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4話 アンバスの綻び
しおりを挟む(アンバス・バルバドイ侯爵視点)
「ん? どういうことだ……?」
「は、はい……何と申し上げて良いのやら……」
執事のワール・シュタットからの発言を受けて私は困惑していた。何でも文書作成に問題が生じているようだ。
「文書作成に問題が生じているということは、歴史書の制作にも問題が出ているのか?」
「さ、左様でございますね……歴史書の制作はメリーナ・セラスタ伯爵令嬢の協力が相当に効いていましたので……」
「まさかそんなことが……」
メリーナは確かに瞬間記憶の持ち主だった。文書作成に於いて役立っていたのは事実だろうが……あの者が居なくなっただけで、そこまでの影響が出るものなのか? 特に歴史書の制作は我が家にとっても重要な収入源となっているが……今までもかなりの販売部数を誇るのだからな。王家からの収益も期待できるものだった。
何せ、過去の文献を元に分かりやすく歴史書を作る作業だからな。作成された歴史書は貴族院などを介して新たな教科書にもなるのだ。その作成が波に乗ることは、私達の収益として非常に重要なものだと言えた。
「申し上げるのは難しいのですが、メリーナ様の瞬間記憶がなければ、柔軟な歴史書等の作成に支障が出ると思われます」
「何を言っている!? 書斎にある数々の文献を参照すれば良いのではないか?」
「それが……最近はメリーナ様の瞬間記憶に頼っていましたので、書斎にある文献を探すだけでも一苦労でございまして……」
「な、なんということだ! 馬鹿者が!」
「も、申し訳ございません……ですが、メリーナ様を追い出したのはアンバス様ご自身では……」
「なんだと!? もう一度言ってみろ!」
「い、いえ……すみません……!」
ぬう、確かにその通りではあるが、まさかそこまでメリーナの働きに頼っていたとは……改めて使用人達の無能さが分かった感じだな。
執事のワールに怒っても仕方がないか。歴史書の作成を滞らせるわけにはいかない……王家への信頼を勝ち取る為にはな。メリーナには戻って来て貰う以外にはないか。
問題はメリーナ自身が納得するかどうかだが、いざとなれば金で雇えば問題ない。それでも無理なら強引な手段に出ることもできるのだ。絶対に歴史書の作成作業はスムーズに展開してみせるぞ。
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