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第8章(3)紫夕side
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しおりを挟む幸せにしてやる、って決めたのに、逆に気ぃ遣わせてどうすんだよっ……。
雪は何も知らない。
倒れたあの日から目覚めるまでの間の出来事は、何も知らないんだ。
口にはしなかったが、この家を「ここは何処なんだろう?」って表情で見渡してた。
着替えとか、雪の私物を渡した時も、驚いたような不思議そうな表情をしながらも、ただ「ありがとう」って受け取った。
きっと、疑問に思って、俺に聞きたい事があったのに……。俺の様子が変だから、不安を抑え込んで、さっきは何も言わないでいてくれたんだ。
「……話して、やらねぇとな」
これからもずっと一緒に生きていく。
誰にも渡したくないし、絶対に離さないーー。
そう決めたのだからしっかり話して、しっかり向き合っていかなきゃいけない、って俺は思った。
……
…………。
とは、決めたものの……。
やはり、さっきがさっきだっただけに、気不味い。
あの雪がせっかく自分からエッチに誘ってくれたのに……。途中、あれだけ盛り上げておいて最後までやらない、なんて……、……。
風呂から上がって、着替えて、脱衣所を出られないまま時間だけが過ぎていく。
けど、いつまでもそうしている訳にもいかない。俺は自分の顔を両手で叩いて気合いをいれると、脱衣所を出てリビングに戻った。
するとーー……。
「!……あ、紫夕!やっと来た!」
ーー……っ、え?
明るい声と、何よりもその愛らしい姿を目にして俺は固まる。
不思議だ。一瞬で、さっきまでのズーンッとしていた気持ちは吹き飛んでいた。何故なら……。
「勝手に台所と食材使っちゃったけど、大丈夫だったかな?簡単に朝ご飯作ったんだけど……」
そう言って、俺に少し首を傾げながら尋ねる雪は……。長く伸びた髪をポニーテールにして、ブカブカのシャツにブカブカの裾捲りズボン。そこに+エプロンを着用した、まさに男の夢とロマン(?)が詰まりまくった姿だったのだ。
しかも、ブカブカのシャツとズボンは明らかに俺のもので、世間で言う彼シャツ姿。更に髪をポニーテールにしてる水色のリボンは、俺が雪にホワイトデーにあげたお菓子に付いていた例のあれだ。
そんな、合わせ技に合わせた技を重ねたその姿は俺の胸をドストライクに貫いた。
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