久々に実家に帰ったら、俺にはライオンの様に凶暴な義妹が出来ていました。父「ごめん、言うの忘れてた。俺再婚した^_^」俺「◯ね」

ゆうらしあ

文字の大きさ
47 / 49
第5章 なんでもない!

第47話 後夜祭での出来事(葵視点)

しおりを挟む
「「……」」

 グラウンドの真ん中。丸太が組まれ、キャンプファイヤーの準備が進んでいる中、葵は環と一緒に座ってそれを見ていた。

 さっきの事があって、環とは色々話しづらい。だが、後夜祭では環と一緒に居ようと約束した所、約束を破るわけにも行かず、グラウンドから少し離れた倉庫脇に私達は居た。

 …気まず。

 それが今の葵の正直な気持ちだった。

 私だってこんな気持ちにはなりたくない。なんてたって、今は高校初の後夜祭。皆んなが笑い合い、準備だとしても楽しそうに働いている。

 そんな中、歯痒さを感じながらキャンプファイヤーなんて見たくもない。

「もうすぐさ…大会だね。楽しみ……」

 少し暗くなった空を見上げていると、環が独り言の様に呟く。

 そう。私達は同じ陸上部に所属している。夏が終わり、3年生が引退して新しい体制になりつつある。

「私は、普通かな」

 一応、私は昔から運動神経が良い事もあり、高校で始めたばかりだと言うのにリレーのメンバーに選ばれている。

 だけど、最近は練習にあまり行けてないし、文化祭実行委員というのもあって遅れて練習に参加している為、バトンパスの練習などあまり出来ていない。

 心配だ。

「葵はそうかもね。でも、私はさ……」

 環を見ると、後ろ手に着いた手が握りしめられている。
 表情を伺うと、緊張して強張っていると言うよりも、嬉しさが勝っているかの様に思えた。その様子から、どれだけ試合を楽しみにしているか伝わって来る。

「早く試合したい?」

 私は環へと問い掛けた。
 見るからに分かるワクワク感。
 理由としては、環もリレーの選手に選ばれたからと言うこともあるだろう。

 環は小さな頃から陸上部に所属していた。
 小4から中学校まで、計7年間陸上部に所属していた。しかし、それにも関わらず環はリレー選手に選ばれていなかったのだ。

 だけど今年、やっと実が結び、環はリレーの選手に選ばれた。

「うん。そうだね。初めてだもん。此処まで早く走れてるの」
「そう…良かったね……」

 いつも飄々と、周りを気遣う親友。その親友の初めて見た表情に少し口元が綻ぶ。


 そして、間が空き、他の人の賑やかな笑い声が響いて来る。

「キャンプファイヤー出来たみたいだね…葵、行こう?」

 喧嘩を何度もしてきた訳でもないから、こういう時どうすれば良いのかよく分からない

 でも、こういうのは言葉にしなきゃダメだ。


「環…さっきはごめん」


 手を伸ばして来る環に、葵は目をぎゅっと瞑りながら言う。

 言葉にしなければ、伝わらない。それが最近知った大切な事だ。相手がよく知っている親友だとしても、これはしっかりと伝えなければいけない。

「私…なんでか分からないんだけど……あの人の事について言われると何かムカッとしちゃって……いや! 別にあの人が馬鹿にされると嫌だとかそういうのじゃないんだよ!?」

 自分の心ばかりの言葉を出していた葵だったが、何故か変な方向に行ってしまった事に目を見開いて言った。
 それに環は口を半開きにし、葵を見つめた。

 そして数秒後、環は吹き出すように笑った。

「はぁ~っ! ふぅー…分かった分かった。葵の気持ちはよく分かったよ!」
「な、何よその反応!!?」

 笑い疲れたと言わんばかりに深呼吸をする環。どう考えても馬鹿にされてる気がする……けど……

「ん~? 別にぃ?」
「もう知らないからね!」

 葵はプンッと立ち上がってキャンプファイヤーの方へと歩き出した。


「葵!」


 私は環に呼ばれ、少し眉を顰めて振り返った。

 すると環は、笑顔で私に言った。


「ありがとっ!!」


 何故感謝の言葉が出てきたのか。

 私には分からない。


「…どういたしまして」


 でも、私もそれにありきたりな言葉を返し、私達はキャンプファイヤーの元へと向かった。


 ***


 キャンプファイヤーの元まで行くと、大勢の人が周りを囲んでいた。パチパチと木を割り、火花が黒い空へと飛び立って行く。

「綺麗だね~…」
「うん」
「葵さ……どうすんの? お兄さんと」

 突然、環が少し言い淀みながら聞いて来る。

「どうするって…別に何もしないよ?」

 何を考えてるか分からないけど…… 誰だって不機嫌?な時はある。頑なに後夜祭に来なかったのも何か理由がある筈。

 私から何かする事は、ない。

「そっかー…まぁ、いいんじゃない?」
「神原さん!」

 私達が話していると、高波君がやって来る。

「お疲れ、どうしたの?」
「あ、あのさ、ちょっと良いかな?」

 後手に頭を掻きながら言う。

 視線は合っていないし、何かまた……

「うん」

 あの時とは違う、気持ちになっている……そうおもっているのだろうか?

 私はこの少し浮かれている様な、この空気を知っている。


 あぁ…憂鬱だ。


 葵は、はにかみながら前を歩く流星に、悟られぬ様仮面をつけた。


 親しき者を傷付かせない様にする強固な仮面を。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

処理中です...