継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは

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1巻

1-3

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 今後の支出について悩んでいると、マンダリンさんが「心配ないよ」と説明してくれた。

「ヨーカー魔法学園の学生課では、苦学生のためのアルバイトを紹介しているんだ。平民の生徒はもちろん、社会経験を積みたい貴族の生徒も訪れているよ」
「十三歳でも働けますか?」
「大丈夫。複雑な仕事は紹介されないだろうけれど、『冒険者ギルド』の雑用や、『魔法農園』の手伝いなんかは、入学したての生徒でもできるはずだ」

 この国には、冒険者ギルドと呼ばれる組織が存在する。
 私の住むグロッタの街にはなかったが、王都やいくつかの地方都市にあると聞いた。
 そこでは、依頼者から持ち込まれた仕事をい、それを働き手に紹介するなど、仕事の斡旋あっせんをしている。
 また、魔法薬や魔法道具、その原材料を買い取り、適正価格で販売もしていた。
 おそらく、ギルドでう仕事というのは、薬草採取や魔物退治ではないかと思う。
 緑豊かなこの国には、珍しい薬草が多いが魔物も多い。
 魔物には人に懐く種類もいるけれど、襲ってくる種類も存在する。
 そういった、人間に危害を加える魔物を討伐するのは、冒険者ギルドの仕事を受けて生計を立てている者たちだった。彼らは「冒険者」と呼ばれている。
 冒険者には魔法を使えなくても、腕っ節が強ければなることができた。
 とはいえ荒事に慣れていなくても、薬草や素材の採取で稼いでいる人もいる。
 ただ、危険な魔物討伐や、珍しい薬草や素材の採取ほど報酬ほうしゅうが高い。

「……でも、魔物は怖いな」

 悩んでいると、マンダリンさんが呆れた表情を浮かべた。

「何を言っているんだい。魔物討伐なんて危険な仕事は、入学したての新入生に来ないよ」
「本当ですか?」

 それなら、なんとか働けるかもしれない。暗い絶望の中に希望の光が見えた気がした。

「入学してからも、あんたは苦労が多いだろう。でもね、コネでもなんでも魔法学校へ通えるのはいいことだよ。困ったことがあれば、私に会いにおいで」
「何から何まで、ありがとうございます」

 マンダリンさんにお礼を言った私は、灰色猫に案内されて再び部屋に戻った。
 扉の前に購買で買った品が置かれている。誰かが運んでくれたようだ。

「猫さん、あなたもありがとうね」
「ミャーン!」

 ご飯を食べて満足したらしい猫は、機嫌良さそうに尻尾を立てて部屋を出ていく。
 そして、生け垣の中へ消えていった。
 私も疲れたので、部屋に備え付けてあるシャワーを浴びてベッドに横になる。
 久々の柔らかいベッドは心地よく、私はすぐに夢の世界へ飛び立った。


 朝――スッキリ目覚めた私は、入学式に向けて身支度を整える。
 マンダリンさんからもらった制服は数種類あった。
 白と黒のブラウスが一枚ずつ、黒無地と白黒チェックのスカートが一枚ずつ、指定のタイツや靴下、浮遊靴と呼ばれるブーツやローファーなどだ。
 同封されていた手紙によると、組み合わせは自由でいいとのこと。
 それから、黒無地の上着に魔法使いらしいマント。黒のとんがり帽子。
 見事なまでのモノトーンだけれど、これには理由があった。
 ヨーカー魔法学園には五つの寮があり、寮が決まってから、そこに所属寮のカラーの小物をつけるのだ。帽子にはリボンが巻かれ、胸元にもリボンやネクタイがつけられる。
 とりあえず、白いブラウスと無地のセットを選んでおこう……
 なんとか着替え終えた私は、早めに部屋を出て入学式の会場へ向かうことにする。
 扉を開けると、昨日の灰色猫がいた。

