久々に実家に帰ったら、俺にはライオンの様に凶暴な義妹が出来ていました。父「ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^」俺「◯ね」

ゆうらしあ

文字の大きさ
1 / 49
第1章 最低です

第1話 帰国

しおりを挟む
 季節は春から夏へ変わる、6月下旬。

 ジリジリとした太陽の光が降り注ぐ今日。

「日本ってこんなに暑かったっけ…」

 俺、神原《かんばら》 世理《より》は日本へと降り立っていた。

 日本には約2年ぶりの帰国である。大学に入ってからは制作課題や何やらでロンドンから離れる事はできなかったが、今年は違う…ちゃんと地道に課題を進めた。

 折角頑張ったんだ、ゆっくりしよう。

 世理は落ち着いた様子で、空港の前から歩き出した。



「ふぅ…久々の我が家だな」

 空港からタクシーで1時間弱。世理は都心でも裕福な者が住む区画へ来ていた。

 俺の親父は有名な画家で、個展や展覧会を何度も開いている。大体開けば1日で5000人は固いらしい。

 中々の大物だ。

 そのお陰もあって親父は、この良い所に1人で住んでいる。

 一昨年までは一緒に暮らしていた事が、とても懐かしく感じるな。

 世理はしみじみしながら玄関の扉に鍵を差し込んだ。

 ガチャ

「ただいまー」

 …

 俺の声だけが響き渡り、何の返事もない。

 居ないのか、珍しい。親父ならいつも部屋で絵描いてると思ったんだが…。

 世理は靴を脱いで、家へと入る。持ってきたキャリーバッグは持ってたウェットティッシュでタイヤを拭いた後、家へと上げる。

 まぁ、帰ってくる事何も親父に伝えてないから居なくてもしょうがないか。

 世理は2階にある自分の部屋へと向かう。

「おー、変わってない」

 部屋の広さは10畳。高校の時と変わらずに物が設置されていた。窓際にはブルーのセミダブルのベッド。その横には沢山の漫画やラノベが詰まった本棚。真ん中に置かれたガラス張りのテーブル。その下には長方形の黒いラグが置いてある。勿論、その脇には2人ぐらい座れるグレーのソファ。

 部屋の雰囲気は、中学生の時にごちゃ混ぜスタイルからモダンスタイルに仕上げた。懐かしい。

 世理は隅にキャリーバッグを置くと、ベッドに寝転がる。

「ふぅー…」

 落ち着くな…場所が変わるだけでこんなに気持ちが変わるんだな。

 ロンドンにいた時は周りに負けない様、ずっと焦っていた…。

 あそこは最高の環境と同時に最悪な環境でもある所だ。授業のレベルはとんでもなく高い。だがそれと同時に努力を怠った瞬間、置いて行かれる。食べ物も、慣れない海外の料理で落ち着かなかった。

 まぁ、選んだのは俺だし。昔の俺と比べたら、とても成長できた。後悔はない。

 ただゆっくりは出来なかった。それだけだ。

 世理は天井にあるシミを数えるが如く、呆ける。


 ……久々にこんなゆっくりしてるけど、ボーッとしてるのも暇なもんだな。

 無性に何かやる事はないかと世理は、下へと降りて行く。

 そしてリビングの扉を開ける。

「ここは…少し変わったか?」

 周りを見渡すと、前までは親父が無駄な物は置きたくないと、必要最低限な物しか置いてなかった殺風景な部屋が、観葉植物、ぬいぐるみ等が置かれたりと、何というか華やかさが増えていた。

 親父もこの2年で変わったって事か。

 1人でそう納得すると、俺はキッチンへと足を向ける。

 キッチンもリビングと同じで、何か全部とまでは行かないが、ピンクい。

 ……親父、そっちの趣味に走ってんのかな。自分の親ながら変な人だとは思ってたけど…ここまでとは。

 少し絶望しながら、冷蔵庫を開く。中には俺が昔冷蔵庫の中に常備させていた物が揃っていた。

 食料はちゃんと買ってあるな………はっ!!

 食料を見て俺はある名案を思いつく。

 親父が帰ってくるまでに飯でも作ってやるか?  1人の息子がサプライズで帰ってきて、料理を作って待ってたら最高だろ!

 幸いまだ時間は5時。2時間もあれば相応の物が作れるだろ。

 世理は冷蔵庫を開きながら、あれよこれよと食料を出して行く。

 これと、これ。あとこれもだな。

「…よしっ! じゃあ早速取り掛かりますか!」

 タンタンと包丁から小気味いい音を鳴らし、野菜を切って行く。

 ふふっ、親父の目が丸くなるのが目に浮かぶな。

 世理は少し恥ずかしげにニヤけながら、調理を進めて行く。

 しかし、この時の世理は知らなかった。



 親父の目が丸くなるのではなく、それを通り超え、目が飛び出るぐらいに驚くのが自分だと言う事に。



「おっ、もう7時か。そろそろ来るな」

 そう思った世理は調理した物を、ドンドンと皿へと乗せて行く。

「俺の昔からの得意料理、カレーライスをここに召喚!! ハッハッハッハッハッハッ!!」

 俺は高笑いしながらも、サラダをテーブルの上に乗せる。

 この俺が作るカレーライスは俺の好物でありながら、親父の好物でもある。俺が作ったオリジナルのルーに、野菜をニンニクで炒め、それと一緒に肉をコトコト煮込んでいく。美味しくない訳がない。

「さっさと来いってんだよな~親父の奴。俺も腹減ったよ」

 そう思っていると、玄関の扉が開く音がした。

 お! 帰ってきたな!!

 世理は電気を消して息を殺し、気配をなるべく悟られない様にする。

 帰るって言うの面倒くさくて言わなかったけど…一応サプライズって事でいいよな? 明るく行くぞ…。

 リビングの扉の取っ手が下に沈み込む。

 今だ…!

 世理は大きく息を吸い込む。

 ガチャ パッ

 扉を開くと同時に、横にある電気をつける。

 そして…

「サプラーイ……ズ?」
「え?」

「え?」

 そこに居たのは親父ではなく、制服姿の女子高生。髪はショートカットに切り揃えられていて、身長は小さく、容姿も幼い。しかしスタイルは抜群で、出ている所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。そして目尻が下がっている事から、彼女からは物静かそうな雰囲気が醸し出されていた。

 まぁ端的に言うと…おっとり美人というやつだ。

 2人とも疑問の声をあげ、静止する。

 そして数秒後…動き出す。

「ど、ど、泥棒!!!」

 バキッ!!

「どぅるふっ!?!」

 俺の顔面にグーパンがこれ以上ない程に綺麗に決まり、口からは今まで出した事のない様な声が出てしまう。

 先に意識を取り戻したのは、俺の事を即座に泥棒と認識した女子高生の方だった。





 これは後に分かる事だが、この女子高生は親父の再婚相手の娘さんだった。

『ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^』

 親父からこんなメールが送られてきてて俺は、いつの間に再婚したんだよ! 言えよ!!

 そう思った。

 しかし、

 俺もそう言えば帰ってくるのを面倒くさがって言わなかった。

 だから色々考慮して、この一言だけ返してやった。

『◯ね』

 この親父あって、この俺ありだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...