ツンデレからデレを引いたような女のせいで、高校生活が憂鬱なんだが

逸真芙蘭

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花丸くんのこと信じてたから

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「さっきの茶番は何だったんだよ」
 俺たちは帰り道の途中にあったカフェに入っていた。

「現場の教育がちゃんとされているかチェックしたかっただけよ。事故でも起こったら、スポンサーである橘ブランドの失墜はまぬがれないもの。まあ及第点はあげられるわ。若干ボディタッチが多かった気がしたけれど」
「接触の件は、ほとんどお前のせいだろうが。お前が柵に突っ込もうとするから。怪我したらどうするんだよ」
「私、花丸くんのこと信じていたから」
 と言って、恥ずかしそうに目を伏せる。……調子狂うな。
「――だって、私に抱きつける大義名分が有れば、あなたは躊躇いなく抱きつくでしょう」
「おい」
 それは信じるとか、そういう次元の話ではない。そもそも抱きつきたいと思ってないし。

「お前のせいで、早上がりになったんだが」

 そうなのだ。
 橘がジップラインをゴールしてすぐに、事務所に呼び出されて、
「悪いんだけど花丸くん。橘さんを送って差し上げてくれないかな? 橘商事の社長のお嬢さんになにかあったら、まずいから」
 と遊園地の部長に言われたのだ。……早上がりになった分、俺の給料が減ったんだぞ。

「だから、こうして飲み物を飲ませてあげているじゃない」
「これもお前が、疲れた、といったから店に入ったわけだが」
 アイスティーにミルクを混ぜて、マドラーでくるくるかき混ぜながら俺は言った。


「その飲み物に加えて、私という女の子と、喫茶店デートができているのだから、あなたの日給の数倍の価値はあるわよ」
「そんな安くねえよ」
 一日七千円超のバイト代の数倍だと、諭吉が二、三枚は要る。お茶を飲んだくらいでそんなに取られたら、ボッタクリもいいとこだ。多分キャバクラのほうが良心的だぜ。
「そうね。あなたの場合いくらお金を払っても、デートしてくれるような女の人は、一生現れなさそうだものね。つまり私は一生分の貸しをあなたに作ったということでいいのかしら。全部返してもらうまで、取り立てに行くわよ」
「違うそうじゃない。てか闇金みたいなことすんなよ」
「そうね。私が取り立てに行くと、逆にご褒美になってしまうものね。どうすればいいのかしら?」

「お前、ほんとぶれないな。ていうかさ、プールバイトクビになったのもお前のせいなんだけど」
 橘は目を見開いた。
「どういうことかしら?」
「なんか、他のバイトが、俺が『仕事中に女と話してた』とか何とか上司に言いやがって、クビにされたわ」
「……そうなの。ごめんなさい」
 橘は本当に申し訳なさそうな顔をして謝ってきた。予想外の反応に俺もたじろいでしまう。
「……いや、まあいいけどさ」

「それで私に罰ゲームをさせる気なんでしょう」
「そんなこと言ってないけど」

 暴走機関車こと橘美幸はもはや誰にも止められない。
「花丸君の事だから、きっと私とデートしたいのよね。しょうがないわね。罰ゲームというのだから仕方なくあなたとデートしてあげる」
「いや俺何も言ってないけど」

「今度の木曽川の花火大会でいいかしら」
「……なんで俺が花火なんか」
「そんなことを聞くようだから、あなたはいつまで経っても花丸くんなのよ」
「俺は未来永劫、花丸だよ!」

「とにかく、時間はあるのでしょう。じゃあ、約束したからね。破ったら針千本飲ますわよ」
「お前の場合本当にやりそうだから怖い」
 それにしても橘は罰ゲームやらされる気満々じゃないか。こいつってもしかしてマゾなのか。

 花火大会当日。
 俺と橘は浴衣に身を包み、祭り会場の最寄り駅から会場へと歩いていた。

「あ、犬だ」
 道端に犬がいるのを見つけた俺は何気なく近づいて行った。
「野良犬に触るとブルセラになるわよ」
 ブルセラ? ブルマにセーラー服のことか? おじさんたちが大好きな。セーラー服はともかく、生まれてこの方、ブルマというものは見たことがない。
「よく分からんが、俺がブルマ履いてもしょうがなくないか?」
「……突然何を言い出すの? 同級生の女の子に、変態性癖を晒すのやめてもらえるかしら」
 話が噛み合っていないのか。
「ブルセラってなんだよ」
「人に聞く前に自分で調べたら?」
 それもそうかと思い、ネットで検索してみた。

