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1話 突然、婚約破棄をされた
しおりを挟む「レンネ、お前との婚約は今日までだ」
「タイラー様? ど、どういうことですか……!?」
私は豪農家系の長男である、タイラー・ヘンブリッジ様にそのように言われてしまった。意味が分からずついて行けていない。私はリハル村出身のレンネ・ホールド。数カ月前にタイラー様との婚約が決まり、一家で喜んでいた。
恋愛結婚ではないけれど、豪農の家系であるヘンブリッジ家と関係が生まれるのはとても良いことだったからだ。
「私が何かしてしまったでしょうか?」
「いや、お前は何もしていない。ただ、私はルアナ子爵令嬢と婚約が決まっているのでな。お前は必要なくなったと言うことだ」
「そ、そんな……そんな急に言われても……!」
子爵令嬢との婚約が決まったからと言って、急に婚約破棄をされても困ってしまう。母さんや父さんは私の婚約をあんなに喜んでくれていたんだから。婚約破棄になったと知ったらどれだけ悲しむだろうか。そんな悲しみを負わせたくはなかった。
「納得できません、タイラー様! どうかお考え直しください!」
「無駄だ、お前の反論は一切聞くつもりはない」
「そ、そんな……!」
タイラー様は私に目を合わせることすらしていなかった。私の感情など無視しているかのようだ。
「それから、婚約破棄の際に発生する慰謝料だが……」
「慰謝料でございますか?」
「ああ、それについても一切支払うつもりはない」
「な、なんですって!? そんなことが許されるわけが……」
身勝手な婚約破棄をしておいて、慰謝料を支払わないなんて許されるわけがない。私は猛反論しようとしたけれど……。
「出来るんだよ、それが豪農とただの村人との違いだな。私の家はそれだけの権力を持っているということだ。お前の家からの抗議など、簡単に潰すことができる」
「……うっ!」
猛反論は逆効果でしかない……私はそう直感してしまった。私がここで抗議すれば抗議するほど、母さん達に迷惑が掛かるのは明白だろう。これでは私は何も言い返せない……。
そんな私を見てタイラー様はニヤリと笑っていた。
「そんなわけだ、レンネ。今までご苦労だったな。明日からは他人同士になるが、まあ、お前なら別の男を見つけることが出来るだろう。」
「タイラー様……」
私の声はタイラー様には届かない。そのように確信した瞬間だった。私はこれからどうすれば良いのだろう? 豪農の家系から婚約破棄という不名誉を受け、故郷のリハル村に戻ることになるのだ。こんな私を貰ってくれる人なんて現れるのだろうか……?
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