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第5章(2)アカリside
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しおりを挟む「寒いよな?
……あ、そうだ!」
彼の言葉に、誰と話しているの?と疑問に思いながらも様子を伺う。
すると彼は「ほら、おいで」と、自分の正面にある小さなダンボール箱から黒い子猫を取り出し、脱いだスーツの上着で優しく包んで抱き締めたのだ。
「少しは、あったかいかな?」
不安そうに尋ねる彼に、腕の中の子猫は返事をするように「みぃ~」と可愛らしく鳴いた。
……。
狭い軒下。
子猫が入っていたダンボールが雨をしのげるのが精一杯で、彼は相変わらず雨に濡れていた。
それなのに……。
「あ、僕が抱いてたら濡れてしまうね。
……これで、いいかな?」
彼はそう言って、子猫をスーツの上着に包んだままダンボールに戻すと……。
おそらく自分のものである折り畳み傘を、子猫の入っているダンボールに雨がかからないよう、さした。
子猫の入っているダンボール箱の中には、サンドイッチ用のケースをお皿代わりにして注がれたホットミルク。
私のお店で購入したホットミルクは、この子猫の為だったのだと分かる。
高価そうなカッコいいスーツ姿なのに、上着を子猫に貸しちゃって……。
薄着なのに自分は雨に濡れて、ズボンの裾も靴も泥水まみれで……。
おまけに傘まで貸しちゃうなんて……。
どんな小さな命も平等に扱う。
自分の事よりも、いつも他人を気遣う優しい心。
私の、大好きなヴァロン。
「っ……ホント、バカだよ。……ッ」
思わず口から出た言葉と共に、私は距離を一気に縮めると自分の傘の中へ彼を入れた。
愛おしい気持ちが溢れ出して止まらない。
自分に降り注いでいた雨が傘に弾かれる気配に「え?」と驚いたように、顔を私の方に向けて見上げる彼。
その見た目も、雰囲気も……。
私を忘れてしまっている瞳も表情も別人のようなのに……。
私の心は、貴方が好きだと叫んでた。
……
…………。
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