ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして(トライア編)

桜あげは

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「カミーユ、カミーユ!」

 今日もいつものごとく、私の婚約者がちょっかいを出してくる。
 二人の部屋を行き来する扉は鍵が掛かったまま。
 彼は廊下を迂回して、私の部屋へやって来るのだ。

「はいはい、トライア。今日は何の用事? セクハラなら追い出すよ?」

 ニコニコと機嫌の良さそうなトライアは、すぐ傍まで歩いて来ると、私の髪を一房取って口付けた。

「カミーユ、学園へ行こう!」
「……何言ってんの? 学園?」

 彼の突然の提案に、私は首を傾げる。

「ガーネットの王立魔法学園だよ! 来年は、三年に一度の入学試験の年なんだ!」
「はあ……行ってらっしゃい」

 私は、トライアに気のない返事をした。
 魔法学園でもなんでも、好きな場所に行けば良いじゃないか。私はごめん被る。
 しかし、トライアは私の返答が不満らしく、口を尖らせる。

「カミーユ、何か思い違いをしていない? 魔法学園には、夫婦で留学するんだよ?」
「そんな無茶な」

 夫婦で留学だなんて、聞いたことがない。
 普通はトライアだけとかじゃないの!?

「無茶じゃない。お父上にも許可を頂いたんだからっ! カミーユ、魔法学園に興味ないの?」
「……学生レベルの魔法なら、既にマスターしていますので」

 トパージェリア王め、なんでそんなことを簡単に許可するのだ。私は、学園に留学なんぞしないのに!
 乗り気でない私に、トライアが畳掛ける。

「で、でも、学園長が凄い人らしいよ? 人外って言われるほどの魔法の使い手なんだ」
「へぇ……でも、やめておく」

 学園長の話は、ちょっと魅力的だけれど……
 そんな私の表情を読んだかのように、トライアが言葉を紡いだ。

「カミーユ? 何か行きたくない理由でもあるの?」

 ギクリ——!!

 その通り、私は魔法学園になど行きたくない。
 何が悲しくて、ゲームのシナリオ通りの行動をとらなければならないのか。
 私に、そんな自滅願望はない。

 魔法学園にさえ行かなければ、カミーユはゲームのような破滅の道を歩まずに済む。
 平和な人生を生きるため、私は、ロイス様やアシルやヒロインと距離を置きたい。

「まあ、もう決まっちゃったことだからぁ♪ 諦めて?」

 とんでもないことを言い出した……!
 くすくすと笑いながら、私の首筋に顔を埋めるトライア。

「やめてよ、くすぐったい」

 しかし、奴は肝心なことを忘れている。
 魔法学園に入るには、入学試験を受ける必要があるのだ。
 確か、かなり難易度の高い試験だった筈……
 いくら貴族令嬢だからといっても、簡単には合格出来ないだろう。言い訳にするにはもってこいだ。

「えっと、わ、私、入学試験で合格出来る自信ないし」

 早速そのことを告げた私の声を、トライアが遮る。

「平気だよぉ。簡単に裏口入学出来るから、ね?」

 ちょっと待て……「ね?」じゃないよ! それ、アカンやつや!

「ガーネットの王様には貸しがあるからねえ? きっと、彼が学園側に圧力を掛けて快く入学を許してくれるよぉ」
「だ、駄目だよ! そんなズルしちゃあ! 私は入学なんてしたくないから!」

 なんとかして入学を回避しなければ、大変なことになる。
 私の心の中は、トライアに対する「余計なことをしやがって」という気持ちでいっぱいだ。

「それにしても、カミーユ♪ 今日の服はセクシーだねぇ? もっと良く見せて?」
「人の話を聞いてよ! それに、これは仕方なく着たんだ。他に服がなくて……」

 そう。今日のクローゼットの中には、ジャラジャラしたビキニのような真っ赤なトパージェリア風ドレスしか入っていなかった!
 メイドさんに他のドレスを用意してもらう間、仕方なしにこの服を着ている。
 そのタイミングで部屋に入ってきたのがトライアだ。

「へーえ、それは大変だぁ」

 ニヤニヤと笑みを浮かべるトライアを見た私は、確信した。
 ——お前が犯人か!
 きっと、メイドさんに余計な指示を出したのだろう。本当に、この男はロクなことをしないな!
 あとで、ベアトリクスにチクってやる!

「用事が済んだなら、出て行ってよ! 私は怒っているんだからね!」
「うんうん、じゃあ仲直りしよう♪」
「……は?」

 仲直りも何も、私はまだ怒っているのに。

「ほらほら~、夫婦ならではの仲直りの方法があるでしょう?」

 そういって、私のドレスに手を伸ばすトライア。

「ちょっと! 何するの!」

 彼の手を押さえつけようとしたが、逆に両腕を捕えられ、ソファーに押し倒されてしまう。
 どうしよう! またもや、貞操の危機!?

「離してよ、トライア! べ、ベアトリクスー!」
「ああ、ベアちんなら、今は朝練の時間帯だで留守だよ~♪」

 ちきしょう、そこまで織り込み済みですか!
 でも、駄目だ。
 正式に結婚もしていないのに、大人のアレコレ(詳しくはよく分からない)をする訳にはいかない!

 しかし、そんな私の心の声は、またしてもトライアには届かず。
 計算高い婚約者殿は、不敵な笑みを浮かべながら私の胸元に手をかけようとして……

「痛っ!!」

 見事、魔法刺青に弾かれましたとさ。
 バチリと大きな火花が散り、トライアが慌てて手を引っ込める。

「何……今のバチバチしたやつ?」
「刺青魔法だね。忘れていたけど、私に害を加える存在を弾く、防御の刺青をしていた気がする」

 魔法刺青とは、特殊な魔法薬を使って体に書くボディーペイントのようなものだ。
 防御、魔力節約など、様々な効果を付与することができる。
 私は、魔法刺青を体のあちこちに描いており、ガーネットでは「刺青女」などと呼ばれていた。
 ちなみに、あの国は令嬢がボディーペイントをすることに否定的。私は、異質な存在だった。

「僕って、カミーユに敵認定されているの?」
「そういう訳じゃないけれど……」

 完璧な味方だとも思っていない。

「この魔法は、私の意思で「何らかの害あり」と判断された場合に相手を弾くんだ。親しい相手なら、刺青の効果を無効にする魔法を掛けるよ。まだ、身の危険を感じるから、トライアには掛けてあげない」
「……!」

 トライアは、引きつった笑みを浮かべていた。
 でも、刺青無効の魔法を掛けている相手って、今のところお父様だけなんだよね。
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