49 / 49
第5章 なんでもない!
第49話 2人の後夜祭
しおりを挟む
「悪い事をしたと思っています。本当です」
「本当に悪い事をしたと思っていますか? 誠意が感じられないんですけど?」
美術室の床は今の季節と比べると冷たく、冷や汗をかいていた俺の膝とおでこが更に冷えていくのが分かる今日この頃。
何故俺が美術室に居たのか、それは数分前に遡るのだが簡単な話。
葵達がジュースを買っている間に、俺が美術室へ来て鉢合わせた。俺は部外者だから通報されるのもマズイと隠れる、出るタイミングを失う……それでこの惨状である。
「お、お前…これ以上俺に何を求めるんだよ?」
「………骨」
「待って!! 待って待って!! 今何やら不安な単語が聞こえたんですが!?」
俺が悲鳴の様な反論をすると、葵は大きく溜息をついて椅子へと座った。
「…来てたんですね?」
葵が穏やかに眉を八の字に変えてるのを見ると、どうやら許して貰った様である。
俺は立ち上がると、葵の近くの椅子へと座った。
「1度来ておいた方が良いかなって思ってな」
「…随分急ですね?」
「まぁ…その、色々思う所があって……その、何だ……」
あぁ…なんて言えば良いんだ?
来たは良いものの、何を話したら良いのか分からない。考えてなかったというのが正しいが…
「文化祭、どうだった?」
俺が普通な質問を投げ掛けると、葵は少しジッと俺の顔を見た後に虚空を見上げ、目を閉じながら答えた。
「楽しかったですよ? 色々な事はありましたけど充実してました」
「充実、か?」
「……はい。まだ一年生の内でこんな経験が出来たのは良かったと思います。将来何をするにしても」
「へぇ……」
凄い。
俺は率直にそう思った。あの時の俺はそんな感想が持てた覚えがない。それなのに葵は……
「次は私の質問です。何で貴方はあの時、断固して文化祭に来なかったんですか?」
葵は世理に向き直り、問い掛ける。
「……もうこれ以上、葵達の文化祭に参加するのは良くないと思ったからだ」
「何でですか?」
「……今の文化祭は葵達がやるべきだ。俺が入っていい訳じゃない。神輿でも手を出し過ぎた。だからもうこれ以上は居られない。そう思ったんだ」
言った。言ってしまった。
これを聞いて、葵はどんな事を思うだろうか。最初は正しい事だと思っていたのに、今となっては馬鹿の様に思える。
葵は、俺の言葉を飲み込んだかの様に深く、深く間をおいて言った。
「そうですか」
一言。
それに俺は思わず目を見開いて葵を見た。
「何ですか?」
「いや…それだけか?」
それが俺の今の疑問だった。
俺はてっきり馬鹿にされるものだと思っていた。愚かな質問だ、とかそう言うのを言われるものだと思っていた。
それなのにーー
「どう言う意味の問いか分かりませんが……人の性格は十人十色。その人によって気になる事は違いますし、悩む事も十人十色だと私は思っています。別になんでそんな事でとかは思ったりしませんよ」
葵は哀愁漂わせながら笑った。
俺は、葵はまだ高校生なんだから自然と子供だと思い込んでいた。俺が高校生の時なんて自分の事ばかりで、他の人を思いやる気持ちなんて全然なかったから。
でも違った。
葵は、人を思いやる気持ちを持っている。
俺とは違ったって事。
「はは…」
「…………私…昔から人と仲良くするの怖いんです」
俺が自虐気味に笑っていると、突然葵が口に出す。
「…怖い?」
「はい。仲良くなる事自体が怖い訳じゃありません………出会いもあれば別れも来ます。仲良く笑い合う事もありますけど、相手を傷つけてしまう事もあります。私にとって仲良くなるのは、それなりに覚悟がいる事なんです」
そう言う葵は、俺にとってとても子供じみている様に見えた。小さな子供が、涙目で訴えかけているかの様な……
ポン ポン
「え……」
世理は、優しく、赤ん坊の頭を撫でるかの様に葵の頭を撫でた。
それに葵は、目を見開いて世理を見上げた。
「あ…わ、悪い!」
世理は葵の頭から素早く手を離し、飛び退いた。
「い、いえ…」
気まずい、だが、少し心地良い様な空気が辺りに満ち、静寂が続く。
自分の顔が熱くなっているのを感じて、自然と言葉が詰まる。
そんな中ーー
ヒューッ パンッ
と、美術室の目の前で火の花が咲いた。
「あ…お、終わりみたいですね」
後夜祭の終わりの花火が打ち上げられ、葵は立ち上がる。
「ん、あぁ……行くか?」
「…はい」
世理の問い掛けに小さく頷き、葵は後を追う様に、美術室を出る。
決して、人は相手の感情を正確に読み解く事は出来ない。
それはーー
(あ、あれ? 私なんで…)
(何で俺…)
自分の心も同じ。
「本当に悪い事をしたと思っていますか? 誠意が感じられないんですけど?」
美術室の床は今の季節と比べると冷たく、冷や汗をかいていた俺の膝とおでこが更に冷えていくのが分かる今日この頃。
何故俺が美術室に居たのか、それは数分前に遡るのだが簡単な話。
葵達がジュースを買っている間に、俺が美術室へ来て鉢合わせた。俺は部外者だから通報されるのもマズイと隠れる、出るタイミングを失う……それでこの惨状である。
「お、お前…これ以上俺に何を求めるんだよ?」
「………骨」
「待って!! 待って待って!! 今何やら不安な単語が聞こえたんですが!?」
俺が悲鳴の様な反論をすると、葵は大きく溜息をついて椅子へと座った。
「…来てたんですね?」
葵が穏やかに眉を八の字に変えてるのを見ると、どうやら許して貰った様である。
俺は立ち上がると、葵の近くの椅子へと座った。
「1度来ておいた方が良いかなって思ってな」
「…随分急ですね?」
「まぁ…その、色々思う所があって……その、何だ……」
あぁ…なんて言えば良いんだ?