「おはよう、来てくれたの?」
「ミャーン!」

 灰色猫は私にすり寄って挨拶する。懐いてくれているようで嬉しい。
 私は猫の案内で、入学式が行われる講堂へ移動した。
 目的地に着くと、猫は用が済んだとばかりに花壇の中へ消えていく。学園内を自由に散歩しているみたいだ。
 講堂には、早くも大勢の生徒が集まっていた。
 知り合い同士も多いようで、グループで固まり賑やかに談笑する生徒もいる。
 様子をうかがっていると、見覚えのある緑髪が視界に入った。サリーだ。
 彼女は同級生に囲まれ、楽しそうに会話している。一緒にいるのは貴族の子供だろう。
 一瞬、サリーと目が合う。
 しかし、次の瞬間、何事もなかったように視線を逸らされた。
 ……一人で魔法学校に行くのが不安で、私を巻き込んだんじゃないの?
 一緒に来て欲しいと口にした、その舌の根も乾かぬうちに、サリーは私を放置して学園ライフをエンジョイしている様子。
 妹の行動を見て複雑な気持ちになるけれど、よく考えるといつものことだった。行きの馬車でもこんな感じだったし。上手く周囲となじめた今、不出来な姉は用済みなのだろう。
 講堂の中を進むと、ひそひそと話す声が聞こえてきた。

「おい、あれが平民枠で裏口入学した奴だろ?」
「呼ばれたのは、優秀な妹だけなのに。姉だからって強引に押しかけてきたらしいぜ。メルヴィーン商会の娘だ。金にものを言わせて枠を買い取ったに違いない」
「そんな不正がまかり通るのか⁉」
「ふん、実力もないのに残れるほど、この学園は甘くない。すぐいなくなるさ」

 不穏な会話は、ギリギリ私に聞こえる声の大きさでされている。わざとだろう。

「妹は美人なのに、姉はそうでもないんだな。背も低いし貧相な体つきだ」
「実力も容姿もおとるって……ウケる。どうせ、プライドだけは高いんでしょ?」
「不正入学したくせに、よく堂々と入学式に顔を出せるものだな」

 散々な言われようだ。同じ制服に身を包んでいても、にじみ出るものがあるらしい。
 マンダリンさんが「苦労が多い」と言っていたのは、こういうことだったんだ……
 彼女と約束したものの、早くも自信がなくなってくる。
 離れていても、サリーの甲高い声が聞こえた。

「ええっ! 私、可愛いですかぁ⁉ 全然ですよぉ!」

 ため息を吐きながら、私は適当な席へ向かう。座席は指定されていないのだ。
 荘厳な入学式はつつがなく行われた。
 今年入学した生徒は他国からの留学生も含めて、二十人。クラスも決定されているという。
 分校長が挨拶を終えると、各クラスへの移動が始まった。と言っても、一年目は二クラスしかない。まだ専門が決まっていないので、全員が基本的な魔法の授業を受けるのだ。
 一年生のクラスは、AクラスとBクラス。
 ただし、各クラスの人数は、十人ずつという単純な分け方ではない。
 見込みがありそうな生徒はAクラス、基本にすら到達できていない者はBクラスという決め方だ。
 幼少の頃から家庭教師に魔法の基礎を教えてもらっている貴族の子供と、私のような魔法ド素人が一緒のクラスでは、授業が進まないというのはわかる。
 サリーはAクラス、私は予想通りBクラスだった。
 そして、今年のBクラスの人数はたったの六人らしい。
 教室は校舎内ではなく、裏山の手前に建つかまくらみたいなドーム形の部屋だ。
 外側の壁には植物がたくさん生えている。
 なんだろう、このBクラスの迫害されている感半端ない雰囲気は。
 ヨーカー魔法学園の授業は教室移動が多いが、Bクラスは基本的にこの部屋を使うようだ。
 曲線を描く天井の中央には、採光用の透明な窓がある。
 教室に入り中を見回していると、奥の壁際の席に見知った顔を見つけた。平民特別枠のバンダナ少年だ。かなりの才能の持ち主かと思われた彼も、同じBクラスらしい。
 ……いくら優秀でも、英才教育を受けている貴族には敵わないか。うちの実家のように、平民で裕福なのは特殊な例だろうし。
 小さめの教室内では、皆好きな席に座っている。
 なんとなく気まずくて、私はバンダナ少年から一番遠い入り口側の席へ腰掛けた。
 クラスメイト六人の内訳は、男子三人に女子三人。ちょうど半分ずつだ。
 まず目に入ったのは、手入れされた金髪に赤と青のオッドアイを持つ、いかにも育ちの良さそうな琥珀こはくいろの肌の少年。整った容姿を持つ彼は、私のすぐ近くに座っている。
 次に、一番後ろの席を陣取っている紫髪に赤紫の瞳の少年。
 可愛らしい、中性的な容姿だけれど、机の上に大胆に両足を乗せていた。
 彼の近くでは、橙色だいだいいろのおかっぱ髪の少女が読書をしており、その隣では水色の髪を三つ編みにした少女が眠りこけている。水色髪の少女の目は、前髪が長すぎて見えない。
 しばらく待つと、担任の教師が入ってきた。
 まだ若く、桃色の長髪が特徴的な男性教師だ。彼の翠色みどりいろの瞳が教室を見回す。
 生徒が揃っていることを確認すると、教師が前に立って声を上げた。
 たたずまいが上品で、なんとなく貴族っぽい。
 エメランディアでは魔法を使える平民が少ないので、魔法学校の教師は貴族が多いのだ。

