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「はい、カミーユ。こっちは僕の使っている魔法薬のレシピだよ。こっちは、この間カミーユが欲しそうにしていた魔法鉱石ね」
「えっ、いいの!? こんなアッサリと用意してくれて……」
トライアは、私に魔法関連の本や器具、材料などを惜しみなく与えてくれる。
まるで、孫に菓子を配る祖父母のようだ。
「カミーユは、結婚しても魔法に関する仕事を続けたいって言っていたものね。ガーネットの職業魔法使いのようにはいかないけれど、僕も君には魔法分野で好きなことをしていて欲しいと思っているんだ。きっと、それがトパージェリアの魔法の発展に役立つと思うから」
「……ありがとう」
どうしよう、ものすごく嬉しい。
私は、トライアの気遣いに心を打たれた。
もともと、結婚相手は魔法に関する仕事を続けさせてくれる人がいいと思っていたけれど、王族トライアの妻になるのなら、それは難しい。
だから、諦めていたのに……
「他にも、取り寄せたいものがあれば、なんでも僕に言ってね」
「こんなに良くしてもらって、私……」
「うん、気にしないで。対価はもらうから♪」
「……!?」
私が馬鹿だった。
トライアは、無償でこれらを提供してくれる訳ではないらしい。
「そのレシピに載っている薬の種類は、ざっと三十ってところかな。だから、ちゅーも三十回分ね♪」
「あ、あの、トライア……」
駄目だ。既に彼は、目を閉じてスタンバイしている。
ああ、でも、レシピが欲しい。どんな魔法薬が載っているのか、ものすごく気になる!
私は、レシピとキスを量りにかけて悩んだ。
そうして数分後、意を決した私はついにキスを決行した……トライアの身につけているジャラジャラしたアクセサリーに。
唇にキスしろなんて指定はなかったもの!
「……うん、ちょっとくらい手強い方が燃えるよね」
若干遠い目をしたトライアが、ブツブツ独り言を言っているけれど、知らない振りをする。
だが、奴の方が一枚上手だった。
「カミーユ、鉱石分のキスは?」
「へ……?」
「レシピ分しか貰ってないよぉ?」
「ええっ、だって、授業料だけって言って……」
「材料費がタダとも言っていないけど?」
「じゃあ、私が作ったオリジナル魔法薬のレシピと交換するっていうのは?」
「とっても魅力的だけど、カミーユの唇の方がもっと魅力的かなぁ」
どうあっても、彼はキスを諦めないらしい。
トライアは、先程私が三十回キスをしたジャラジャラを手に取って、これ見よがしに口付けて見せた。
恥ずかしくなった私の顔が、急激に熱くなる。
「今度はちゃんと場所を指定するね? 唇に、濃厚なのが欲しいな♪」
「わーわーわーわー、聞こえなーい。私は何も聞いていません!」
身の危険を感じ取った私は、尻尾を巻いて自室に逃げ帰ったのだった。
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