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19章 魔法少女と創滅神

627話 魔法少女と本領

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 アヌズレリアルの心は、かつてないほど昂っていた。それは、世界の破滅を対価にした一生に一度の感情。

 理由は単純明快。

 恐怖。創滅神として君臨したその日から初めて抱いたもの。未来がない。未来を全て否定されていた彼女は、未知数の存在に恐怖した。それと同時に、コイツを破壊してやりたいという強い意志も生まれた。

 その意志が今果たされようとしていた。

 その恐怖に終止符を打ち、世界を生まれ変わらせる。創滅神という神の名の下に、全てをまっさらに生まれ変わらせる。

 こちらが殺せば未来が消えるのなら、自ら死んでもらう。連戦による心身疲労。これは人の思考力を奪うのには十分な時間であった。

 自ずから飛び込む死は、果たして2者に何をもたらすのか。

—————————

 両腕に、全てがのる。私の足跡を辿るように見せられた景色に付随する記憶。思い出、人々、世界。

 ミシミシと嫌な音を響かせる全身に、小さな悲鳴をあげたくなりながら歯を食いしばった。
 魔法なんて効かないのは分かりきっている。使い慣れた重力を纏わせ、白い光に猛スピードで押し飛ばされながら防御を続ける。

「ぁぁぁぁぁああああっ!」
重力なんてなんの意味も成さない。叫びだけが空を切り、私の体を裂いていく光を押さえる。

 痛い……というより、熱い……?焼けるような……

 これは神炎と似た効力があるのだと悟る。しかし、今知ったところでもう遅い。そもそも、分かっていても私の知っているものとは威力の桁が違う。

 重力すら貫通し、確かな質量をもって私を裂く。魔法少女服すらも意味をなさず、焼け焦げるように消えていく。

「ぐぁ……ぁああっ!やけ、くそだあ!」
空間歩行を発動。勢いに脚が折れそうになり、思わず顔を歪める。身体激化で無理矢理堪える。

 魔力の出力が……?そうか、魔法少女服……

 ただでさえ布面積の少ない服を、制服ごと光が貫通して消し炭にしていく。
 半分近くは削れている。面積的には半裸だ。改めて認識するとめちゃくちゃ恥ずかしい。

 でもそれどころじゃない。羞恥心など二の次になるほど現状は逼迫している。

 重力の隙間を縫うように、光が漏れ始める。私の全身は血に染まっているはずだ。いや、逆に血すら蒸発してるかもしれない。それはそれで、止血の心配がなくていい。

「人の唯一の服、燃やさないでほしいん、だけど!」
「それは元は我の物だ。よかろう。」
光の奥から降ってくる声はいかにも性格の悪そうな声。

 そろそろ、本当にやばい頃か……

 全身がスースーする。他に人がいないことだけが救いだ。
 ステータスを調べれば、クソ雑魚になっていることは想像が容易い。だってもう、魔法少女服は影も形もないのだから。

「見捨てておけば、まだ生き延びられていたぞ?」
そんなことを言うが、どうせ私が突っ込むことくらい予想していたはずだ。

 やばっ……足場がっ。

 残っていた魔力が消え失せ、使っていた魔法は解けた。空中での踏ん張りは効かなくなり、宙に投げ出される。

 目の前に迫る光線。さて、どうしたものか。

「ま、手は打ってるけど。」
その一言は創滅神には届かなかったらしく、笑みを絶やさぬ顔は私の視界が白に塗りつぶされるまで入り続けていた。

—————————

「これで終わり……か。」
創滅神は太陽を仰ぎ見た。偽物の太陽。己が生み出した世界でありながら、本物を見たことはない。

 目標を滅した。
 目の前で、この手で。未来は紡がれる。
 しかし、最後まで違和感は消えなかった。現在進行形で抱え続けている。

 そんな時だった。

 にわかに魔力を感じた。

「あいつの装備は奪った……魔法は使えないはずだ。……魔力?今ここに、我以外の魔力などあるはずが……」
「あるんだよね、それが。」
「ッ!」
肩が熱い。そう思った時には、背後にソレは浮かんでいた。

