元でこう囁いた。
「もしかして、あなたも入れ替わり——トリップしたクチですか?」
「えっ……!?」
あなたもってことは、ベアトリクスも私と同じで別の世界からやって来たってことですか!?
私の表情から、彼女は何かを読み取ったらしい。
トライアから私を奪い取ると、ベアトリクスは紳士的な礼をして微笑んだ。
「大丈夫です、心配要りません。困ったことがあれば、私が力になりますからね」
「……ありが、とう」
なんだか、このベアトリクス……とてもカッコイイ。トライアより、男前かも。
もし、彼女が私と同じでトリップした人間だとすれば、他にも同じ境遇の「入れ替わり」が存在するのかもしれない。
(その辺りも含めて、一度、彼女とゆっくり話がしたいな)
彼女が部屋まで案内してくれると言うので、私は有り難くその申し出を受けることにした。
舞踏会から帰った数日後、血相を変えた父が私の部屋へやって来た。
「どうしたの、お父様。珍しく慌てて」
マイペースな父は、どちらかと言うと自分が慌てるよりも、周りを振り回して慌てさせる性格だ。
そんな彼の取り乱した様子を見て、私は急に不安になった。
舞踏会で、何か変なことをやらかしてしまったのだろうか……
(どどど、どうしよう!?)
しかし、続く父の言葉は予想外のものだった。
「隣国の第二王子から、縁談が来ている……!」
「WHY!?」
トライアから縁談!? 一体、どういうことだろう。
こんな展開は予想外だ。
今まで私の頭の中にあった破滅回避方法は、いかにして攻略対象達と距離を取るかである。
向こうから接触してくるなんて、完全に想定外だった。
「隣国の王族だ。いくら、侯爵家の跡取りがカミーユしかいないとしても、断ることは難しいだろう……」
「そ、そんな! この家はどうするの!?」
「親戚筋から養子を取る。カミーユ、こんなことをお前に言うのは酷だが……覚悟をしておいた方がいい」
父の言葉に、私は頭の中が真っ暗になった。
(なんで、どうして、こんなことに。侯爵家を継いで、平和な異世界生活を送る筈だったのに……!)
今になって後悔しても、もう遅い。
あの舞踏会で、トライアに会ったのが運の尽きだったのだろう。
去り際に「またね」と言った彼の顔が、鮮明に思い出された。
それから先は、早かった。
国ぐるみで、あっという間に輿入れの準備が整えられ……私は一年後、十五歳にして隣国へ送り出されることとなったのだ。
縁談の話が来てからというもの、私の元には定期的にトライアからの手紙が届いた。
内容は、「会いたい」、「愛おしい」というような、ムズムズする感じのものだ。
私は、当たり障りのない範囲で、無難な返事を書いて彼に送っていた。
トライア本人に会うのは、約一年ぶりだ。色々な意味で緊張する。
転移用の魔法陣を介して、アラビアンな雰囲気の王宮へ連れて来られた私は、不安を隠しきれずに辺りをキョロキョロと見回した。
トパージェリア城内は、いかにも金が掛かっていそうな作りだ。
大理石っぽい床に、金ぴかの天井に壁、調度品も全て高級ちっくである。
ガーネット風の大人びた花嫁衣装を身に纏った私は、御付きの人に連れられて城内を進んだ。
これから、トパージェリア王やトライアに面会するのである。
謁見室は、豪華な城内でも群を抜いて金が掛かっていそうだ。
全てがゴテゴテしており、シンプルなガーネットの謁見室とは比べ物にならない。
玉座の間では、国王たちが私を待っていた。
「よく来てくれた、カミーユ・ロードライト侯爵令嬢。息子との縁談を受け入れてくれたことを、感謝する」
トパージェリア王、アルバロ陛下が声を掛けてくる。
王の右に立っているのは、おそらく第一王子のバシリオ殿下だろう。トライアによく似ている。
そして、王の左には、舞踏会の時以上に着飾ったトライアが立っていた。少し背が伸びて大人っぽい雰囲気になっている。
「まあ、見ての通りの愚息だが、よろしく頼む」
私は、了解の意を示す為に王に向かって頭を下げた。
他国の人間である私に対して、王が思ったよりも好意的に接してくれたのが救いだ。
なんとしてでも、破滅エンドは回避しなければならない。
「トライア、カミーユ嬢を案内してやれ」
「勿論だよ、お父様」
軽やかな足取りで私に近づいたトライアは、にっこりと笑って私の手を取った。
「会いたかったよ、カミーユ。この一年、君のことばかり考えていたんだ。この縁談が纏まって、僕は天にも上る気持ちだ」
「……はあ、そうですか」
「堅苦しい敬語は抜きだよ、夫婦になるんだから。僕のことはトライアと呼んで」
「分かりました……じゃなくて、わ、分かったよ」
「そうそう、その調子♪ それじゃ、君の部屋に案内するねー」
私の肩を抱くようにして歩き出す彼は、とても上機嫌だ。
しかし、トライアにここまで気に入られる理由が分からない私は、困惑するばかりである。
なんといっても、彼との接点は舞踏会のみなのだから。
(……それも、少しダンスをした程度なのに)
城内を案内されている途中で、私はトライアに話しかけた。
「あの、トライア様……」
「様は要らないよ」
「トライア……私、どうしてあなたから縁談の話が来たのか、未だに分からないんだけど」
「酷いなあ、あの時「またね」って言ったのに。カミーユは、僕のことをなんとも思わなかったの?」
「うん、特には。あの時は、社交辞令で言っているのだと思ってた」
「うわー、バッサリ。いいけどねー。これからは、時間もあるし……」
そう言って、トライアは私との距離を詰める。
「逃げないでよ、カミーユ」
「だ、だって、トライアが近いから。部屋に行くのに、こんなのは必要ないと思うんだけど?」
彼が距離を詰めるごとに、私は一歩後ろに下がる。
「もうすぐ、夫婦になる仲なのに?」
「まだ、夫婦じゃないもの。ただの婚約者だもの」
私は、徐々に壁際に追い詰められる。
「ふふふ、行き止まりだよ、カミーユ? さあ、どうするのぉ♪」
トライアは、実に楽しそうに私に近づいてくる。もう、逃げ場がない!
