元婚約者の悪あがき……私の幼馴染の公爵令息の前では通じない

ルイス

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1話 婚約破棄と救い

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 私はその日、婚約者のナバット・アレクセイ侯爵令息に呼び出されていた。


「失礼致します」

「ああ、メアルか……そちらのソファに座ってくれ」

「はい、畏まりました」


 私は言われた通りにソファに腰を掛ける。ナバット様は何か神妙な顔つきになっていた。


「ナバット様……用件はなんでしょうか?」

「ああ……実はメアルに話があったのだが」

「はい」

「私と婚約をしてどのくらいになるだろうか?」

「そうですね……そろそろ、半年くらいになると思いますけど」

「そうだったか……」

「?」


 妙な会話が続いている……ナバット様は一体、何が言いたいんだろうか。

「ナバット様、話の意図が見えて来ないのですが……」

「ああ、そうだったな。済まない。単刀直入に言うと私はお前との婚約を破棄したいのだ」

「えっ……? 婚約破棄?」

「そういうことだ」


 まさかのナバット様からの言葉……呼び出しを受けた時に大事な話にはなるだろうと思っていたけれど、まさか婚約破棄を言い渡されるなんて。

「な、なぜでございますか……!? なぜ婚約破棄を……」

「私は別に好きな女性が出来たのだ。その者と一生を過ごしたいと思っている。それが理由だよ、メアル」

「ナバット様……そんな理由で……」

「そんな理由とはなんだ、そんな理由とは。婚約破棄には十分な理由であろう?」


 そんなわけはない。他に好きな人が出来たという理由で婚約破棄出来れば、貴族の間で婚約破棄は物凄く横行しているだろう。でも、実際はそんなことはない。自制している人が多いということだ。

「ナバット様……それは浮気に近いのでは?」

「そんなことを知ってどうする? 現実を見てくれ、メアル。私は今後、お前を愛することは出来ないのだ。婚約破棄をしてもらう以外に解決策はあるまい」

「……そんな……」


 ナバット様の乾いた言葉からは、罪悪感の欠片も見えなかった。ただ、この人には何を言っても無駄たという直感が働くだけ……彼はおそらく以前から浮気をしていたに違いない。証拠はないけれど……。


「そういうわけだ、メアル。済まないが婚約破棄に同意して貰いたい」

「……」

 私は何も答えなかったけれど、その後の手続きは強引に進められてしまった。私は彼の住む屋敷から追い出され、書類なども後日、ウィンドウ伯爵家に送る手筈となったのだ。

 信じられない……まさか、こんなことが起きてしまうなんて。


--------------------------


「メアル、大変な目に遭ったな……だが、お前が気に病むことではないぞ?」

「そうよメアル。自分を責めたりしないでね」

「お父様、お母様……ありがとうございます……」


 屋敷に戻った私だけれど、お父様達は私を責めることはしなかった。身体はまだ差し出していなかったけれど、傷物令嬢になってしまったのに……。私は私室でうな垂れている。


「はあ……どうしたら良いのかしら、これから……」

「お嬢様……」


 メイド達も私の心配をしてくれているけれど、心が晴れなかった。今後、出席するであろうパーティーでも、しばらくは好奇な目で見られてしまうのだろうか。なんだか恐怖を感じてしまうわ。


「お嬢様、1つ朗報があるのですが……お聞きいただいてもよろしいですか?」

「どうかしたの?」

「はい、先日、リューガ・サンドフ公爵令息様と会うことが出来まして。お嬢様のことを気になさっておられました」

「リューガが……?」


 リューガ・サンドフ公爵令息と言えば、私と同じ17歳の公爵家の跡取りだ。幼馴染の関係にある。

「一度、お会いになられては如何ですか? 良い気分転換になるかと思われますが」

「なるほど……そうかもしれないわね」


 リューガと久しぶりに会う、か。それも良いかもしれない。私がナバット様と婚約してからは、会えない日々が続いたしね。今なら、気兼ねなく会えるのだし。
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