48 / 49
第5章 なんでもない!
第48話 初めての後夜祭
しおりを挟む
「うっ……調子に乗って走らなければ良かった…」
俺が横っ腹を抑えながら学校に着くと、もう既に後夜祭の目玉であるキャンプファイヤーは始まっていた。
高校時代は来る事のなかった後夜祭。
夜の学校、部活が終わる頃にはよく見てた光景。それに見た事のない物が合わさる。
それを大学生になった今見ると、懐かしい物には見えない。何か変な感じだ。
「っと、それよりも葵は……」
懐かしさを感じている暇はないと、世理はキャンプファイヤーの近くまで寄る。
しかし、何分か探すが葵は見つからなかった。
「どこに行ったんだ?」
「あ、葵のお兄さん」
困っていると、環ちゃんが視界の隅から手を振って現れる。
「環ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様で~す、来ないかと思ってたんですけど、来たんですね」
「まぁ、ね。ちょっと色々あって…それよりも葵が何処に行ったか分かる?」
俺が聞くと、環ちゃんは少し言いづらそうに頰を掻く。
「あー……まぁ、分かります」
「どうしたんだ?」
「いえ…取り敢えず葵は学校の中に入って行きました。詳しくは分からないですけど」
なるほど…
「分かった、ありがとう」
「え、あ、ちょっと!」
「うん?」
「あ………いや、何でもないです。卒業したからって廊下は走っちゃダメですよ」
おー、まさかそんな事を注意されるとは。
「了解」
世理は敬礼すると、早歩きで学校の中へと向かった。それを見送る環の眉は、八の字に歪められていた。
昇降口から中へ入ると、文化祭の残骸が俺を迎え入れる。
フワフワな造花、教室に付けられた看板、廊下に落ちた紙吹雪。
何故だか心に穴が空いた様な、何かがこぼれ落ちたかの様な虚しい気分になる。
そんな懐かしさと空虚さを感じながら、世理は辺りを見回っていく。
「……ちょっとこれは、中々見つけられなくね?」
学校に誰もほぼ人が居ないとは言え、風嶺高校は6階建で、此処らへんでは中々大きい高校の1つでもある。
此処を走らないで探すとなると、結構な時間が掛かってしまうだろう。
(やっぱり少し走って探すか…)
そう思った瞬間。向かいの棟の窓。真っ暗な中、何かが動いた様な気がした。
(あそこは確か……)
***
「ごめん、こんな所まで」
「別に良いよ。高波君、改めてお疲れ」
「あ、う、うん! お疲れ!!」
そこは学校でも中々人が来ないであろう、美術室の中。2人は近くにある背もたれのない椅子へと座り、来る途中に買ったジュースの缶を開けた。
「ふぅ~……取り敢えずこれで終わったね」
「え、あ、あぁ」
会話が続かない、気まずい空気だ。
環と喧嘩していた時とは違う、自分の行動に後悔している様な事はない。だけど相手の気恥ずかしさに当てられ自然になれない。
「み、神輿以外は上手く行ったみたいでーー…」
「うん…そうだね」
少し堅い雰囲気が、高波君の口調に現れている。
あぁ、何かもう……
「あのさ、高波君」
「え?」
「何か用があって私を此処に連れてきたんじゃない?」
私がそう言うと、高波君はあからさまに動揺した様子だった。
でも、このまま無駄な話を進めても仕方ない。
「あ、その、実はそうなんだ……」
そう言うと、流星は緊張から手持ち無沙汰になったと感じたのか、机の上にある缶ジュースを両手で握り締める。
そして、大きく深呼吸をした。
「俺、やっぱり神原さんの事が好きだ」
流星は自分で顔が赤くなっているのを感じながらも、ゆっくりと話す。
「最初は容姿が好きで告白したんだけど…文化祭実行委員を一緒にやって神原さんの事が一層好きになったって言うか、人が見てない所で頑張ってたり、暴虐姫って呼ばれてるのに本当は優しい所とか…兎に角もっと好きになったんだ! 良かったら付き合って下さい!!」
高波君は、それは本当に、神に願うかの様に顔を伏せながら言った。
前とは違う、本気さが伝わってくる。
だけどーー
「ありがとう。でも、ごめんなさい。実は私、今恋とかそう言うのに興味がないの」
「…………そ…っかぁ」
高波君は私の言葉を噛み締めるかの様に間を開け、天井を仰いだ。
「高波君には、私よりも相応しい人が居ると思う」
「そう、かな」
「うん」
短くも、私も返事を返す。だけど、段々それを無くなって行く。
「……態々ありがとう。此処まで来てくれて。そろそろキャンプファイヤーも終わるだろうし、俺、もう行くわ……」
流星は、少し半笑いで美術室から出て行った。
「………ふぅ~っ」
廊下から聞こえて来る、少し早めの足音が遠くなっていく中、一気に緊張と疲れが体に現れる。
癒しを求めるかの様に、葵は窓際へとキャンプファイヤーを見に近づく。
ユラユラと炎が、周りの影が揺れる。
窓を開ければ先程までしていた絵の具の様な特有な匂いが、木を燃やした煤けた匂いに変わる。
「何で私の事なんか……」
ガタッ バターンッ
「ッ!!??」
そう呟いた瞬間、隅にあった大きな絵が倒れ、葵は身を竦めた。
そこにはーー
「あ……お、おう。お疲れ」
「……」
体育座りをして、汗を垂れ流している、此処には来ないと言っていた不審者が申し訳なさそうに手を挙げていた。
「フンッッッ!!!」
「んごおぉぉぉっ……!!!」
