2 / 3
2話 リハル村
しおりを挟む「レンネ……婚約破棄とは……何と言ったら良いのか」
「ごめんなさい、父さん……期待に応えられなかった」
「バカなことを言うな! お前はしっかりとやってくれたよ! むしろ、タイラー様と結婚しなくて良かったくらいだ」
「お父さんの言う通りよ、レンネ。貴方は身体を捧げる前に婚約破棄が出来て良かったの。あんな人と一緒になってたら大変だったんだから」
「父さん、母さん……ありがとう」
「むしろ、私達がお前をタイラー様の元に送ってしまい罪があるくらいだ」
「いや、そんなことは……」
父さんも母さんも私を責めることは一切なかった。二人の優しさは私の悲しみを和らげてくれるのには十分だった。完全に悲しみが消えるわけではないけれど……随分と落ち着いた気がするわ。
「タイラー・ヘンブリッジ様……豪農の家系だけれど、見損なったよ」
「本当にな……レンネちゃんはあんな男と別れられて良かったと思うよ」
「皆さん……」
リハル村の人々は皆、私に同情してくれていた。婚約が決まった時にはお祝いをしてくれた仲だから、申し訳ない気持ちもあるけれど、温かい言葉はとても嬉しかった。
皆の優しさに報いるためにも、私は一刻も早く元気にならないといけないわね。こんなに優しい味方が大勢いてくれるんだから、悲しみからの脱却は意外と早く済むはず。
-----------------------
それから1週間くらいが経過した。私は婚約破棄のことを忘れるように農作業を行っている。私の家であるホールド家は農業で主に生計を立てているのだ。私もその手伝いに戻っているのだけれど、稼ぎの一部をヘンブリッジ家に納めなければならないのは物凄く嫌だった……まあ、仕方ないことなんだけれど。
農業は重労働ではあるけれど、昔から行っているのでそこまで苦ではない。ただ、ヘンブリッジ家に行っていた期間はブランクになるので最初はきつかったけれど。1週間もすれば慣れてしまった。
「レンネ、あの馬車なんだが……気にならないか?」
「えっ、父さん?」
一緒に働いていた父さんが遠方に見える馬車に注視していた。私もそちらに視線を向けるけれど……あれ? 妙に見覚えがあるような。豪華なその馬車はゆっくりとではあるけれど、確実に私達に向かっているようだった。
「レンネ……あの馬車ってもしかして……」
「父さん?」
「覚えていないか? 領主様であるアレック・セルゲイ伯爵の馬車ではないかな?」
「あ、アレック……!? え、ええ……?」
アレックと言えば伯爵令息であり、私の幼馴染でもある。最近は領主として伯爵になったと聞いてはいたけれど……え、まさか本物なの?
10
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~
銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。
自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。
そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。
テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。
その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!?
はたして、物語の結末は――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる