ツンデレからデレを引いたような女のせいで、高校生活が憂鬱なんだが

逸真芙蘭

文字の大きさ
8 / 43

お前が微笑むときは大抵俺を哀れんでるとき

しおりを挟む
 橘は容赦なかった。橘の買ったものですぐに両手がふさがり、視界が半分ほど暗くなるまで、荷物を持たされた。
 もともとが、謝罪の代わりで、しかも服まで、買い与えられていたので、我慢しようと思っていたのだが、
「お前、一体何でこんなに、荷物を買う必要があるんだよ。何なの? 嫌がらせなの?」
 と終いには、息を切らしながら文句がポロリと出てしまった。
「あなた馬鹿? いくらなんでも、こんな金のかかる嫌がらせを私が、あなたみたいな卑小な人のためにすると思うの? そもそも、女性に対して、そのようなプライベートな質問をしないでくれるかしら。それと私の着るであろう服を触って、ハアハアいうのやめてもらえる?」
 ……。だったら、俺を使うなよ。

「なあ、そろそろ腹が減って来たんだが」
 時計の針はてっぺんを回っている。これ以上荷物を持つのは、物理的に無理だし、いい加減に帰してほしい。

「そう。どこかで昼食をとりましょうか」
 ……午後の部、あんのかよ。

   *
 
 橘は、邪魔だからと言って、荷物をロッカーに入れさせた。……俺の運んでいた意味。

「なあ、適当でいいから入っちまおうぜ」
 先ほどから、橘はフロアガイドとにらめっこをして、微動だにしていない。
「……だめよ。ペット同伴可のところを見つけないといけないもの」
「……もしかしたら、と言うか絶対、そのペットって俺のことだろうけど、それって、英語で言うと、お気に入りと言う意味にもなるんだが」
 俺がそう言ったところ、橘はむきになって、
「早とちりしないでくれるかしら。私は、ペットボトルを持って入っても、良いところを探しているのであって、そもそもあなたと、一緒に食べるだなんて言ってないのだけれど」
 橘美幸は間違いを認めない。というか、こいつ昔の話蒸し返すの好きだな。

「花丸君にはドギーバッグに入れたものを、与えるので十分な気もするのだけれど、私の貴重な時間を失うことの方が、あなたと一緒に食事をすることで、与えられる屈辱よりも、損失としては大きいので、……そうね、この卑しい豚と一緒に食べてください、橘様、というのなら、一緒に食べてあげないでもないけど」
「あっそう。いいよ、俺は下のコンビニで握り飯でも買って食っとくから」
 できればそのまま、「ごめん、電波が混線して、連絡できなかったわ(笑)」とかいって、帰ってしまいたい。……多分、月曜日、俺は酷い目に遭う。
「駄目よ。そんな不摂生な食事をして、あなたがこれ以上みにくくなったら、私の目が汚されるもの。だから、……一緒に来なさい。自分の手下の体調管理もできないようじゃ、私の沽券に係わるわ」
「俺はいつお前のもとに下ったんだ?!」
「あら、意外ね。あなた、私と同等の気でいたのかしら。覚えておきなさい、花丸君。天は人の上に人をつくり、貴賤貧富の別は生まれながらにしてあるものよ。努力でどうこうできるものではないの。あなたは、私に踏んづけられて、悦に浸る人生しか、選べないのよ。この変態」
 
 いろいろ言いたい文句はあった。だがとりあえず、これだけは言っておこう。

 滅びちまえ、そんな世界。


 橘は、とあるレストランまで、迷うことなくやって来た。
「すみません、予約をしていた橘ですけど」
「はい。お待ちしておりました。十二時半から、ご予約の、二名様ですね。ご案内いたします」
 そういって、店員の後に続いて、店の奥に入って行った。

 窓のすぐそばに席に案内された。今朝は曇っていたのだが、晴れ間が見えていて、名古屋の街がよく見渡せた。
 店員が一旦、席を離れてから、
「お前、予約してたんなら、初めからそう言えよ」
 と橘に言った。
 さっきのやり取りは、完全に俺を、痛めつけるだけにやったようなものではないか。……平常運転だな、おい。
「おかしいわね。私は確か、一人と一匹で予約したはずなのだけれど、店員さん、二名と言っていたわ。……獣も、一名と数えるのかしら」
「……」
 君は罵倒が得意なフレンズなんだね!
「花丸君。そんな悲しそうな顔をしないで。私は、これでもあなたを高く買っているのよ。……あなたみたいな珍獣そうそういないもの」
 結局、獣じゃないか。
「……あのう、ご注文はお決まりでしょうか」
 
 横を向いたら、店員が遠慮がちに立っていた。……絶対会話聞かれてたよ。もうやだ。
 橘はと言うと、頬をほんのりと染めて、ごまかすように咳払いをしていた。……人に聞かれたくないのなら、するなよな、こんな話。

  *

 食事をあらかた終え、店員がデザートと、コーヒーのことについて、知らせに来た。デザートの方は良く分からなかったので、橘と同じものを頼み、コーヒーは、
「ミルクと砂糖付けてください」
 と伝えた。
 店員がさがってから、
「意外ね。花丸君のことだから、女の子の前では、ブラックコーヒーを背伸びして飲むものだと思ったわ」
「デザートつきだから、それでもよかったんだがな。俺の場合、リアルライフの方で、肝をなめまくって、ほとんどにがりを飲んでいるような状態だからな。コーヒーぐらい甘いものを飲みたい」
けだし至言ね。あなたは、コーヒーぐらいでしか、人生の甘みを知れそうにないもの」
 俺の人生、甘味料に負けちゃうとか、それどうなの?
「……それは、俺のせいではない。俺は悪くない。世界が悪い」
「そうね。あなたがこの世に誕生してしまったのは、あなたのせいではなく、この世界の責任だものね」
「そうだな、責任とって、この世界に滅んでもらうときは、お前を一番最後に取っといてやるよ」
「いやよ。あなたと最後の人類になるなんて不名誉をこうむるくらいなら、自死するわ。そして一人になったあなたを見て、あの世で嘲るのよ」
「残念だったな。俺は現在進行形で一人だ。全人類がほろんだところで、頭を垂れる俺ではない」
「そう。でも、どちらにせよ、私は全力で、暴走したあなたを殺しに行くわよ。あなたを罵倒できない世界なんて存在価値ないもの」
 真っ先に世界の存在価値を消そうとしてますよ、あなた。


 レストランを後にしてから、橘は俺の方を見て、
「少し、書店で時間をつぶしておいてもらえるかしら。後で落ち合いましょう」
「連絡するの怠いから、一緒に行くわ。読む本は足りてるし」
「ごめんなさい。年中無休ボッチのあなたにハイコンテクストな会話を望む方が無理だったわね。下着を買いに行くから、どっか行っててもらえるかしら、と言ったら通じるかしら。それとももっと言った方がいい? 失せ……」
「あ、はい。わかりました」
 
 というわけで、暫く別行動をすることに。

 特に見るものもないので、橘に言われたように、書店をぶらつき、適当に時間をつぶして、橘に呼び出されるのを待った。

 三十分ほどして、電話がかかってきて、橘と合流する。

 橘は、黒白のストライプの紙袋を俺に渡してきた。……これって、そういうことだよな。
 俺が微妙な顔をしたのを見たのか、
「なにか、言いたいことでもあるのかしら?」
「いや、普通こういうのは、他人に持たせないだろ。まして男には」
「花丸君が、何を言いたいのか良く分からないのだけれど。私はあなたのことを単なる使用人としてしか見ていないのだし、あなたが、その紙袋の中身を想像して、ハアハアしようが、私には関係のないことだわ。もはや、あなたが私のような女の子に欲情するのは仕方のないことだもの。そんな事を気にしていては、私のような女の子は、生きていけないわ。でも、あまり手汗まみれの手で、べたべた触らないでくれるかしら」
 どうしてこの女は、俺が好意を持っているという前提で話をするのだろうか。
「そんなことはしない。ついでに言っておくが、俺はお前になんか欲情しない。そもそも単なる布になんか、興奮しようもないだろうが」
「……可哀想な人。あまりに女子に相手にされないので、その年で既に枯れてしまっているのね」
 ……そうとすれば、始まってもいない気もする。生まれてこの方、女子になぞ、相手にされたことがないのだから、淡い幻想など抱きようもなかった。
 橘がもうちょっとかわいげのある女の子だったら、事情は変わっていたろうが。タラれば言っていても仕方がない。橘美幸は、女の皮をかぶった何か、という事実はどうにも動かしようがないのだから。

「でもそんなに気落ちすることはないわ。きっと花丸くんのことを好きになってくれる人が現れるわよ。……来世では」
 橘は哀れみをたたえた微笑を見せた。
 この女は輪廻転生を経ても、俺を虐げているような気がする。俺のこと大好きかよ。違うか。
   



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

『クラスで一番モテない男が、幼なじみと“仮恋人契約”したら、本物の恋に気づいてしまった件』~報酬はプリン100個。彼女が部屋でだけ甘えん坊

月下花音
恋愛
【完結済/ハッピーエンド保証】 「ねえ、私の彼氏になりなさいよ」 「……は?」 大学1年の春。クラスで一番モテない男・藤堂健は、幼なじみの白石玲奈からトンデモない提案を受ける。 彼女は容姿端麗、成績優秀、そして近寄る男を氷のような視線で排除する、通称“氷の女王”。 そんな彼女が差し出したのは、2週間の『仮恋人契約』だった。 条件:完璧な彼氏を演じること。 報酬:高級プリン100個。 「断ったら……どうなるか分かってるわよね?」 「よ、喜んで!」 プリンに釣られて(脅されて)始まった契約生活。 しかし、いざ始まってみると――。 「……健、手繋いでいい?」 「……演技だから、もっとくっついて」 「……帰りたくない。今日は泊まっていっていい?」 おい、ちょっと待て。 これ、本当に演技なのか? ただの幼なじみだったはずの彼女が、契約期間中だけ見せる無防備な顔、甘い声、そしてとろけるような笑顔。 これは演技なのか、それとも――? 「契約とか関係ない。俺は、お前が好きだ」 モテない男と氷の女王。 嘘から始まった恋が、世界で一番甘い「本物」に変わるまでの、2週間の奇跡。

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。ノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 超高速展開、サクッと読めます。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

辺境伯令嬢が婚約破棄されたので、乳兄妹の守護騎士が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  王太子の婚約者で辺境伯令嬢のキャロラインは王都の屋敷から王宮に呼び出された。王太子との大切な結婚の話だと言われたら、呼び出しに応じないわけにはいかなかった。  だがそこには、王太子の側に侍るトライオン伯爵家のエミリアがいた。

処理中です...