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2話 アーリアの婚約破棄 その2

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「ミルザ……」

「申し訳ありません、お嬢様。本来であれば、執事の身でお聞きするものではなかったのですが……」


 執事のミルザは紫色の長髪を清潔に後ろで束ねている。その束ねた髪の毛が前側に来るほどの勢いで、彼は頭を下げていた。とても反省しているのが伺える。

 彼の名前はミルザ・アイローク。年齢は21歳だったかな? 年下だけどほぼ同年代……いいのよ、同年代で。2つの差なんて20歳超えたら大した差じゃないんだから。

 2年くらい前にお父様の紹介で、私の専属の執事になった。紫の長髪と180センチを超える長身、さらにエメラルドグリーンの瞳が特徴の二枚目。外見だけじゃなく、気配りとかも出来るので私とすぐに打ち解けてくれたわね。


「婚約破棄された直後に来てくれるとか……さすがは、ミルザね……すごいわ……」

「ありがとうございます。私はお嬢様の執事でございますので。お嬢様からの称賛のお言葉は何よりの光栄であります!」


 やや軍隊形式の態度が合わないときもあるけれど、私はミルザに恋をしてしまったんだと思う。でも……オズウェル王国では、貴族と平民との婚約は許されるものではない。それをしちゃうと、下手をすると投獄される程に不名誉なこと……だから、私は想いを告げることができなかった。


 はあ……まあ、いまさらなことではあるんだけれど……。


「ジルド・スヴェン様の行ったことは、オズウェル王国の法に照らし合わせても、決して許されることではありません……!」

「ありがと、ミルザ。そう言ってくれるのはあなただけだわ」


 そう……侯爵家以上の上流階級で構成された元老院に直談判すれば、ジルド様の罪を問える案件だとは思うけれど……でも、サローナ家の存続を第一に考えているお父様が承諾するとは思えないわね。それに、婚期を何年も逃した私の言うことなんて聞いてくれるわけないし……。今回の婚約破棄もどれだけ叱られることか……なんだか、憂鬱になってきたわ。


「お嬢様、ご心配なさらないでください」

「ミルザ……?」

「婚期など気にする必要はありません! 私はいつまでもお嬢様のお傍に居ますので!」


 その瞬間、私からの強烈なビンタがミルザの頬を消し飛ばした。いえ、消し飛ばしてはいないけれど。まったく……ミルザは少し、天然なところもあるんだったわね。すっかり忘れてたわ……でも、いつの間にか元気が戻って来ていた。
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