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どうもトライアは胡散臭い。
どこがどう胡散臭いかと言われると、上手く言えないのだけれど。
でも、胡散臭がっているだけじゃ駄目だよね。
一応婚約者なんだから、お互いのことをちゃんと理解しておかないと。
気を取り直した私は、東の離宮の渡り廊下を散歩する。
王宮内の構造もだいぶ分かってきた。もう、建物内部で迷うこともないだろう。
時刻は、昼過ぎだ。
朝は、トライアと少し喧嘩をしてしまった。
私が一方的に憤慨しているだけで、相手は全く気にしていなさそうだったけれど。
なんだか、糠に釘という感じだな。私ばかりが振り回されているようだ。
「ん……?」
ふと、前方を見ると、渡り廊下の反対側から見慣れぬ人間が歩いて来る。
もの凄く着飾ったお金持ち風の美人のお姉さんと、清楚で可愛らしい装いの美少女だ。
「誰だろう?」
二人とも見覚えのある気がするのだが、私にあんな知り合いはいない。
私を認めた二人は、揃って驚いたように足を止めた。
「これはこれはぁ、トライア様の婚約者であるカミーユ様ですね~。はじめましてぇ~」
お姉さんの方が、朗らかに挨拶してくる。
オレンジ色のフワフワウエーブの長い髪に、鳶色の目の優しそうな女性だ。
見かけによらない、ちょっとハスキーな声が魅力的である。
「こ、こんにちは……あの」
一体誰なのか分からないが、トライアの関係者であることは間違いない。
失礼のないよう、挨拶を返す。
「あらぁ、可愛い。もの凄い美人さんなのねぇ」
親しげに私の顎を持ち上げて、朗らかに笑うお姉さん。
それとは対称的に、美少女の方は軽く私を睨んでいる……気がする。
「あなた、どうしてトパージェリアにいるの? まさか、トライア狙い?」
「え……?」
いきなり放たれた辛らつな言葉に、私はしばし絶句する。
何なの、この子?
シナモン色の髪に、オリーブ色の瞳、小動物系の顔の美少女。彼女は、絶対にどこかで見た顔だ。
そう。毎回毎回、画面内に現れて慣れ親しんだあの顔……
「もしかして、ヒロイン?」
私の声に、美少女は目を見張った。
「あなた、やっぱり! 本物の、カミーユじゃないのね! こんな場所にまで男狩りに来るなんて!」
「ええっ……!?」
訳の分からないことを言いながら掴み掛かってくる彼女に、狼狽える私。
男狩りって何!? 私が狩るのは、モンスターだけだよ!?
幸い、近くにいたお姉さんが、美少女を止めてくれた。
「こら~。止めなさいよ、フラウぅ。彼女はトライア様の元に進んできた訳じゃないわぁ。トライア様の我が儘で、断りきれずにこの国に嫁いできたのよぉ?」
お姉さんの言葉に、彼女は一旦口を閉じる。た、助かった。
例の乙女ゲームに出てくるヒロインのデフォルト名は、フラウ・モニエだ。
やはり、彼女がゲームのヒロインと同一人物なのだろう。
性格は、まったく違うみたいだけれど……
しかし、先程放たれたヒロインの発言が気に掛かるなぁ。
彼女も、私と同じで、ゲームの本来の登場人物ではないということだろうか。
「断りきれずにって、どういうことなのよ? 邪魔をしないでくれる? フィオルお兄様……」
「だからぁ、カミーユ様は、無理矢理こっちに嫁がされたって言っているのよぉ。トライア様が隣国ガーネットに圧力を掛けたのぉ。それで、彼女は母国に売られてこの国に来たってワケ」
二人は、私の前で言い争いを始めてしまった。
確かに、私はここに来た経緯は、オレンジ髪のお姉さんの言う通りだ。
国に送り出される形でトパージェリアに追いやられた。
だが……
正直言って、お姉さんの話の内容よりも、その前のフラウの発言が気になって仕方がない。
フィオルお兄様? フィオルって……!!
私は、その名前も聞いたことがあったのだ。
フィオル・シントロン……ゲームの登場人物で、大商人の息子であるダイヤのJの名前じゃないの!?
アシルと同じく、友情エンドの攻略対象だよ!?
なんだか、トライアに続いてフィオルまでもが謎の変貌を遂げている。
一体、何がどうなっているの!?
