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第3章 はぁ。

第23話 決意と少しの理解

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「またやっちゃった…何で私…はぁ、少しは我慢すれば…」

 私はタオルで胸を隠しながら、椅子に座って後ろに倒れている義兄を見つめる。

 義兄の顔は何処か諦めたかの様に、眉が八の字に歪んでいる。

 殴った私も悪いのだろうが、下着を見てわざわざ感想を言うのはどうかと思う。

 しかしこのサイン、友達だと言う神寺世田先生のサインを態々持って来てくれた。

「……ちょっとは嬉しい…かな。うん、ちょっとだけ」

 私はいつも"空白の渇望"というアニメをリアルタイムで見ていた。

 だから分かったのかな? 私が神寺先生の大ファンだって…。それよりもこの人が神寺先生と友達…意外だ。

 葵はどうにかして神寺先生と会いたいと言う一心と、申し訳なさとで義兄をソファまで運んだ。


「ふぅ、これでよしっと…」

 義兄は思ったより重く、頑張って引きずってソファまで運んだ。

 途中でズボンがぬ、脱げたり…パ、パパ、パン……が脱げそうに…なったりしたけど頑張った。

 私は大きく息を吐いて落ち着いた後、床に膝を着きソファに寝転がる義兄を見つめた。

(……意外と私の事見てくれてるんだなー)

 最初の印象は最悪だった。

 何か変な事をする変人で、私のパンツを手に取っていたり…これは私がちゃんと管理してなかったから悪いかもですけど…胸に飛び込んで来たりもした。

(でもそれ以上に…)

「家族の事を考えてくれてた」

 自然と表情が緩む。

 ママと聡さんの事や、急に義妹になった私の事。

 2人が心配して新婚旅行を止めて帰って来ない様に、敢えて2人に嘘をついていた…優しい嘘を。

 私とは仲良くなろうとぬいぐるみを買って来たり、アニメのグッズを取って来たり、しかも神寺先生のサインも持って来たり…。

 自分が1番戸惑っている筈。それなのに…仲良くしようと努めてくれた。

 本当に良い人、私の第1印象だなんて最悪だったろうに。

 私は冷蔵庫から氷を取り出し、袋に入れると、義兄の殴ってしまった辺りの顔に、そっと置いた。

 今、この人は休暇中。
 あまり迷惑は掛けたくない。もう大分迷惑掛けちゃってるけど…。

 私は立ち上がり、これからは無闇に手を出さないと気合を入れ、両頬を叩く。

「よし…文化祭の準備頑張ろ!」

 私は食べ終わった食器を片付け、部屋へと向かった。



 *

「ふぅ、やっと行ったか…」

 俺は顔から氷を退けると、ソファから起き上がった。

「そうか…最近疲れてたのは文化祭の準備で…」

 そう、俺は葵に氷を乗っけられた時から起きていた。

 タイミングを見計らって起きようと思ったが、どうにも今居る時に起きては、また拳が飛んで来る様な気がしてならなかったのだ。

「それにしても…まさかこんな状況で聞けるとは…」

 昨日那由さんから聞いたアドバイスは何だったのだろうか。

 今日は気を遣わない様にしたのが功を奏したのか?

 だが、気を遣わないのと…失礼なのは同じなのだろうか…いや!

 少しは心を開いていくべきだろ! そう! オープンに!

 そう思った世理は、大人しく頬に氷を当てながら食事を済ませるとテキパキと洗い物をした。

「あ、ついでに…これを…もし…なくても…朝に片付ければ…」

 そして世理はまたキッチンに立つのだった。



 *

 夜中の1時半。

「くぅ~…」

 葵は椅子に座り、大きく仰け反った。

 目の前には文化祭の事についての資料や配置、資材等の事について記されている。

「一先ずは終了でいいかなー…」

 小腹が空いた私は一息ついた後、何か食べる物はないかと階段を降りる。

 ガチャ

 リビングは真っ暗で誰も居ない。どうやらあの人も起きて自分の部屋へと戻ったらしい。

「あれ?」

 私はキッチンに向かう途中、テーブルに何か置いてある事に気づき、方向を変えた。

 いつもなら食事が終わったら全ての食器を洗う筈、もしかして忘れたのか? と思ったが、皿の上にはおにぎりらしき物が乗っている。

 私は不思議に思い、それに手を伸ばした。

「……何これ」

 そしてお皿に手をつける前に、お皿の下に挟まっている紙を手に取る。

『食べて良いよ』

 紙にはそう書いてあった。



 この家には私と義兄のみ…つまり、そう言う事なのだろう。

「だから…気遣い過ぎだってば」

 小さく呟きながら、私は皿を手に取り二階へと上がった。
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