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2話 リハル村
しおりを挟む「レンネ……婚約破棄とは……何と言ったら良いのか」
「ごめんなさい、父さん……期待に応えられなかった」
「バカなことを言うな! お前はしっかりとやってくれたよ! むしろ、タイラー様と結婚しなくて良かったくらいだ」
「お父さんの言う通りよ、レンネ。貴方は身体を捧げる前に婚約破棄が出来て良かったの。あんな人と一緒になってたら大変だったんだから」
「父さん、母さん……ありがとう」
「むしろ、私達がお前をタイラー様の元に送ってしまい罪があるくらいだ」
「いや、そんなことは……」
父さんも母さんも私を責めることは一切なかった。二人の優しさは私の悲しみを和らげてくれるのには十分だった。完全に悲しみが消えるわけではないけれど……随分と落ち着いた気がするわ。
「タイラー・ヘンブリッジ様……豪農の家系だけれど、見損なったよ」
「本当にな……レンネちゃんはあんな男と別れられて良かったと思うよ」
「皆さん……」
リハル村の人々は皆、私に同情してくれていた。婚約が決まった時にはお祝いをしてくれた仲だから、申し訳ない気持ちもあるけれど、温かい言葉はとても嬉しかった。
皆の優しさに報いるためにも、私は一刻も早く元気にならないといけないわね。こんなに優しい味方が大勢いてくれるんだから、悲しみからの脱却は意外と早く済むはず。
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それから1週間くらいが経過した。私は婚約破棄のことを忘れるように農作業を行っている。私の家であるホールド家は農業で主に生計を立てているのだ。私もその手伝いに戻っているのだけれど、稼ぎの一部をヘンブリッジ家に納めなければならないのは物凄く嫌だった……まあ、仕方ないことなんだけれど。
農業は重労働ではあるけれど、昔から行っているのでそこまで苦ではない。ただ、ヘンブリッジ家に行っていた期間はブランクになるので最初はきつかったけれど。1週間もすれば慣れてしまった。
「レンネ、あの馬車なんだが……気にならないか?」
「えっ、父さん?」
一緒に働いていた父さんが遠方に見える馬車に注視していた。私もそちらに視線を向けるけれど……あれ? 妙に見覚えがあるような。豪華なその馬車はゆっくりとではあるけれど、確実に私達に向かっているようだった。
「レンネ……あの馬車ってもしかして……」
「父さん?」
「覚えていないか? 領主様であるアレック・セルゲイ伯爵の馬車ではないかな?」
「あ、アレック……!? え、ええ……?」
アレックと言えば伯爵令息であり、私の幼馴染でもある。最近は領主として伯爵になったと聞いてはいたけれど……え、まさか本物なの?
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