フィオルは明らかに女性に見えるが、フラウは「お兄様」と呼んでいたし、おそらく中身は男性の体なのだろう。
それに、ゲームの中のヒロインとダイヤのJは、血縁関係にない赤の他人だった筈なのだが……
彼女達の間に、一体何が起こっているのだろうか。
不思議に思ってヒロインの様子を伺うと、彼女はオリーブ色の瞳に憂いの光を宿して私を見つめていた。
「そうなの……あなたも、権力の犠牲者ってことなのね?」
急に同情的な表情になったヒロインが、フィオルに聞こえないように小声で私に問いかけてくる。
私も小さく早口で答えた。
「……そういうことになるのかな? 今回の婚約は断れないものだったから」
私の問いかけに、ヒロインは大きく頷く。
「そうよ! 悪いのは、あの馬鹿王子だわ!」
「私は、ゲームのように破滅したくはなかったから、敢えてロイス殿下やアシルには近付かなかったんだ。なのに、どこかで選択肢を間違えてしまったみたいで」
ヒロインは、真剣な面持ちで私の話を聞いていた。
思わず、ずっと心の中でくすぶっていた気持ちを打ち明けてしまう。
「私は、ただの魔法使いとして破滅することなく城で仕事ができれば良かった。けれど……トライアに婚約を申し込まれて、おかしなことになってしまって」
「魔法使いの仕事? あなたは、何をしていたの!?」
「城付きの職業魔法使い。主に辺境のモンスター退治をしていて、これでも結構強かったんだよ。ドラゴンを一人で倒したり……人々を守る仕事に、やりがいを感じていたし」
私の言葉を聞いたフラウの表情は、かなり和らいでいる。良かった。
美少女に一方的に嫌われるのは辛いものね。
「ごめんなさい、あなたのことを転生に酔っているクソビッチだと勘違いしていたわ。知っていると思うけれど、私はフラウ・モニエ。訳あって、シントロン家に身を寄せているの」
「私のことも知っていると思うけど……カミーユ・ロードライトだよ。今は、トライアの婚約者としてこの場所に滞在しているの。「訳あって」って?」
フラウは、そこまで私に話す気はないようだった。
再び私から距離を取り、声の音量を上げて答える。
「いずれ話すわ。それよりも、トライアを知らない? 中央の王宮に来るって言っていたのに一向に現れないから、東の離宮まで探しにきたのよ」
「今日は、朝にあったきりなんだ。普通に探して見つからないとなると、自室か実験室かなあ?」
「分かった、探してみる。いくわよ、お兄様」
もの凄く上から目線のヒロインは、フィオルを連れて離宮の奥へと消えていってしまった。
あれって、トライアの部屋に突撃する気なのかな。
だとすると、ものすごい勇者だ。普通は、王族の部屋になんて無断で立ち入れない。
話してみて感じたことだが、あのフラウは存外中身が幼そうだ。
気は強いけれど、案外素直。
まさかこんなところで、ヒロインに出会うとは思っていなかったけれど、もしかすると彼女とは仲良くなれるかもしれない。
どこがどう胡散臭いかと言われると、上手く言えないのだけれど。
でも、胡散臭がっているだけじゃ駄目だよね。
一応婚約者なんだから、お互いのことをちゃんと理解しておかないと。
気を取り直した私は、東の離宮の渡り廊下を散歩する。
王宮内の構造もだいぶ分かってきた。もう、建物内部で迷うこともないだろう。
時刻は、昼過ぎだ。
朝は、トライアと少し喧嘩をしてしまった。
私が一方的に憤慨しているだけで、相手は全く気にしていなさそうだったけれど。
なんだか、糠に釘という感じだな。私ばかりが振り回されているようだ。
「ん……?」
ふと、前方を見ると、渡り廊下の反対側から見慣れぬ人間が歩いて来る。
もの凄く着飾ったお金持ち風の美人のお姉さんと、清楚で可愛らしい装いの美少女だ。
「誰だろう?」
二人とも見覚えのある気がするのだが、私にあんな知り合いはいない。
私を認めた二人は、揃って驚いたように足を止めた。
「これはこれはぁ、トライア様の婚約者であるカミーユ様ですね~。はじめましてぇ~」
お姉さんの方が、朗らかに挨拶してくる。
オレンジ色のフワフワウエーブの長い髪に、鳶色の目の優しそうな女性だ。
見かけによらない、ちょっとハスキーな声が魅力的である。
「こ、こんにちは……あの」
一体誰なのか分からないが、トライアの関係者であることは間違いない。
失礼のないよう、挨拶を返す。
「あらぁ、可愛い。もの凄い美人さんなのねぇ」
親しげに私の顎を持ち上げて、朗らかに笑うお姉さん。
それとは対称的に、美少女の方は軽く私を睨んでいる……気がする。
「あなた、どうしてトパージェリアにいるの? まさか、トライア狙い?」
「え……?」
いきなり放たれた辛らつな言葉に、私はしばし絶句する。
何なの、この子?
シナモン色の髪に、オリーブ色の瞳、小動物系の顔の美少女。彼女は、絶対にどこかで見た顔だ。
そう。毎回毎回、画面内に現れて慣れ親しんだあの顔……
「もしかして、ヒロイン?」
私の声に、美少女は目を見張った。
「あなた、やっぱり! 本物の、カミーユじゃないのね! こんな場所にまで男狩りに来るなんて!」
「ええっ……!?」
訳の分からないことを言いながら掴み掛かってくる彼女に、狼狽える私。
男狩りって何!? 私が狩るのは、モンスターだけだよ!?
