夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

☆リサーナ☆

文字の大きさ
41 / 185
第22章(1)スズカside

1-4

しおりを挟む
***

「奥方様がご到着されました!」

到着予定のほぼ14時ピッタリに、奥様はこのお邸にやって来た。
使用人長の言葉に、通り道の左右に立ってお出迎えをする私達は「いらっしゃいませ!」と声を揃えて深く頭を下げる。

一体どんな方だろう?

きっとみんなそう思っていたが、お声がかかるまでは顔を上げてはならない。
ドキドキしながら待っていると、私の目の前を奥様が通り過ぎる。
すると、その瞬間にフワッと香る甘い匂い。

香水?
いや、違う。これは、優しいミルクのような……。
そう、甘いお菓子の匂いだ。

その匂いを嗅いだら、なんだか少し緊張が和らいだ気がした。
そして、これが奥様の香りなのだと思ったら、何故かとてもお顔を見てみたくなった。


「スズカ、こちらへおいでなさい」

「はいっ」

使用人長に呼ばれて、私は顔を少し伏せたまま奥様の元へ足を進める。

「奥様、この者が本日より専属でお世話を致します。何かございましたら遠慮なくお申し付け下さい。
……スズカ、ご挨拶を」

「はい。
ようこそいらっしゃいました、奥様。スズカと申します。至らぬ面があると思いますが、全力でお仕え致します。どうぞ、よろしくお願い致します」

「あ、そんな……固くならないで下さい。
はじめまして、アカリと申します。どうぞ、顔を上げて下さい」

私が挨拶をすると、奥様はその香りと同じくらい優しい声で返事を返してくれた。


顔を見なくても、雰囲気で分かった。
決して派手ではなく、道端に咲く一輪の花のような……。けど、地味でもない。
その美しさに、見る人は笑顔になり、きっと優しい瞳で見つめてしまうーー……。

その瞬間、私の頭の中にはマオ様が視線の先に見ている人物が想像出来た。


ゆっくりと顔を上げた先に映る、奥様。

ーーえっ?

胸がトクンッと暖かく脈を打つ。
目が合うと、恐れながらも奥方様もきっと私と同じ気持ちであろう目を見開いていた。

黒髪に、黒い瞳。
私と奥様は、容姿がとてもよく似ていたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...