「ヨーカー魔法学園へようこそ。私がBクラスの担任、ジュリアス・ロードライトだ」

 続いて、彼から本日の予定が知らされた。
 生徒全員にスケジュールの書かれた紙が配られる。


〈初日の予定〉

 ・自己紹介
 ・魔力測定、適性検査
 ・寮の説明
 ・クラブ活動説明
 ・入学歓迎会(任意参加)


 スケジュールに沿って、さっそく生徒の自己紹介が始まる。
 最初は教室の一番奥にいたバンダナ少年が指名された。彼は今日も機嫌が悪そうだ。

「ガロ・ラッツフィールドだ。南東のアイヤー村出身」

 アイヤー村は王都から遠く離れた小さな村で、周辺では農業が盛んだと聞いたことがある。
 そんな場所からこの魔法学園にやって来るのは、さぞ大変なことだろう。
 続いて、だいだい髪の少女が口を開く。

「ハイネ・エクリプスです。好きな魔法は……呪術。趣味は……薬作り。よろしく……」

 ぼそぼそと話す声は小さく、聞き取りにくい。
 隣にいた水色髪の少女は指名されて初めて目が覚めたようで、慌てて自己紹介を始める。

「ミスティ・アウラです! ハイネと一緒で王都出身、将来は魔物研究家になりたいです!」

 元気の良い彼女の次は、紫髪の小柄で中性的な少年だ。

「俺ぁ、ノア・アームズ。実家は魔法都市内にある。よろしくな!」

 ドスのきいた声で大股を開いている彼の様子は、全然可愛くなかった。人を見た目で判断してはいけない。
 そして、近くに座る金髪の少年が話しだす。

「カマル・マラキーア、砂漠大国トパゾセリアの出身。この国は、緑が多くていいね」

 なんと、留学生もいるようだ。肌の色が異なるのは、外国出身だかららしい。
 爽やかに挨拶を終えた彼の次は、いよいよ私の番。ドキドキしながら声を出す。

「アメリー・メルヴィーンです。グロッタ出身です」

 無難な挨拶を済ませると、生徒たちが興味深げに私を観察しているのが目に入った。
 彼らは裏口入学の噂を耳にしているに違いない。「裏口入学については秘密にしている」と、使者が言っていたが、いつの間にか全生徒に話が広まっている。
 ガロが広めたのかとも考えたが、彼は他の生徒と接触していない様子。
 とすると……サリーが、うっかり口を滑らせたのかもしれない。
 気まずい思いを抱えながら座っていると、一番後ろにいたノアが、ドスのきいた声で話しかけてきた。さっそく裏口入学のことを絡まれるのだろうかと密かに震え上がる。

「お前が、アメリー・メルヴィーンか! こんな針のむしろ状態で入学してくるなんて、根性があるなあ!」
「えっ……?」

 難癖をつけられると思いきや、なぜか面白がられているようだ。
 どうしてだろうと戸惑っていると、ジュリアス先生がパンパンと手を叩く。

「喋るのはあとにしてくれ。魔力測定と適性検査が控えている」

 私たちは担任に促されるまま、教室の外に出た。
 教室と裏山の間には、広い空き地が広がっている。ジュリアス先生は空き地の中央に魔力の計測器を設置した。計測器は子供の頭ほどの大きさの水晶玉だ。
 幼い頃、一度魔力を測定されたはずだけれど、私は何も覚えていない。
 でも、ろくでもない結果を出したのは確かで、以来、父親から「失敗作」や「でき損ない」と呼ばれていた。

