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11話 シェリーの義務 その1
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私の部屋に入ってきた妹のシェリーは異様な雰囲気を感じつつも、いつも通りの口調で言い放った。
「お父様、どうなりましたか? ちゃんと説得してくれましたよね?」
……ある意味で肝っ玉の強い子だと言えるかな。当然、お父様やお母様は首を横に振っている。
「えっ? どういうことですか? ウィリアム様との関係についてはこれからだとしても、ミゼル・コーンス侯爵とは婚約解消できるはずですが……?」
どこからそんな約束が出て来たのよ……私も無理だって、さっき言ったばかりだし。きっと、最初にシェリーが両親に助けを求めた時に、お父様が任せておけとでも言ったのでしょうね。シェリーはただただ、困惑しているようだった。
「シェリー、私も言ったけれど、ミゼル様との婚約解消なんて無理よ。さっきも言ったでしょ?」
「そういうことだ、シェリー。今回はお姉ちゃんの言うことを聞きかなさい」
今回はって何かしら? しかも、私が首謀者みたいな言い回しだし……シェリーを教育しないといけないのはお父様なのに。
「ど、どうしてですか? どうして、お父様はそんなことを言うのですか!? 今まではずっと、私の言うことを聞いてくれていたのに!」
「シェリー……ウィリアム公爵令息の御前でもあるわ。少し落ち着いて、ね?」
「お母様までそんなことを……ウィリアム公爵令息は関係ないじゃないですかっ!」
シェリーはお母様の言葉もまったく通用していなかった。ウィリアム公爵令息は確かに今は関係ないけれど、彼の前であなたが喚き散らすのは、イグリオ家としては困るのよ。でも、そんなことを言っても今のシェリーには通用しないだろう。彼女は涙を浮かべ始めて、今にも泣きだしそうになっていたからだ。
「シェリー、今まで我が儘のみで生きて来たツケが回って来たのよ。あなたはこれから、自分の努力でミゼル・コーンス侯爵様のご期待に添うような妻にならないといけないわ」
「わ、私の努力だけで……? そんな……!?」
「仕方ないことよ、貴方が選んだことなんだから」
私の言い分に対して、ウィリアムやお父様達が何かを言ってくることはなかった。正論だということを確信できる。
「そんな……。でも、私、書類整理なんて出来ないし、他の貴族達とは今までは適当に話を合わせていただけだし……! 侯爵家の御眼鏡に適う妻になんて、なれるわけが……!」
シェリーは自分の立ち位置を正確に把握しているようだった。自分が使えない人間だということを理解しているようだ。でも、私から言ってあげられることは1つしかない。
「頑張ってね、シェリー。私は貴族としての嗜みや勉学を10年以上かけて身体に馴染ませてきたわ」
「じゅ、10年……!?」
シェリーはとても驚いている。ようやく分かったか、自分が今までどれだけ我が儘で努力を避けてきたのか。これから彼女は大変だろう。本来は幼少の頃から徐々に学んでいく礼儀作法などを、数カ月の間に叩きこまれることになるんだから。
「10倍努力すればすぐに追いつけるわよ。頑張ってね、シェリー!」
「ね、姉さま……」
彼女はあまりの事態に放心しているようだった。でも、そんなこと私には関係ない。彼女はやるべきことをやらなければならない。貴族社会に甘えなんて許されないんだから。
気のせいか、お父様もお母様も放心しているように見えるけど、ウィリアムだけは苦笑いになっていた。
「お父様、どうなりましたか? ちゃんと説得してくれましたよね?」
……ある意味で肝っ玉の強い子だと言えるかな。当然、お父様やお母様は首を横に振っている。
「えっ? どういうことですか? ウィリアム様との関係についてはこれからだとしても、ミゼル・コーンス侯爵とは婚約解消できるはずですが……?」
どこからそんな約束が出て来たのよ……私も無理だって、さっき言ったばかりだし。きっと、最初にシェリーが両親に助けを求めた時に、お父様が任せておけとでも言ったのでしょうね。シェリーはただただ、困惑しているようだった。
「シェリー、私も言ったけれど、ミゼル様との婚約解消なんて無理よ。さっきも言ったでしょ?」
「そういうことだ、シェリー。今回はお姉ちゃんの言うことを聞きかなさい」
今回はって何かしら? しかも、私が首謀者みたいな言い回しだし……シェリーを教育しないといけないのはお父様なのに。
「ど、どうしてですか? どうして、お父様はそんなことを言うのですか!? 今まではずっと、私の言うことを聞いてくれていたのに!」
「シェリー……ウィリアム公爵令息の御前でもあるわ。少し落ち着いて、ね?」
「お母様までそんなことを……ウィリアム公爵令息は関係ないじゃないですかっ!」
シェリーはお母様の言葉もまったく通用していなかった。ウィリアム公爵令息は確かに今は関係ないけれど、彼の前であなたが喚き散らすのは、イグリオ家としては困るのよ。でも、そんなことを言っても今のシェリーには通用しないだろう。彼女は涙を浮かべ始めて、今にも泣きだしそうになっていたからだ。
「シェリー、今まで我が儘のみで生きて来たツケが回って来たのよ。あなたはこれから、自分の努力でミゼル・コーンス侯爵様のご期待に添うような妻にならないといけないわ」
「わ、私の努力だけで……? そんな……!?」
「仕方ないことよ、貴方が選んだことなんだから」
私の言い分に対して、ウィリアムやお父様達が何かを言ってくることはなかった。正論だということを確信できる。
「そんな……。でも、私、書類整理なんて出来ないし、他の貴族達とは今までは適当に話を合わせていただけだし……! 侯爵家の御眼鏡に適う妻になんて、なれるわけが……!」
シェリーは自分の立ち位置を正確に把握しているようだった。自分が使えない人間だということを理解しているようだ。でも、私から言ってあげられることは1つしかない。
「頑張ってね、シェリー。私は貴族としての嗜みや勉学を10年以上かけて身体に馴染ませてきたわ」
「じゅ、10年……!?」
シェリーはとても驚いている。ようやく分かったか、自分が今までどれだけ我が儘で努力を避けてきたのか。これから彼女は大変だろう。本来は幼少の頃から徐々に学んでいく礼儀作法などを、数カ月の間に叩きこまれることになるんだから。
「10倍努力すればすぐに追いつけるわよ。頑張ってね、シェリー!」
「ね、姉さま……」
彼女はあまりの事態に放心しているようだった。でも、そんなこと私には関係ない。彼女はやるべきことをやらなければならない。貴族社会に甘えなんて許されないんだから。
気のせいか、お父様もお母様も放心しているように見えるけど、ウィリアムだけは苦笑いになっていた。
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