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恋人なのに
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「寝顔……」
そういえば、一緒に夜を明かすことなんてないから、俺は堂崎の寝顔など見たことがない。
この男が写真まで撮っているというのに、どうして恋人の俺があいつの寝顔を知らないんだ。……そんなの、理不尽だ。
「写真、見たい?」
「だ、誰が! あいつの寝顔なんて……」
そんな俺の内心に感付いてか、ニヤニヤと笑った三田がスマホを取り出す。
それはもちろん見たい、けれど。
しかしながらこいつに見せてもらうなんて屈辱だし、そもそもこういう言い方をされて素直に頷ける性格ではないのだ。
結局三田の言葉をはねつけようとして。
「ご飯できましたよ。……二人で何の話?」
「!? ど、堂崎……」
不意に堂崎が声を掛けてきて驚いた。
「ああ、ごめんごめん、気付かなくて。ちょっと二人で内緒の話してたんだ」
それに三田はそつなく返事を返す。
「……内緒の話ですか?」
堂崎の視線がこちらに向けられて、俺も慌てて頷いた。確かに彼に言える話ではない。
「ふうん……」
しかしそんな俺の反応に、仲間はずれにされた気分なのか、堂崎は少し気落ちしたようだった。
「お前には全然関係ない、他愛ない話だ。気にすんな」
「……気にしてません。だって僕には由利さんと先輩に口出す権利ないもの」
ああ、めっちゃ気にしてる。拗ねた堂崎にちょっと狼狽えていると、しかしすぐに隣から過剰なフォローが入ってきた。
「克哉くんだけにご飯作らせて、放っておいてごめんね。ちょっと由利と昔話してただけだから。……そうだ、お詫びに今日の帰り、俺の車で家まで送るからさ、コンビニ寄り道してアイス食べて帰ろう」
「えっ? べ、別に先輩にお詫びしてもらうようなことじゃ……」
「俺がそうしたいんだ。克哉くんと話もしたいし。駄目かな?」
うわ、何なんだこの男。拗ねた相手を宥めるスキルなんてまるで磨いてこなかった俺には、歯が浮きそうで到底言えない科白だ。こいつはこういうのもデータとして持ってるんだろうか、恐るべし。
そして手を握られて目を見つめられて、そんな言葉を掛けられた堂崎はというと、
「せ、先輩……。気を遣って頂いてありがとうございます。やっぱり先輩はカッコいいなあ」
あっさりと絆されてしまった。
ああくそ。ここで俺が『行くな』なんて言ったらまた堂崎が拗ねて理由を求めて来るだろうし、さらに三田との対応格差が出てしまう。この外面だけはいい男と比べられるのは避けたい。
今更だけれどつくづく、俺は普通の恋愛をする基盤ができていないのだと実感する。ここで彼を宥めて甘やかすのは本来俺の役目であるはずなのに。
向かいで仲良さそうに話す二人を見て、俺は酷く焦燥を覚えた。
俺が堂崎と恋人としていられるのは、彼がそう宣言してくれるからで。例えば三田になびいてしまった堂崎がそう名乗らなくなる日が来たら、そんな機会は一切失われてしまうのだ。
そんなことは絶対許容できない。
その身も心も、全部俺のものでなくては困る。
……そうだ、とりあえず次に堂崎と二人きりになる日があったら、もっと恋人らしいことに挑戦してみよう。
そう考えて、俺は後で恋愛映画と恋愛漫画をネットで探してみることに決めたのだった。
そういえば、一緒に夜を明かすことなんてないから、俺は堂崎の寝顔など見たことがない。
この男が写真まで撮っているというのに、どうして恋人の俺があいつの寝顔を知らないんだ。……そんなの、理不尽だ。
「写真、見たい?」
「だ、誰が! あいつの寝顔なんて……」
そんな俺の内心に感付いてか、ニヤニヤと笑った三田がスマホを取り出す。
それはもちろん見たい、けれど。
しかしながらこいつに見せてもらうなんて屈辱だし、そもそもこういう言い方をされて素直に頷ける性格ではないのだ。
結局三田の言葉をはねつけようとして。
「ご飯できましたよ。……二人で何の話?」
「!? ど、堂崎……」
不意に堂崎が声を掛けてきて驚いた。
「ああ、ごめんごめん、気付かなくて。ちょっと二人で内緒の話してたんだ」
それに三田はそつなく返事を返す。
「……内緒の話ですか?」
堂崎の視線がこちらに向けられて、俺も慌てて頷いた。確かに彼に言える話ではない。
「ふうん……」
しかしそんな俺の反応に、仲間はずれにされた気分なのか、堂崎は少し気落ちしたようだった。
「お前には全然関係ない、他愛ない話だ。気にすんな」
「……気にしてません。だって僕には由利さんと先輩に口出す権利ないもの」
ああ、めっちゃ気にしてる。拗ねた堂崎にちょっと狼狽えていると、しかしすぐに隣から過剰なフォローが入ってきた。
「克哉くんだけにご飯作らせて、放っておいてごめんね。ちょっと由利と昔話してただけだから。……そうだ、お詫びに今日の帰り、俺の車で家まで送るからさ、コンビニ寄り道してアイス食べて帰ろう」
「えっ? べ、別に先輩にお詫びしてもらうようなことじゃ……」
「俺がそうしたいんだ。克哉くんと話もしたいし。駄目かな?」
うわ、何なんだこの男。拗ねた相手を宥めるスキルなんてまるで磨いてこなかった俺には、歯が浮きそうで到底言えない科白だ。こいつはこういうのもデータとして持ってるんだろうか、恐るべし。
そして手を握られて目を見つめられて、そんな言葉を掛けられた堂崎はというと、
「せ、先輩……。気を遣って頂いてありがとうございます。やっぱり先輩はカッコいいなあ」
あっさりと絆されてしまった。
ああくそ。ここで俺が『行くな』なんて言ったらまた堂崎が拗ねて理由を求めて来るだろうし、さらに三田との対応格差が出てしまう。この外面だけはいい男と比べられるのは避けたい。
今更だけれどつくづく、俺は普通の恋愛をする基盤ができていないのだと実感する。ここで彼を宥めて甘やかすのは本来俺の役目であるはずなのに。
向かいで仲良さそうに話す二人を見て、俺は酷く焦燥を覚えた。
俺が堂崎と恋人としていられるのは、彼がそう宣言してくれるからで。例えば三田になびいてしまった堂崎がそう名乗らなくなる日が来たら、そんな機会は一切失われてしまうのだ。
そんなことは絶対許容できない。
その身も心も、全部俺のものでなくては困る。
……そうだ、とりあえず次に堂崎と二人きりになる日があったら、もっと恋人らしいことに挑戦してみよう。
そう考えて、俺は後で恋愛映画と恋愛漫画をネットで探してみることに決めたのだった。
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