「では、順番に測定器に触れるように」

 最初に動いたのはノアだ。大股で意気揚々と進む彼が触れた水晶は、だいだい色に光りだす。
 あちこちに節操なく光が飛んでまぶしい。

「なるほど、なかなか魔力量が多いようだ。色はだいだいで炎、雷を扱うのが得意。細かい作業より大型の魔法を扱う方が向いているみたいだな。この国の基準でいうと『戦闘型』だ」

 水晶の光が強ければ強いほど魔力量が多いと判断され、色は得意な魔法の属性、光の波状は魔力の質を表す。
 この国の魔力の質はおおまかに「戦闘型」、「医療型」、「職人型」、「魔物型」、「一般型」、「特殊型」に分けられる。
 質自体が、「国が必要としている職業」を表しているのだ。
 なお、この質という概念はエメランディア独自のもので、型にまらないけれど、貴重な力だと判断された場合、「特殊型」という扱いになる。サリーがそれだった。
 ノアは自分の魔力測定に満足した様子。
 次に、おかっぱ髪のハイネが水晶に触れる。
 光は先ほどよりも穏やかだ。でも、紫で不穏な光がもやのようにうごめいている。

「魔力量は平均より多めで色は紫、珍しい属性だ。闇が得意なタイプで呪術向き。一応、『医療型』と言われる質だが、『職人型』でもやっていけそうだ」

 水色髪のミスティは、平均的な魔力量で水の魔法が得意なタイプ。彼女は、「医療型」と「魔物型」と診断された。「魔物型」は魔物を扱う仕事に向いている特殊なタイプだそう。
 バンダナ少年ガロは、平均的な魔力量で植物や土が得意なタイプ。「職人型」と診断された。
 全員、特に驚いた様子はない。以前にも測定を受け、同じ結果が出たのだと思われる。
 最後にひっそり診断してもらおうと思っていたけれど、次にジュリアス先生に呼ばれたのは私だった。

「どうしよう……」

 クラスメイトの前でショボい結果をさらすのは、すごく恥ずかしい。
 だって、皆、魔力量が多かったり、レアな属性だったり、必要とされている質だったりするもの!
 せめてもの抵抗と、上着で水晶を隠しつつ、こそこそと手を触れる。
 すると、ぼんやりと水晶がにごりだした。ヘドロ色の微々たる光が、煙のように揺れながら、縦に細く伸びている。
 周りの生徒が息をのんだ。
 わかっている。あまりのショボさに声も出ないんだって。
 しかもヘドロ色って、めっちゃ汚いんですけど。皆、だいだい色や紫色の鮮やかな色なのに、なんで私だけヘドロ色なの⁉
 おずおずと水晶から手を離すと、ジュリアス先生と目が合った。

「ちょっと待て。君は魔力詰まりを起こしているな」
「魔力詰まり?」

 聞いたことのない言葉だ。
 首をかしげる私の手首に、「少し触れるぞ?」と告げたジュリアス先生の手が重なる。
 黒い手袋をはめた彼の手から私の体の中に、目に見えない力が流れ込んでくる。
 たぶん、魔力だろう。
 ややあって、体内にある「何か」にせき止められるように力が止まる。

「見つけた」

 先生がつぶやくと同時に、その「何か」が押し流され、体中に彼の魔力が巡る感覚がする。
 困惑する私に向けて、ジュリアス先生が説明してくれた。

「アメリーの体は、魔力詰まりと呼ばれる状態だった。たまにあるんだ。極端に魔力が低い場合は、魔力詰まりの可能性が高い。平民向けの一般的な診断では低魔力と誤診されがちだ」