幸い、近くにいたお姉さんが、美少女を止めてくれた。
「こら~。止めなさいよ、フラウぅ。彼女はトライア様の元に進んできた訳じゃないわぁ。トライア様の我が儘で、断りきれずにこの国に嫁いできたのよぉ?」
お姉さんの言葉に、彼女は一旦口を閉じる。た、助かった。
例の乙女ゲームに出てくるヒロインのデフォルト名は、フラウ・モニエだ。
やはり、彼女がゲームのヒロインと同一人物なのだろう。
性格は、まったく違うみたいだけれど……
しかし、先程放たれたヒロインの発言が気に掛かるなぁ。
彼女も、私と同じで、ゲームの本来の登場人物ではないということだろうか。
「断りきれずにって、どういうことなのよ? 邪魔をしないでくれる? フィオルお兄様……」
「だからぁ、カミーユ様は、無理矢理こっちに嫁がされたって言っているのよぉ。トライア様が隣国ガーネットに圧力を掛けたのぉ。それで、彼女は母国に売られてこの国に来たってワケ」
二人は、私の前で言い争いを始めてしまった。
確かに、私はここに来た経緯は、オレンジ髪のお姉さんの言う通りだ。
国に送り出される形でトパージェリアに追いやられた。
だが……
正直言って、お姉さんの話の内容よりも、その前のフラウの発言が気になって仕方がない。
フィオルお兄様? フィオルって……!!
私は、その名前も聞いたことがあったのだ。
フィオル・シントロン……ゲームの登場人物で、大商人の息子であるダイヤのJの名前じゃないの!?
アシルと同じく、友情エンドの攻略対象だよ!?
なんだか、トライアに続いてフィオルまでもが謎の変貌を遂げている。
一体、何がどうなっているの!?
フィオルは明らかに女性に見えるが、フラウは「お兄様」と呼んでいたし、おそらく中身は男性の体なのだろう。
それに、ゲームの中のヒロインとダイヤのJは、血縁関係にない赤の他人だった筈なのだが……
彼女達の間に、一体何が起こっているのだろうか。
不思議に思ってヒロインの様子を伺うと、彼女はオリーブ色の瞳に憂いの光を宿して私を見つめていた。
「そうなの……あなたも、権力の犠牲者ってことなのね?」
急に同情的な表情になったヒロインが、フィオルに聞こえないように小声で私に問いかけてくる。
私も小さく早口で答えた。
「……そういうことになるのかな? 今回の婚約は断れないものだったから」
私の問いかけに、ヒロインは大きく頷く。
「そうよ! 悪いのは、あの馬鹿王子だわ!」
「私は、ゲームのように破滅したくはなかったから、敢えてロイス殿下やアシルには近付かなかったんだ。なのに、どこかで選択肢を間違えてしまったみたいで」
ヒロインは、真剣な面持ちで私の話を聞いていた。
思わず、ずっと心の中でくすぶっていた気持ちを打ち明けてしまう。
「私は、ただの魔法使いとして破滅することなく城で仕事ができれば良かった。けれど……トライアに婚約を申し込まれて、おかしなことになってしまって」
「魔法使いの仕事? あなたは、何をしていたの!?」
「城付きの職業魔法使い。主に辺境のモンスター退治をしていて、これでも結構強かったんだよ。ドラゴンを一人で倒したり……人々を守る仕事に、やりがいを感じていたし」
私の言葉を聞いたフラウの表情は、かなり和らいでいる。良かった。
美少女に一方的に嫌われるのは辛いものね。
「ごめんなさい、あなたのことを転生に酔っているクソビッチだと勘違いしていたわ。知っていると思うけれど、私はフラウ・モニエ。訳あって、シントロン家に身を寄せているの」
「私のことも知っていると思うけど……カミーユ・ロードライトだよ。今は、トライアの婚約者としてこの場所に滞在しているの。「訳あって」って?」
フラウは、そこまで私に話す気はないようだった。
再び私から距離を取り、声の音量を上げて答える。
「いずれ話すわ。それよりも、トライアを知らない? 中央の王宮に来るって言っていたのに一向に現れないから、東の離宮まで探しにきたのよ」
「今日は、朝にあったきりなんだ。普通に探して見つからないとなると、自室か実験室かなあ?」
「分かった、探してみる。いくわよ、お兄様」
もの凄く上から目線のヒロインは、フィオルを連れて離宮の奥へと消えていってしまった。
あれって、トライアの部屋に突撃する気なのかな。
だとすると、ものすごい勇者だ。普通は、王族の部屋になんて無断で立ち入れない。
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