じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ

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第2章 開店

第32話 良かったらですけど

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「これがウチのぎゅーです」
「………」


 ぎゅーの元に着くと、お客さんは固まって言葉を失っていた。

 気持ちは分からなくもない。


 ンンモォオオォ! フシュ~ッ!!


 盛大な鳴き声、そしてその後の鼻息で近くにある草が飛び交う。汗を拭いながら乳搾りしている比奈がオモチャの様であるこの光景は、中々見慣れる事が出来ない。


 ぎゅーってどれくらいまで大きくなるんだろ。マジで。なんか変な病気じゃないよね?


「今日もありがとうございました」
 ンモッ


 比奈がぎゅーのお腹辺りを撫でながら声を掛けると、それに反応してぎゅーも声を上げる。


「アレって……牛、なんですよね?」
「他に何に見えます?」
「まさか、アメリカで出た魔物……とか?」
「はっはっはっ!」
「は、ははははっ、そ、そうですよね? 普通の牛ですよね!」


 遠からずも、ウチの『異世界の扉』を見つけそうな鋭い意見で肝を冷やす。笑って誤魔化したが、コレが普通の牛に見えるなら病院に行った方がいいレベル。


 誤魔化し……


「はは、ははは……」


 切れてないよなぁ。


 俺達が不気味に笑い合い、それをジッと見つめるメマという謎の空間に気付いた比奈が俺の隣へとやって来た。


「お客さん?」
「ん? あ、あぁ」


 比奈に続き、俺も小声で返すと比奈は綺麗な笑顔でお客さんと向かい合った。


「いらっしゃいませ、KIROへようこそ。こんな格好で出迎えてしまって……申し訳ありません」
「あ、いえいえいえ! 全然良いですよ!」
「だって、こんな汚くなっちゃって……」
「お仕事を頑張った証拠じゃないですか!」


 おぉ。なんという自然な会話。さっきまでの空気が嘘の様だ。


「店員さんはどれぐらい乳搾りをされてたんですか?」
「えっと、1回1時間を仕事の合間をみて3回ですね」
「え!? 乳搾りってそんな長い時間するんですか!?」


 ウチのぎゅーは特別だからねぇ。


「そうですね……2~3ぐらいは絞れますね」
「あ、でもこの大きさとしては極端に少ないのかな?」


 ん? 極端に少ない? それは何か勘違いをしているんだと思う。


「お客さん、何Lだと思ってます?」


 俺が聞くと、お客さんは首を傾げながら答えた。


「20~30Lなんですよね?」
「あー……それは普通の牛の話ですね。ぎゅーは200~300L牛乳を出すんですよ」
「びゃっ!!??」


 そう言うと、目を白黒させ、チラチラと俺の顔とぎゅーを往復させるお客さん。

 でも、この大きさで200~300は少ない方ではあると思う。俺なんて、駄菓子感覚で食べられそうな大きさをしているのだから。


「……そうだ。お客さん、ぎゅーの乳搾りとかやって
「え、い、良いんですか!?」
「え? あ、はい」


 俺は前のめりで返事をするお客さんから少し距離を取りながら思う。

 まさか食気味で承諾するとは思わいもしなかったな。俺だったら、こんな大きさの牛の乳絞れって言われたら出来ない。


「実は私、動物とか好きなんですよ」


 お客さんは比奈とメマに手伝われながら、汚れない様にカッパを上から着込む。そして俺と共にぎゅーへと近づく。


「動物が好きだって言っても、結構限度があると思うんですけど。誘った自分が言うのもなんですが」
「ははっ! そうですね……でも、動物と触れ合うのだけは妥協したくないんです。死ぬまでに色んな動物を見てみたい、触れてみたいんです。これが私の子供からの、些細な夢であったりするんです」


「って、は、恥ずかしいーっ! こんな歳なってもこんな事言うとか!!」と、頬をほてらせながらもお客さんはドンドンとぎゅーへと近づいて行く。


「良い、夢ですね」


 俺が褒めると、お客さんは呆れた様に肩をすくめた。


「そうですか? もう32にもなって妻も居ない、動物園に入り浸っている男なんですよ?」
「それでも、ですよ」


 それを言ったら俺もこの歳になってカフェを始めた、彼女も全然居ない、家に引きこもる映画オタクだ。お客さんはまだマシな方だろう。


「そ、そうですかね……」
「はい」

 お客さんは少し眉を八の字にして笑いながら恐る恐る乳搾りをした。そして、その勢いよく噴射される牛乳の匂いでまたも目をトロンっとさせるのだった。


 ____________


「あのキラキラしてた………だ、大丈夫なのか?」


 良かったね。メマがオススメに枝豆も出してくれて。俺はてっきり、初対面の人だから言わないかなぁって思ってたんだけど。


 無事に乳搾りを終わらせたお客さんは、カフェで枝豆を前に睨み合いを続けていた。


 朝露って説明したけど、やっぱり納得いかないよね。


「まだたべないの……? メマがつくった枝豆……」
「あ、う、うん。今食べるよ?」


 メマに背中を押され、お客さんは枝豆に『岩塩』を振り掛けた。そして口に運ぶ。


「ーーーーーッ!!!」


 言葉にもならないようだ。




 それから枝豆を堪能したお客さんはカウンターで仰け反りながら、呟いた。


「はぁ、本当に此処は良い所ですね。食べる物は美味しいし、空気も美味しい。上司からの圧力もない……久々の有意義な休みでした」


 お客さんは黄昏ているのか、呆れるかの様に笑う。
 上司からの圧力、か。あったあった。「もっとやってけよ」と言わんばかりに挨拶を無視して舌打ちする奴。


 まぁ、俺はそれを無視して家にルンルンで帰ったのだが。


 ただ、それが無理な人も居るんだよなぁ……あ、そうだ。


「良かったらですけど、この店で働いてみませんか?」
「へ?」


 俺は思っていた事をもう既に口に出していた。


「哲平さん、本気?」


 比奈に問いかけられ、俺は一拍置いた後。


「ーーまぁ、結構本気だ。嫌な仕事を続けていても仕方がないだろ?」


 と答えた。
 唐突かもしれないが、嫌な仕事をやってても結局は続かない。自分が続けようと思えないからだ。


「此処ならお客さんの好きな動物が居るし、俺はそんなお客さんにぎゅーのお世話を頼みたいと思った。どうですかね?」


 聞くと、お客さんは目を瞑って考えているのか数秒後大きく息を吐いて答える。


「お誘いありがとうございます。ですが、すみません」


 ま……そうだよな。


「今すぐとはいきませんので、準備が整ったら来させて貰います」


 ………ほ?


「え、本当にですか?」
「此処にいたら楽しそうですからね」
「ぶっちゃけ、給料とか低くなりますよ?」
「お金も時間がなければただの物と変わらないですからね。それに此処の牛乳と枝豆、また口にしたいですしね!」



 まさか、まさかである。





 未来の飼育員GETだぜ。名前知らんけど。
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