 検索結果には、パンチラしているセーラー服に身を包んだ女子高生や、太ももが露出しているブルマを履いた、体操服姿の女子の画像が出てきた。

 橘がそれを覗き込む。
「……花丸くん。女の子とデートしているときに、エッチな画像を調べるのはどうかと思うのだけれど」
「いや、俺悪くないよな。ブルセラって言い出したのお前だろ」
「私が言ったのは、ブルセラ症という感染症のことよ」

 画面をスクロールしていったら、確かに病気のことについても出てきた。ペットから人にうつる病気らしい。橘は豚を飼っているからその関係で知ったのだろう。

 俺は再び検索上位に来ている画像を見ながら、
「それにしても、昔の人はよくこんなの履いて、体育してたよな」
 と言ったら、
「いいから閉じてもらえるかしら」
 と言って橘は端末の電源を切ってしまった。

 スタイルの良い橘がブルマなんてものを履いたら、男子が授業に集中できなくなりそうだ。
 そんなことをぼんやり考えていたら、
「花丸くん。今変なこと考えてないわよね?」
 と胡乱げな視線を投げかけてきた。
 変なことではない。真面目に授業環境の改善の歴史について考察していたのだ。

「高尚なことを考えていた」
 と言ったのだが、
「いくら私が高貴な存在だからといって、私でエッチな妄想をすることは高尚なことと言えないわよ」
 と決めつけている。
「高貴なお方は自分で自分を高貴な存在とか言わんと思うぞ」
「自敬表現を知らないの? 帝がよくやるやつよ」
「お前はいつから、日本国民統合の象徴になったんだ?」
「昨日から始めました」
「そんな冷やし中華みたいな」
「とは言っても橘皇国の天皇だけど」
「そんな国は認めん」
「領土は私のマンション。主権は私。国民は私と花丸くん。国家の三要件を満たしているわよ」
「俺を違法国家の国民にするな!」
「天皇に対する不敬罪で花丸くんを起訴します。検事は私。裁判長は私。判決は死刑」
「いきなり国民が半分に減っているんだが」
「……有徳の天皇が恩赦によって、罰を軽くしてあげるわ。百年間私のもとで労役に付きなさい」
 死ぬよか酷そうだ。

 祭り会場についてからは、花火が始まるまで露店を回った。当たり前だが、この前の時より橘は至極楽しそうだった。
 
 花火がよく見える場所があるそうで橘に連れられて人気ひとけの少ないところにやってきた。林のなかのちょっとした広場だ。
 いつものように馬鹿な話をして時間をつぶして打ち上げが始まるのを待った。

 ドーンという音が聞こえて、花火の打ち上げが始まったことを知った。空を見ると、色とりどりの巨大な華が、満開となっていた。
 およそ二十分間、黙って花火を見ていたのだが、クライマックスを迎え、最後に盛大に大量の花火が打ちあがって今夜のメインイベントが終了した。
 打ち上げが終了してからも、橘は動くそぶりを見せず、夏の夜空を見上げていた。

「月が綺麗ね」
 ポツリとそうつぶやく。
「今日の主役は花火だと思ってた」
「人工物を眺めるより、花鳥風月を愛でるほうが好きなのよ」
「それは花火大会で言うセリフじゃない」

 虫の声が聞こえてくる。さすがに川の近くだけあって、少しは涼しい。それか秋が近づいているのだろうか。学校が始まるにせよ、俺の隣にはこの女がいるだろうから、あまり状況は変わらないが。

 なんだかんだいって、この春からの高校生活を俺はそれなりに楽しんでいたのではないだろうか。橘の言動に踊らされていることを自覚しながらも、それを楽しんでいた自分がいたのではないだろうか。
 ちょっとうっとしいこともあるが、橘美幸と過ごす高校生活は俺にとってそれなりに充実したものだったのだろう。すくなくとも一人ぼっちでぶつくさぼやいている生活よりも忙しかったことは確かだ。
 これが俺の幸福なのかはまだ分からない。それを確かめるには方法は一つしかないな。
「なあ橘」
「なにかしら?」

「俺とずっと友達でいてくれよ」
 橘は妙な顔をした。
 それから、
「やだ。あなたとずっと友達でいたら私の精神衛生が著しく害されそうだもの。ずっと友達なんかでいたら」
 大事なことは二度言う。これ国語の鉄則。
 そんなに俺と友達になるの嫌なの? ……ていうか今断る流れだったかな。

 妙な真似はするもんじゃない。若干傷ついた心と足を引きずるようにして、先に歩き始めた橘についていく。

「ねえ」
 不意に橘が声を出した。

「でも今は友達でいてあげる」
 二、三歩足を進めた橘美幸はこちらを振り返り、いたずらっぽい笑みを浮かべてそういった。
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