来たは良いものの、何を話したら良いのか分からない。考えてなかったというのが正しいが…
「文化祭、どうだった?」
俺が普通な質問を投げ掛けると、葵は少しジッと俺の顔を見た後に虚空を見上げ、目を閉じながら答えた。
「楽しかったですよ? 色々な事はありましたけど充実してました」
「充実、か?」
「……はい。まだ一年生の内でこんな経験が出来たのは良かったと思います。将来何をするにしても」
「へぇ……」
凄い。
俺は率直にそう思った。あの時の俺はそんな感想が持てた覚えがない。それなのに葵は……
「次は私の質問です。何で貴方はあの時、断固して文化祭に来なかったんですか?」
葵は世理に向き直り、問い掛ける。
「……もうこれ以上、葵達の文化祭に参加するのは良くないと思ったからだ」
「何でですか?」
「……今の文化祭は葵達がやるべきだ。俺が入っていい訳じゃない。神輿でも手を出し過ぎた。だからもうこれ以上は居られない。そう思ったんだ」
言った。言ってしまった。
これを聞いて、葵はどんな事を思うだろうか。最初は正しい事だと思っていたのに、今となっては馬鹿の様に思える。
葵は、俺の言葉を飲み込んだかの様に深く、深く間をおいて言った。
「そうですか」
一言。
それに俺は思わず目を見開いて葵を見た。
「何ですか?」
「いや…それだけか?」
それが俺の今の疑問だった。
俺はてっきり馬鹿にされるものだと思っていた。愚かな質問だ、とかそう言うのを言われるものだと思っていた。
それなのにーー
「どう言う意味の問いか分かりませんが……人の性格は十人十色。その人によって気になる事は違いますし、悩む事も十人十色だと私は思っています。別になんでそんな事でとかは思ったりしませんよ」
葵は哀愁漂わせながら笑った。
俺は、葵はまだ高校生なんだから自然と子供だと思い込んでいた。俺が高校生の時なんて自分の事ばかりで、他の人を思いやる気持ちなんて全然なかったから。
でも違った。
葵は、人を思いやる気持ちを持っている。
俺とは違ったって事。
「はは…」
「…………私…昔から人と仲良くするの怖いんです」
俺が自虐気味に笑っていると、突然葵が口に出す。
「…怖い?」
「はい。仲良くなる事自体が怖い訳じゃありません………出会いもあれば別れも来ます。仲良く笑い合う事もありますけど、相手を傷つけてしまう事もあります。私にとって仲良くなるのは、それなりに覚悟がいる事なんです」
そう言う葵は、俺にとってとても子供じみている様に見えた。小さな子供が、涙目で訴えかけているかの様な……
ポン ポン
「え……」
世理は、優しく、赤ん坊の頭を撫でるかの様に葵の頭を撫でた。
それに葵は、目を見開いて世理を見上げた。
「あ…わ、悪い!」
世理は葵の頭から素早く手を離し、飛び退いた。
「い、いえ…」
気まずい、だが、少し心地良い様な空気が辺りに満ち、静寂が続く。
自分の顔が熱くなっているのを感じて、自然と言葉が詰まる。
そんな中ーー
ヒューッ パンッ
と、美術室の目の前で火の花が咲いた。
「あ…お、終わりみたいですね」
後夜祭の終わりの花火が打ち上げられ、葵は立ち上がる。
「ん、あぁ……行くか?」
「…はい」
世理の問い掛けに小さく頷き、葵は後を追う様に、美術室を出る。
決して、人は相手の感情を正確に読み解く事は出来ない。
それはーー
(あ、あれ? 私なんで…)
(何で俺…)
自分の心も同じ。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです