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1話 婚約破棄

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「レオーネ、済まないが私との婚約はなかったことにしてもらおう」

「ど、どういうことでしょうか……? ビクティム様……?」


 私はオルカスト王国の侯爵であらせられる、婚約者のビクティム様に呼び出され婚約破棄を告げられてしまっていた。どうして……? 私の頭の中に浮かんだ最初の言葉はそれだ。


「わ、私が何か大きな問題を起こしたのでしょうか……?」


 私は必至な気持ちで尋ねる……ビクティム・クラウス侯爵様は、オルカスト王国の中でも名門の家系に属している。私の属するルヴィンス伯爵家が嫁ぐには、勿体ないとさえ言えるだろう。だから私は、極力阻喪をしないように努めていたつもりだった。


「いやいや、お前は特に何もしてはいないさ」

「で、ではなぜ……?」


 ビクティム様は少しため息を付きながら答える。

「私ほどの名門の家系のトップに立つ者が、伯爵家でしかないルヴィンス家と婚約するのはどうかと思ってな。お前の家系も決して身分の低い家系ではないが……」

「は、はい……しかし、婚約をしてくださったのは、事実でございましょう?」

「うむ、だが私は真実の愛に目覚めてしまったのだ。隣国……デルトーイ王国の第一王女、メリア・デルトーイ殿と婚約が決まりそうでな」

「め、メリア・デルトーイ様……!?」

「その通りだ」

 ビクティム様はどこか誇らしげだった。確かに、隣国の王女様と婚約が内定すれば、大きな功績ではあるけれど……その為に、私は捨てられると言うの……? そんな……。


「お待ちください、ビクティム様……! 私との婚約を破棄する理由としては、あまりにも急すぎます! どうか、お考え直しを!」

「うるさい奴だな……メリットを考えろ。メリアと婚約する方が、オルカスト王国にとっても、非常に重要なことではないか……もちろん、我が家系にとってもな」

「そんな……!」

「まあ、お前は器量も悪くないのだし、適当な貴族と婚約し直すんだな。お前が誘惑すれば、2~3家系は釣れるだろう?」


「……!」


 この真剣な雰囲気でのセクハラめいた発言……信じられない。これが、私が信頼したお方の正体だったと言うの? 男性経験のない私の目は節穴でしかなかった……?

 その後、ビクティム様は私とは話す気がないとばかりに、私を屋敷の外へと締め出してしまわれた。私は放心状態でその場に立ち尽くす以外にない……。


「お嬢様……お気持ちは重々承知しておりますが……一度、貴族街の邸宅へ戻られては如何でしょうか?」

「ええ……お願いするわ」

「畏まりました」


 私は執事のアラベスクに諭され、馬車に乗り込んだ。そして、そのまま私を乗せた馬車は自宅へと走って行くのだった……。
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