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第14章(4)紫夕side
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しおりを挟むけど、雪の視線はすでに魚にロックオン。
その横顔を見て、こりゃダメか、と諦めた瞬間。また俺の目の前で驚くべき事が起こる。
何やらゴポゴポッと音がすると思って川に視線を移すと……。なんと、川の水がまるで洗濯機の水のように渦を巻き始めた。
そして、それが次第に勢いよく、大きく渦巻いたと思ったら……。パシャーン!と水柱が上がって、その先から噴水で噴き上げられたかのように跳んだ魚が、次々と岸に向かって落ちてくるではないか。
……。へ、へぇ~。
なるほど、こういう捕り方もあるのか。
岸に打ち上げられた魚を集めて、また俺に「褒めて褒めて!」と言わんばかりに目を輝かせて見つめてくる雪の頭を撫でながら、驚きを通り越して苦笑いが漏れる。
でも、それは決して悪いものではなかった。
確かに驚いてる。魔物としての雪を知る度に、驚きの連続だ。
けど、以前と違うのは、
恐怖は感じない事ーー。
むしろ知れる度に新しい雪を発見出来て、嬉しいし、可愛くて、愛おしいんだ。
そして、今の雪にそんな感情を抱けるようになった俺には、ある考えが浮かぶ。
それは、雪と木陰で昼寝をしようとした時の事。
木にもたれた俺が膝を叩いて、一緒に寝ようと誘った時の事だ。
「雪!ホラ、こっち来い」
すると、雪は嬉しそうに駆け寄って来て、コロンッと寝転ぶと俺の膝の上に頭を乗せて寛ぎ始めたんだ。
そんな姿を見ると、別に以前の雪と大して変わらない。
仮に姿が魔物だとしても、大きさはかなり違うかも知れないが犬や猫とさほど変わらないんじゃないか?って思ったんだ。そしたら……。
「……こんな風に一緒に暮らせたら、殺す必要なんてないんじゃねぇか?」
そんな考えが、頭に浮かんだ。
そうだ。生まれた時から魔物が居て、物心ついた時から、魔物=敵。殺すのが当たり前の世界だった。
けど、今更その考え自体が間違いなのでは?って、俺は思ったんだ。
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