紅い嘘

白鴉

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ただ生きているだけということ

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 耳鳴りがした。まだ夢の中なのだろう、現実に戻るには少し身体が重く感じる。後、目も。だがこの感じからして起きなければいけないのだろうと思い、現実の世界へ目を開けた。
 部屋は少し暗かった。南向きではないのだから、暗くても仕方がないだろうと自分に言ってみたが、こんな自問自答を続けていれば、また眠ってしまうと思い、起き上がってカーテンを開け、時計を見たが、まだ5時だった。
 だからなんだ、5時だから何なんだと暗唱しまくった5分後。いや正確には3時間と5分後、私は再び目を覚ました。
 この短い時間の記憶がない。(本当は寝ていたのだが)記憶がないのだ。俺は何者かにこの僅かな時を奪われたのだろうか(いや本当は寝ていたんだよ)。(もう一度言うけど)困惑と時間軸の狭間にて(だーかーらー)謎の使者によって行われた(寝ーてーいーたー)大いなる出来事を忘れてしまっているのだろうか(んーだーよー)。否、そんなことはあるはずがない。絶対にあるはずだ、思い出せ、思い出すんだ、伝説の勇者(かもしれない)レイン(俺)よ!!
「だーかーらー、夢だって言ってんの!!いい加減現実見ろバカ(怒)」
 耳もとで金切声が聞こえた。声からして激しく激情・激怒していように思える。と同時か少し遅れてみぞおちに向かって拳がストレートで入った。入り方はゲームなら『エクセレント!!』ってレベルだから当然痛い。目は完全に覚ましたけど。
 「(*`Д´)ノ!!!全然待ち合わせ場所に来てくれないから心配して家に来てみたら、鍵は空いてるし、中2病全開だし、おまけに私の話は全く聴こえてないみたいだし。まっ、痛かったでしょうけれど一発、ぶちこんどいてよかったわ。これから習慣化しようかしら。」
 オォ、コワッ!なんて言えるはずもなく、軽く謝った。けっこう怒っているとばかり思っていたが、案外そういうわけでもなさそうで、喜怒哀楽を3で割ったような顔で斜め下を見ていた。
 「咲ってかわいいな(ボソッ)。」
 「朝から止めてよ、調子狂うから。それより早くしないとゼミ、遅れちゃうよ。」
「あぁ、そうだった。すぐ準備する。」
 無地の赤Tシャツと紺色ジーパンに着替え、教科書達が犇めき合うリュックを閉じる。スニーカーはズボンと変わらず、あまり色目立ちはしない。ドアを開け1階に降りると、咲と男が2人待っていた。1人は知り合い、1人は不明。
 「もう、遅い」
 「ごめんごめん、色々……寝起きだったし」
 「はぁーまったくもう」
 「朝から彼女が牛になってるぞ、黒川」
 「みたいだな」
 「誰のせいだと」
 「俺のせいですごめんなさい」
 「其より………後20分だけど」
 「嘘?」
 「走れ!!」
 知らない誰かの声。しかし骨の投げられた犬程に4人全員が走る。
 10分後。
 「危ねー、間に合った」
 「久し振りに走ったわ、私」
 大学の1教室に入り、安堵に言葉が溢れる。息があがっているのか、血の味に喉が啜む。何と言うか、鮪みたい。
 残り2人は2限かららしい。道理で走りながらナゲット食っていた訳。
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