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6話 会話 その1
しおりを挟む「メリーナ、久しぶりだな。元気にしていたようで何よりだよ」
「は、はあ……お久しぶりですね、アンバス様……」
「どうした? なんだか元気がないようだが、具合でも悪いのか? 風邪気味なのか?」
「……」
これは何の会話なのだろうか? アンバス様は本当に私を心配しているようだったけれど、その心配が逆に怖かった。記憶喪失にでもなったのかしら?
「アンバス殿……お久しぶりですね」
「これはクレイブ・バーンフェルト公爵。お久しぶりでございます」
お互いに付き人を連れ添っての挨拶。貴族街にしてはなんだか仰々しい雰囲気だった。
「クレイブ様とこんなところでお会い出来るとは思っていませんでしたよ」
「私も同じ気持ちですよ、アンバス殿」
クレイブを前にしてもアンバス様の態度は特に変わらなかった。最低限の挨拶が完了したと判断したのか、すぐに私に視線を向け直している。
「まさかクレイブ様と知り合いだとは思わなかった。世の中は狭いというか、なんというか……」
「そ、そうですね……彼とは幼馴染の関係になります」
「なるほど、幼馴染か。私とエルザとの関係と同じというわけか」
エルザというのはきっと、伯爵令嬢のエルザ様だろう。私とクレイブの関係と同じというわけね。
あんまり気分の良いものではないけれど……。
それよりも婚約破棄をしてきたアンバス様が、普通に話し掛けている点に違和感を隠せなかった。どういうつもりなのかしら?
「時にメリーナよ。仕事には困っていないのか?」
「仕事ですか? それはもう……アンバス様に婚約破棄をされてから、舞踏会などへの出席がしにくくなっておりますので」
「やはりそうだったか」
相変わらず悪びれている様子のないアンバス様。はっきり言って会話するだけ無駄な気がしてきた。
「話がそれだけならもう行っても良いですか? 時間の無駄っぽいので……」
「まあまあ、少し待ってくれ。こうして会えたのも何かの縁だ、出来れば仕事の依頼をしたいのだが……」
「はっ?」
この人は何を言っているんだろうか……婚約破棄した相手に仕事の依頼? 正気……?
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