そのまま、彼は私を挟む形で壁に両手をついた。
「ひゃあああ! か、壁ドン!」
異性に対して免疫のない私は、すぐにパニックに陥った。
元の世界で恋人がいたことはあったが、こんなドキドキするような行為をされたことはない。
学校帰りに手を繋いだくらいだ!
(む、無理ー! 色々と、無理だあー!)
「ほらほらぁ♪ 嫌なら早く逃げないと。僕にチューされちゃうよぉ?」
「はわわわ、わわわわ!?」
整ったトライアの顔が、徐々に近づいてくる。
(トライア! アンタが壁ドンする相手は、私じゃない! ヒロインだー!)
たしか、そんなスチルがあったような気がする。場所は、学園内の廊下だ。決して王宮ではない。
混乱した状態のまま、私は叫んだ。
「っ、トライア! ちょっと待っ……!」
「待たない♪」
唇に、温かいものが触れる。
それが何だか分かった瞬間、私の顔は羞恥で真っ赤に染まった。
「……っ!!」
「わぁ♪ 可愛い反応。もしかして、初めて?」
「……は、初めて」
ファーストキスだったのに……
カミーユになってからも、愛美のときも、異性からキスなんてされたことがなかったのだ。
「ふふっ、可愛いなあ。それじゃ、慣れるまで何度でもキスしてあげるね」
「ええっ!? い、要らない! やめて、トライア! やだっ、んぅっ」
角度を変えて、何度もトライアに唇を奪われる。
やめてと言っているのに、トライアは聞いちゃくれない。
というか、話している時にも何度もキスされるので、言葉にならない。
(しかも、だんだんキスが深くなってきているんですけど!?)
婚約初日に貞操の危機を感じるなんて……! トライア、恐ろしい子!!
「はぁっ、可愛い。カミーユ、もう、僕のものだね……」
「も、やめっ……んんっ!?」
唇を割って、トライアの舌が侵入してくる。
(あ、駄目だ、足に力が入らなくなってきた)
ずるずると壁伝いに崩れ落ちる私の腰を、トライアが支える。
ドサクサにまぎれて、太腿の間に膝を割り入れられた。
「……このまま、僕の部屋に持って帰りたいな。いいよね、どうせカミーユの隣の部屋だし」
よくない! と、叫びたいところだが、トライアのせいでヘロヘロになっている私は、声を出すことも出来ない状態である。
必死に抵抗するも、彼に支えてもらわないと立っていることもままならないため、なす術がない。
(だ、誰か……! 助けて下さい、割と本気でお願いします……!)
私の心の声が届いたのか、廊下の向こうからものすごい勢いで走ってくる新たな人影が見えた。
「若様ぁっ!! 中々部屋に戻って来ないと思ったら……こんな所で、何をやっているんですか!! そのご令嬢は、カミーユ様ではありませんか!! あなたという人は、婚約者の案内もまともに出来ないのですかぁっ!?」
そう叫んでいるのは、長い黒髪を後ろで一つに束ねた背の高い女性だ。
何故か、男装をして腰に剣をさげているけれど……
(それにしても、この女の人、どこかで見たことがある気がするんだよね。こんな美人、一度見たら忘れないんだけどなぁ)
注意されたトライアは、少しむくれながら返事をする。
「……ベアちん、いい雰囲気だったのに。空気読もうよ」
「読んで、助けに入ったのです! ああ、カミーユ様、大丈夫ですか? そこの野獣王子に変わって、私が部屋までご案内いたします」
「ああっ、そうだ! ベアトリクス・タパス伯爵令嬢だ!!」
(思い出したー!! ベアトリクスって、あのゲームのダイヤルートのライバル令嬢じゃん! しかも、ヤバいよ! ベアトリクスって、トライアに惚れていて、ヒロインにめっちゃイジワルしてくる奴だよ! トライアと婚約なんてした日には、お呼出の後で悪質なイジメ確定だよー!!)
しかし、目の前のベアトリクスからは、嫉妬や悪意を感じない。
彼女は、ただ驚いた表情で私を見ている。
「何故、私のことをご存知なのですか!? 少し様子がおかしいとは思っていましたが、まさか……カミーユ様、あなたは……」
その瞬間、ベアトリクスは、流れるような動作で私とトライアの間に割り込むと、耳元でこう囁いた。
「もしかして、あなたも入れ替わり——トリップしたクチですか?」
「えっ……!?」
あなたもってことは、ベアトリクスも私と同じで別の世界からやって来たってことですか!?
私の表情から、彼女は何かを読み取ったらしい。
トライアから私を奪い取ると、ベアトリクスは紳士的な礼をして微笑んだ。
「大丈夫です、心配要りません。困ったことがあれば、私が力になりますからね」
「……ありが、とう」
なんだか、このベアトリクス……とてもカッコイイ。トライアより、男前かも。
もし、彼女が私と同じでトリップした人間だとすれば、他にも同じ境遇の「入れ替わり」が存在するのかもしれない。
(その辺りも含めて、一度、彼女とゆっくり話がしたいな)
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