 信じられなかった。自分の中に他の人と変わらないような、普通の魔力が眠っていたなんて。
 私の中にわずかな期待が芽生える。

「もう一度、水晶に触れてみてくれ」
「はい……」

 そっと水晶に手を置くと、今度はヘドロ色の光が洪水こうずいのように溢れ、まっすぐ空に伸びていった。まるで天を突き刺す、大きく太い柱のようだ。
 魔力量は増えたが、色はヘドロのままで汚い。
 他の生徒や先生は目を見張っていた。

「これは、初めて見たな。アメリー、もう手を離していい」

 言われたとおりに手を離すと、ヘドロ色の光は一瞬で消え、ひしゃげた水晶が残った。
 変形した水晶は、もう使えそうにない。
 思わぬ事態に動揺していると、ジュリアス先生が「大丈夫だ」と私をなだめた。

「許容量オーバーか。測定器が魔力量の多さに耐えられなかったんだ」

 そう言うと、彼は別の水晶を地面に置いた。スペアがあったようだ。

「魔力過多の問題児は一人だけかと思ったが、今年は二人もいるのか。しかも、アメリーは属性不明。おそらく多属性が入り混じっているから、あんな色になるんだな。とりあえず『一般型』に分類されるだろう」

 担任の言葉を、不思議に感じながら聞く。今の自分が信じられない。
 最後に測定したのは留学生のカマルだ。
 今まで測定した生徒は、全員水晶を壊していない。ということは、もう一人の魔力過多は彼?
 カマルが水晶に手を置くと、辺りが真っ白な光に包まれる。まぶしい……!
 思わず目を閉じた私がまぶたを開けると、水晶は真っ二つに割れていた。

「魔力過多で白か。光系に向いていて、これも『一般型』だな。質については、あくまでこの国の基準だから、気にしなくていい。規定された質に当てはまらない場合、『一般型』になる。その中で国が承認した質のみが『特殊型』に指定されるんだ」

 ジュリアス先生は、私の常識をくつがえすようなことを言う。
 ……「一般型」は、ありふれた駄目な質ではないの?
 生徒たちからの疑問の視線を感じた彼は、魔力の質について説明し始める。

「量はともかく、得意属性や魔法の質は訓練次第で自由に変えられる。例えば、呪術に凝っている者の魔力の属性は闇になりがちだ。宗教系の施設で働く人間はその逆で、属性が光かつ『医療系』の質になりやすい」

 呪術好きの子は、呪術に向いた属性に。魔物好きの子は、魔物に向いた属性に……ということのようだ。

「そして、エメランディアで悪く言われる『一般型』は、平凡で秀でたものがない質ということではなく、何にでもなれる可能性を秘めた質だ。規定の職業に特化していないだけで、決して悪いものではない」

 そんな話を聞いたのは、初めてだった。

「こんなことを言うのは、私が他国の出だからだが。適性は参考程度に思っておくといい」

 ジュリアス先生は、他国から来た教師だったのだ。
 彼は「今年からエメランディア分校に赴任して、担任を持つのは初めてだ」と、私たちに教えてくれた。

「全員、一旦教室に戻って。魔力量や属性や質については、これからの授業で詳しく説明する。魔力過多の二人は放課後、教室に残るように」

 私とカマルは呼び出しのようだ。突然こんなことになって、気持ちが追いつかない。


 教室に戻ると、今度は寮の紹介があった。
 ヨーカー魔法学園のエメランディア分校には、五つの寮が存在する。


 ・戦闘職志望の生徒が多く、寮でも独自の訓練を行う体育会系の青桔梗あおききょう寮。
 ・職人志望の生徒が多く、様々な実験や制作をしている錬金系の黄水仙きすいせん寮。
 ・医療職志望の生徒が切磋琢磨せっさたくまし、勉強会などを多く開く医療系の白百合しらゆり寮。
 ・上位貴族の成績優秀者が多数を占める、選ばれた人間しか入れない赤薔薇あかばら寮。
 ・自由な雰囲気で来る者を拒まないくろ撫子なでしこ寮。


 荒事は苦手だし、不器用だし、頭も良くないし、平民だし……私は黒撫子寮一択だ。
 他の寮でやっていける気がしない。黒撫子寮でも無理かもしれないけれど。
 考えていると、水色髪の女子生徒、ミスティが話しかけてきた。まさか、ノア以外のクラスメイトも話しかけてくれると思っていなかったのでびっくりする。
 彼女の後ろには、おどおどした様子のハイネも立っていた。