……私が綺麗なボディブローを入れたのも致し方ない事だと思う。
俺が横っ腹を抑えながら学校に着くと、もう既に後夜祭の目玉であるキャンプファイヤーは始まっていた。
高校時代は来る事のなかった後夜祭。
夜の学校、部活が終わる頃にはよく見てた光景。それに見た事のない物が合わさる。
それを大学生になった今見ると、懐かしい物には見えない。何か変な感じだ。
「っと、それよりも葵は……」
懐かしさを感じている暇はないと、世理はキャンプファイヤーの近くまで寄る。
しかし、何分か探すが葵は見つからなかった。
「どこに行ったんだ?」
「あ、葵のお兄さん」
困っていると、環ちゃんが視界の隅から手を振って現れる。
「環ちゃん、お疲れ様」
「お疲れ様で~す、来ないかと思ってたんですけど、来たんですね」
「まぁ、ね。ちょっと色々あって…それよりも葵が何処に行ったか分かる?」
俺が聞くと、環ちゃんは少し言いづらそうに頰を掻く。
「あー……まぁ、分かります」
「どうしたんだ?」
「いえ…取り敢えず葵は学校の中に入って行きました。詳しくは分からないですけど」
なるほど…
「分かった、ありがとう」
「え、あ、ちょっと!」
「うん?」
「あ………いや、何でもないです。卒業したからって廊下は走っちゃダメですよ」
おー、まさかそんな事を注意されるとは。
「了解」
世理は敬礼すると、早歩きで学校の中へと向かった。それを見送る環の眉は、八の字に歪められていた。
昇降口から中へ入ると、文化祭の残骸が俺を迎え入れる。
フワフワな造花、教室に付けられた看板、廊下に落ちた紙吹雪。
何故だか心に穴が空いた様な、何かがこぼれ落ちたかの様な虚しい気分になる。
そんな懐かしさと空虚さを感じながら、世理は辺りを見回っていく。
「……ちょっとこれは、中々見つけられなくね?」
学校に誰もほぼ人が居ないとは言え、風嶺高校は6階建で、此処らへんでは中々大きい高校の1つでもある。
此処を走らないで探すとなると、結構な時間が掛かってしまうだろう。
(やっぱり少し走って探すか…)
そう思った瞬間。向かいの棟の窓。真っ暗な中、何かが動いた様な気がした。
(あそこは確か……)
***
「ごめん、こんな所まで」
「別に良いよ。高波君、改めてお疲れ」
「あ、う、うん! お疲れ!!」
そこは学校でも中々人が来ないであろう、美術室の中。2人は近くにある背もたれのない椅子へと座り、来る途中に買ったジュースの缶を開けた。
「ふぅ~……取り敢えずこれで終わったね」
「え、あ、あぁ」
会話が続かない、気まずい空気だ。
環と喧嘩していた時とは違う、自分の行動に後悔している様な事はない。だけど相手の気恥ずかしさに当てられ自然になれない。
「み、神輿以外は上手く行ったみたいでーー…」
「うん…そうだね」
少し堅い雰囲気が、高波君の口調に現れている。
あぁ、何かもう……
「あのさ、高波君」
「え?」
「何か用があって私を此処に連れてきたんじゃない?」
私がそう言うと、高波君はあからさまに動揺した様子だった。
でも、このまま無駄な話を進めても仕方ない。
「あ、その、実はそうなんだ……」
そう言うと、流星は緊張から手持ち無沙汰になったと感じたのか、机の上にある缶ジュースを両手で握り締める。
そして、大きく深呼吸をした。
「俺、やっぱり神原さんの事が好きだ」
流星は自分で顔が赤くなっているのを感じながらも、ゆっくりと話す。
「最初は容姿が好きで告白したんだけど…文化祭実行委員を一緒にやって神原さんの事が一層好きになったって言うか、人が見てない所で頑張ってたり、暴虐姫って呼ばれてるのに本当は優しい所とか…兎に角もっと好きになったんだ! 良かったら付き合って下さい!!」
高波君は、それは本当に、神に願うかの様に顔を伏せながら言った。
前とは違う、本気さが伝わってくる。
だけどーー
「ありがとう。でも、ごめんなさい。実は私、今恋とかそう言うのに興味がないの」
「…………そ…っかぁ」
高波君は私の言葉を噛み締めるかの様に間を開け、天井を仰いだ。
「高波君には、私よりも相応しい人が居ると思う」
「そう、かな」
「うん」
短くも、私も返事を返す。だけど、段々それを無くなって行く。
「……態々ありがとう。此処まで来てくれて。そろそろキャンプファイヤーも終わるだろうし、俺、もう行くわ……」
流星は、少し半笑いで美術室から出て行った。
「………ふぅ~っ」
廊下から聞こえて来る、少し早めの足音が遠くなっていく中、一気に緊張と疲れが体に現れる。
癒しを求めるかの様に、葵は窓際へとキャンプファイヤーを見に近づく。
ユラユラと炎が、周りの影が揺れる。
窓を開ければ先程までしていた絵の具の様な特有な匂いが、木を燃やした煤けた匂いに変わる。
「何で私の事なんか……」
ガタッ バターンッ
「ッ!!??」
そう呟いた瞬間、隅にあった大きな絵が倒れ、葵は身を竦めた。
そこにはーー
「あ……お、おう。お疲れ」
「……」
体育座りをして、汗を垂れ流している、此処には来ないと言っていた不審者が申し訳なさそうに手を挙げていた。
「フンッッッ!!!」
「んごおぉぉぉっ……!!!」
……私が綺麗なボディブローを入れたのも致し方ない事だと思う。
0
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる