紅い嘘

白鴉

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ただ生きているだけということ2

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 きーんこーんかーん。
 「それでは以上、レポートは次の授業に提出するように」
 教授は早々と退出、他学生は疎らに教室を抜けていく。僕らは、いや珍しくも2限は変わらない為、椅子に腰を下ろす。外は未だ晴れ、桜の幹を鶯谷が跳ぶ。
 「静かだね」
 「だね」
 「どうしよっか」
 「かな」
 「イチャイチャしよっか」
 「うん………うん?!」
 振り向くと神谷が敬礼、挨拶している。後方で先程見た知らぬ人が立ち、手提げ鞄に苦笑を飛ばす。体格が良く、顔は同調。ラグビー部を思わせ振りか、穏やかな表情に正反対すら思う。
 「なんだ神谷か、一瞬惑わされそうになった」
 「そのまま始めても俺は」
 「やらない」
 咲は呆れる、神谷は変わらない。昔から変化無し。
 神谷、本名神谷雅人。小学校どころか幼少からの付き合い、大学迄離れたことのない親友寄り腐れ縁。同時に咲は幼なじみ、よって三角関係みたいな。咲が神谷の好きの対象という理論は外れるけれど。
 「言い忘れてた」
 「何を?」
 少し下がり知らぬ人の肩を叩く。
 「紹介するよ、俺の友」
 「白川縫です。と言っても一昨日初めて神谷君に会ったばかりだけど」
 体つきに対して顔に合う爽やかな声色が響く。照れ臭そうに笑う顔は癒しとほのぼの鮮やかに。モテるタイプの一種、『俺!!物語』の主人公。
 「どうして神谷と」
 「いやぁ実はそれが」
 「後々話すよ」
 2人してニヤケ顔を連ねる。咲の前ではちょっと……ということなのだろう。彼が僕なら、解らなくもない。
 「それはそうと、2限は」
 「此処なのよ、俺達も」
 「なるほど」
 「加えて横座るから、イチャイチャは」
 「しないって」
 「冷徹過ぎると彼女泣いちゃうよ?」
 「此処では、だよ。場ぐらい判ってます」
 此れも変わらない、昔から。


 2限が終わり、早めの昼食を。向かい校舎の食堂で、4人囲みに座る頃。心理学専門の教授が近付いて、咲を見、微笑む。
 「隣、いいかね」
 「どうぞ」
 咲は内心驚きながらも、椅子を僕に寄せ、スペースを開ける。
 「ありがとう」
 「いえいえ」
 「あまり話したことのない学生方だったのでね、一度は話してみたいと思ったのだから」
 外見、常人の様から見立て違いでなければ。突出した変人の笑みは、首元に濁りを漂わせる。
 「確かにあまり関わりが無いですからね、此方から以外は」
 「そ、そうね。たまには教授と話すのも」
 「俺は別に問題ない、ぞ」
 「僕もだ、大丈夫」
 少なからず3人共々動揺し、教授は相変わらずニコニコ。俺に至っては腹の中迄心音が鳴り響く。
 「そーれでー、話とは」
 「其がいざ話すとなぁ……」
 「「「「……………………」」」」
 全員して教授を向く。些細な事が単位に、と思っているのか。無言表情冷や汗噴き出す。
 「忘れてしまったよ」
 お笑い番組並みに項垂れ、危機を逃れた鼠と化す一同。僅か経ち、邪魔したねと教授が立ち去ってしまう後、ホッと息を整えるは僕のみではなさそうだ。
 「なんか、疲れた」
 「疲れない人いるのか、あれ」
 「いたら師匠と呼ぶよ、僕」
 小1時間の昼食が、深夜の職務質問位危ない。
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