「何故、生きている……!」
驚愕と激しい憤りを感じていた。まだ未来を踏み躙るのかという怒りと、なぜ殺せなかったという不甲斐なさ。

 初めての予想外、初めての混乱。初めて受けた攻撃。何かが動き出してしまっている。

「私、異世界人だから。」
対する魔法少女……今はただの少女、空は告げる。答えになっていないが、それが答えだ。

 この世界は創滅神のルールのもとで動いている。故に、全ては創滅神の予想の範疇でなければなり得ない。
 だからこそ、オリジナルが必要だった。創意工夫が。四神がそうしたように。

 だから、本物の別世界の力をぶつければいい。最強の武器。勇者の剣のように、目の前の神を殺す魔法が誕生する。

 瑠璃色の魔力光を燦々と光らせながら、未来の彼女と同じ魔導着に身を包んだ。こちらも、魔力製。

「創滅神のせいで裸ローブとかいう変態プレイするハメになったんだけど、どう責任とってくれんの?」
「…………なぜ。お前はそれほどの魔力を有してはいなかったはずだ!少量の魔力しか帯びてはいなかったはずだ……!」
「そんなん、知らないよ。」
ピシャリと言い切った。

 違和感は、この女を転生させた時からのものだったのかもしれない。

 冷や水を浴びせられ、少し正気を取り戻したまま感じる。

「我を負傷させた者は、この世界で初めてかもしれないな。」
「四神は?」
「あれはただの油断だ。勝手に侵入され、勝手に閉じ込められた。そのせいで、下界に降りれず困っている。」
「不意打ち、効くんだ。」
「もう効かない。2度も同じ手が通じるとでも思っているか?」
隙がない。ステータスも初期以下のはずだ。魔力の出どころも不明。どちらも動き出さぬ、奇妙な時間が流れるばかり。

逃げられぬ天災チェイスター。」
痺れを切らし、先に動いたのは創滅神。

 六方向の極太レーザーが、空めがけて飛来する。中程で分離し、追撃含む12撃。

「頭で思い浮かべたものが、魔法…………ウォール。」
激しい爆発とともに煙が立ち込める。それもすぐ晴れた。風が巻き起こり、視界は良好となる。

 そこに、六角形のビニールのような色をした盾がいくつか浮かんでいた。
 全て直撃を弾かれた。

「こんなもん?」
空は笑った。

「ははっ、はっはっはっはっ!」
創滅神も笑った。

「ここはあえてテンプレに沿おう。……よくも我を虚仮にしてくれたな。いいじゃないか、本気で戦ってやろう。」
そこには、今までの戦闘で見たこともない魔力の竜巻。街ごと消し飛びそうな程の。

「街、壊されると困る。」
「もう嘘だと気づいているだろう。かまととぶるなよクソガキ。」
「それにしては楽しそうだけど。」
「我の遊びについていける生物はこの世界には存在しないからな。当然だ。」
その瞬間青空が煌めいた。

 糸のように細い槍が降る。

 空はそれを視認したように、太陽を隠すように手で覆う。

 ガンッ!という鋭い音が連鎖するように鳴る。維持は難しいと判断し、危険なものだけを弾いて空中で避けることにした。

 下降し、身を翻す。避けた先の槍は弾き、その威力で弾かれながら次弾を躱す。

 少し顔を顰め、右手に魔力を込めた。小刀のような武器が握り込まれた。

動けぬまま燃え腐れシーリプカ。」
その隙を見逃さぬと言うように、鎖のような物が飛ぶ。10本、全て空を狙う。

「………っ!じゃ、まっ!」
槍を片手で防ぎつつ、小刀を振るって鎖をはたき落とす。それでも、3本は絡みついてしまう。

 右腕、右足、左足。

「さあ、ショータイムだ。」
創滅神は、何かを起動するように指を鳴らした。

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 重力で創滅神のビーム防いでたあれ、軽く説明しときましょう。

 私の記憶が正しければ光には質量があります。
 なので重力で押し返そうとしているわけですが、こちらの重力より向こうの圧力が強くて押し切られているわけです。
 でもそんなんじゃ体貫かれて死ぬので、最低限致命傷を防いで重力を展開しているんです。

 ん?それはいいとして、なんで空さんを全裸にしたかって?
 私の心が囁くんです。一回くらい剥いとけと。
 欲に負けたなどとは思わないでくださいね。本能に忠実と言ってください。
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