「ねえ、あなたはどこの寮にするの? Aクラスは各寮がスカウトに来るみたいだけど、Bクラスは自分で希望を出さなきゃならないの。しかも、出しても通らないことが多い」
「そうなんだ……」
「この学園には、お兄様が通っていたから。少しだけなら仕組みがわかるよ」

 ミスティは得意げに言った。親切心から声をかけてくれたようだ。
 彼女たちになら話しても大丈夫だろうと、自分の希望を伝えてみる。

「私は『黒撫子寮』にしようと思うんだけど、拒まれたら行き場がなくて」
「大丈夫。黒撫子は、最後の受け皿だから。私やハイネも『黒撫子寮』希望だよ。呪術専門の寮や、魔物専門の寮がないからさ」

 話していると、近くにいたノアも口を挟んでくる。

「俺も黒撫子にするぜ。よろしくな!」

 ノアの言葉に、ミスティがまばたきしながら問いかけた。

「あなたは、青桔梗に行くのかと思っていたけど?」
「あんな堅苦しい寮はごめんだ! ガチガチの軍隊みたいじゃねえか、耐えられねえよ!」

 考え方は、人それぞれ。
 ジュリアス先生から配られた用紙に、希望する寮名を魔法式羽ペンで書く。
 このペンは、授業のノートを勝手に書いてくれるそうだ。魔法陣など、ややこしい模様を正確に描き写すのに使われる。普段は普通のペンとして利用可能だ。
 真っ先に、バンダナ少年ガロが用紙を提出した。紙には、青桔梗と書かれている。適性は無視する方向らしい。なりたいものを目指すのが一番だよね……

「寮が正式に決定するまでは、今いる部屋から通学するんだよ。数日で通知が来て、それから寮に引っ越すの」

 ミスティやノアが親切に情報を教えてくれる。貴族の間では、ヨーカー魔法学園の仕組みが浸透しているらしい。身内が通っている者も多いようだ。
 ハイネは物静かだけれど、二人の会話に相づちを打っていた。三人からは敵意を感じない。
 今まで対等に、フレンドリーに接してもらえたことがなかったので、私は困惑してしまった。
 思わず彼女たちに問いかける。

「あの、私なんかに話しかけていいの? メルヴィーン商会の姉妹の噂、聞いているでしょう?」

 三人はパチパチとまばたきしたあと、おかしそうに笑い出した。

「ああ、裏口入学の件? よくある話だよ。この学校は貴族の中でも優れた成績の子しか通えないけど、貴族だって実力がないのに成績を操作させて通っている子もいるの。親がこっそり裏口入学させていて、本人は全く知らなかったということもあるし」
「私も……知ってる。Aクラス、何人か、不正入学……」

 女子二人の話に、私はあんぐりと口を開けた。

「そうそう。お前がいろいろ言われるのは、平民だからだ。アウェイの中で堂々と通学していて、俺はむしろ尊敬するぜ! 人には事情があるもんだ……って、実は、お前のことは伯母から聞いたんだけどさ」
「伯母?」
「この学校で手広くやっている、マンダリンっていうおばさんだよ」
「あなた、マンダリンさんの甥っ子なの?」

 そういえば、アームズという姓が一緒だ。

「そ。一つ上の学年に、マンダリンの実子がいるぜ? そいつの寮は黄水仙だけどな」

 なんと、意外なところで意外な人物がつながっていた。

「あんたのこと、気にかけてやってくれって頼まれた。何も知らない魔法ド素人だからって。今度、魔法都市を案内してやるよ」
「ありがとう……」

 魔法都市の話が出ると、女子二人も「行きたい!」と言い出した。
 あとで聞いたところによると、ミスティとハイネとノアは学園へ来る前からの知り合いらしい。


 エメランディア王都の南側には、「魔法都市」と呼ばれる地区がある。
 王都の中に、様々な地区が存在し、その一つが魔法に特化した街なのだ。
 ヨーカー魔法学園は、魔法都市の中心に建っていて、周りには不思議な建物や店がたくさん並んでいる。転移の魔法陣で地方都市から直接校内に飛んでしまった私は、まだ魔法都市を目にしていないけれど。


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